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第13話 ドMじゃん

 本来落ちるだけの鱗を重力を使って手裏剣みたいにするなんて……辰黄ちゃんったら考えたねぇ……あの鱗は相当堅そうだし断面も鋭い、残念ながら新悟はあっちもこっちもバラバラになるルートしかないね。


 でもなぁ……新悟がバラバラ死するのはちょっともったいないなぁ。せっかくオラが知っている人類の中で最も無様で滑稽になりそうなのに……しょうがない、ここはオラがちょっと力を貸してあげるとするか。


 そして手を掲げてやるとオラの住んでいる魂に声が聞こえてきた。


(これはヤバいですね……ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバい)


 新悟の声か…本来は魂空間に心の声は聞こえてこないはずなんだけどよっぽど強く思ってるんだろうね。響いてきてる……ったく、死の一歩直前だからって慌てすぎだよ。魂と心の壁はコンクリくらい音が響かないはずなのに聞こえてくるってどんだけなんだか。


『安心なさい新悟、オラが助けてあげる。オラなんて優しい女神なんでしょ……』


 ん?何この感じ……知らない………オラ……こんなの知らない。


「アハハハハハハハハハハハ!!!!!!」


 新悟が発した奇声と共にオラの女神的身体にヒシヒシとエネルギーの奔流が届いた。


 新悟の棒っきれみたいな身体に力が満ち満ちている……??


「すっごいですね!!!こんなに死の礫がやってくることは久しぶりですよ!!!!」


 そしては両の手を鞭のように動かしてきた。先ほどまで力を振り絞ってようやく動けていたはずなのにとても軽やかに手をしならせている……そしてそんな腕の動きで鱗を弾き落としまくっているのだ。


「アハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」


「っち……棒人間のくせに本当になんなのよあんた………でもどこまで続くかな!!??」


 辰黄ちゃんの身体から鱗が絶え間なく発射されていっている……ああそういえば昔ゲーム友達の男神君が言ってたっけ。どこぞの世界には牙でも爪でもなく無尽蔵に湧いてくる刃のような鱗で戦いをする珍しいドラゴンがいるって……なるほど、辰黄ちゃんはその末裔ってわけだ。


 だけど……こっちの方は一体どうなってるのかな?


「凄い凄い凄い!!僕死にかけてます!!!死にかけてますよ!!!!死まで紙一重ですよ!!」


 気持ちの悪いことを迫力満点の声色で発狂しそうな勢いで言ってる……肺も声帯もない身体のくせにどこからこんな声量が出てくるんだか。


 だが、いくら鬼気迫る様子であろうとしょせんは素人が適当に腕を動かしているだけ。鱗を落としきれなくなってきており、そしてやがて新悟の身体に突き立った………


 そう、突き立ったはずだ……なのに……


「いつつ…硬いですねこの鱗……良いですよ!!!命を切り取る硬さです!!」


「は?なんで……??」


 新悟の身体に突き立ったはずの鱗はあえなく棒の身体に弾かれてしまった。まるで鉄壁に弾力のないボールを投げたようだ…


 新悟の身体はさっきまでフニャフニャだったはずなのに急に硬質化しているってこと……そうか……そう言うことか。


「そろそろ行きますよ!!!」


 新悟の興奮度が上がるほどに、テンションが上がれば上がるほどそれに呼応するかのように身体がカチカチになってるんだ。死ぬほどの窮地に陥れば陥るほど硬度は上がっていく。


『ププププ、どういう身体になっちゃてるの新悟………って言うか、死にかければ死にかけるほど興奮できるってやっぱりあんた』


 オラは寝転がって口元を覆った。


『ドMじゃん』


 ~~~~~~~~~~~~


 嘘だ……なんで………なんでこいつはあたしに近づいてくる。


「いたたたたたたたた!!!!!!」


 あたしの硬くて鋭い鱗を重力で勢いよくぶち飛ばす攻撃――重鱗咆哮は効いている……間違いなく効いているはず………手ごたえも十分……なのに……どうしてこいつは倒れないの?どうして前に進んでくるの?どうしてこんなに弱々しい姿なのに……


「どうしましたか?このくらいじゃ僕の歩みは止められませんよ」


「あっ…くっ………」


 あたしはこんな奴に恐怖をしているの?


 あたしは強い……これまで由良江様からもらった『重力』(新悟と由良江は引かれあう)とこの一族の誰よりも硬くて鋭い鱗を使ってありとあらゆる奴を倒してきた……あたしより明確に強かったのなんて由良江様くらいのものなのに………


「もう手札は全部切ってしまったようですね………さて、それじゃあお説教の時間ですよ」


 あたしは皆から期待されてきた。あたしは誰より賞賛を受けてきた。あたしは誰より人の上に立つのに相応しい人間……だから巫女になって、そして神になるのに一番相応しいのはあたし……


「五月蠅い!!!!あたしはまだ終わってない!!!!」


 そもそも由良江様があたしを巫女に選ばなかったのが何かの間違いなんだ。間違いを正すために雑魚カラスから巫女の座を取り戻すだけ……あたしは間違ってない………


 こんなところで、こんな棒人間に邪魔されるのはあたしじゃない!!!!


「うおらららら!!!!!!!」


 思いっきり、ありったけの鱗を発射してやった。堅牢な城をぶっ壊したこともある圧倒的な質量攻撃だ……


 なのに


「捕まえましたよ」


「はっ……」


 なんでこいつは倒れない?なんであたしの腕を掴めるの??


「辰黄さんと言いましたね。もうお転婆はお止めなさい。

 しっかりと烏乃さんに謝り、こんな理不尽且つ無理やりな方法で巫女の座を奪い取ろうなんて真似は金輪際しないと誓ってください!!!」


 腕から伝わる棒人間の弱々しい力を感じる……あたしには到底かなうはずもない雑魚そのものの力………


「なん………で……」


 あたしの視界が醜くにじみ、由良江様の言葉が浮かび上がってきた。


~~~~~~~~~~~~


『へー、あんたって強いのね辰黄……でも、いくら暴力が強かろうとあたしに勝とうなんて無理無理』


 由良江様はあたしの人生で初めて現れた手も足も出ない相手だった。あたしの前でふわりと浮かんだ由良江様は美しい顔を緩める。


『だってあんたには愛が足りてないもの』


『愛?そんなもので強くなるわけないじゃない……』


『反証がここにいるのによくそんなこと言えるわね。ま、いきなり分かれってのも難しい話か、あんた頭硬そうだし』


 由良江様は自分でつけたあたしの傷をすっかり治した後に手を差し伸べてきた。


『あんた面白そうだしあたしの作る新世界にこない?そこで愛の力を思い知ればあんたはきっともっと強くなれるわよ』


~~~~~~~~~~~~


 愛の力って何?この棒人間がそれを持っているとでも言うの?こんな弱い奴が?こんな力無き雑魚が?スキルの一つも持っていない出来損ないが?


…あり得ない………あり得ない…


 あり得ちゃいけない!!!!


「がぁぁぁぁぁぁ!!!!!」


 それはあたしに残った最後の力だった。掴まれた棒の手を振りほどいて壁に穴をぶち空ける。


「棒人間!!!今度会う時は絶対にぶっ潰す!!!絶対にぶっ潰してやるから!!!」


 視界はまだ滲んでいる。だけど、あたしの耳はその言葉をハッキリと捉えた。


「望むところです。ただし、弱い者いじめはもう止めてくださいね。

 そして、次の機会こそはしっかりお説教をさせてもらいますよ」


 …お説教…?………なんなのよ………本当にこいつは………


 くそっ……


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