あたしは天賦の才を持っている…あたしはもちろん、世界中にいるモブどもや新悟でさえも認めている絶対的な事実である。
それが『創造』(新悟との愛の結晶)と言うスキルまで持っているのだから正直言ってあたしに勝てる奴など存在しない……実際にあたしが聖女として訪れた最初の異世界ではそこで絶対的な恐怖の支配者として君臨していた魔王をいとも簡単に倒したのだ。
「喰らえ、鬼畜聖女が!!」
そんな魔王軍の残党があたしを追ってこの世界まで来た。なんとも健気な連中よね。
三人いるうちの一番歳を喰ってそうなおじさん魔族が手を挙げると巨大な岩石が現れた。月並みな表現をすると東京ドーム1個分くらいだろうか?それがちょっとした隕石並みのスピードであたしに襲ってくる。
「土の魔、隕岩衝(いんがんしょう)!!!!」
空を裂きながらあたしの肌にそれは触れた。
ドゴンッ!!!!
「乙女の柔肌にこんなもんぶつけるんじゃないわよ」
「なっ!!??」
それをあたしは豆腐を潰すようにぶち壊す。
「ほら、もっともっと来なさい。あんたらの全部をぶつけても到底かなわない相手なんだから全員が120パーセントを使わないと傷一つ与えられないわよ」
「くっ、くそ!!」
女の魔族と青年くらいの見た目の男の魔族が手を重ねた。その二人の前に台風のように激しい勢いの風がどんどん圧縮されていく。シュッシュっと風切り音があたしの耳を揺らした。そしてそんな風の塊に青い炎が付与される……風の勢いで炎はどんどん激しさを増していく。
「風で炎の勢いを激しくさせる……原始人でも思いつきそうな工夫ね」
「黙れ!!魔王様の待つ地獄へ送る炎風に抱かれるが良い!!!」
火の粉が舞い落ち、下にあった森に炎が灯る。もともと油でも撒かれていたかのように瞬時に青い炎が燃え広がり一面火の海となってしまった。
「あら綺麗ね」
「その余裕もここまでだ!!」
青い炎……ああそうだわ、今度新悟と再会した時はたくさんの花火でもあげようかしら。そして新悟からあんた花火よりも由良江の方が綺麗だよって言ってもらうの……ふふふ。
「くらえぇぇ!!!」
そんな妄想に浸っているといつの間にか炎風があたしの目前まで迫っていた。熱いわね…ま、あたしの新悟への想いの熱さに比べればカイロレベルにもなってないんだけど。
パチンっと指をならしてやるとその炎風は瞬時にかき消えた。男たちの目がひろがっていく。
「なにを……した?」
「あんたらが知っているかは知らないけれどこの世界はあたしが創造したものなのよ。そして創造したものはあたしの支配下に……」
空気が切れる感触が肌を襲った。ふと見るとおじさん魔族があたしの懐に入り込んできているではないか。手をやたらと硬そうな岩で覆っている。
「隙ありだ!!」
拳はあたしの腹に吸い込まれていき……そして
スカッ
見事に何もない空間を殴った。
「なっ!!??」
「『瞬間移動』(新悟の下へ早く行きたい)あんたがどれだけ早く動こうと、点と点の素早さには勝てないわよ。
さて、どこまで話したかしら?ああそうそう、炎風が瞬時に消えたことについてだったわね。風にも炎にもともに空気が必要、だから空気をあたしの前から消しただけ……」
新たに二つの気配が超高速であたしの身体に向かってきている。
「はぁ……ったく、せっかく新悟が大好きなバトル漫画の不文律にのっとって手の内を明かしてあげてるんだから聞きなさいよ。人の話を聞かない奴は、恋もバトルも上手く行かない物よ」
次の刹那、あたしの身体に向かって三人がかりのインファイトが始まった。6つの拳に時折挟まる岩、風、炎の能力があたしの命を正確かつ激烈に狙ってくる。
ドゴンッ!!!ドゴンッ!!!と地面や岩壁たちに大きな衝撃が伝わり、どんどん周りの地形が変わっていくがしかし、あたしの身体は新悟の為に磨き上げた全世界で一番清くて美しいもののまま変わりはしない。
「なんで……なんであたりもしない!!!」
「……くっ、お前ら……こうなったら………あれだ!!」
三人が距離を取り、そして魔力を全く同じ場所に集めだした。
「あら?最後の奥義かしら?」
「鬼畜聖女!!これは私たちが貴様を屠るために用意したとっておきだ!!必ず……必ず魔王様の仇をうってやるぞ!!!!」
荒々しい感情の嵐……あの魔王のどこにそんな魅力があったのか知らないけれど……まぁいいわ。
「やれるもんならやって見なさい。あんたらの想い、逃げも隠れもせずに受けきってあげるわ」
新悟なら、相手の想いがどんな理不尽なものでも決して逃げたりしない……だからあたしもそうする………ふふふ。
ああ、あたしったらなんて新悟想いなんでしょう。こんないい女絶対に逃がしちゃだめよ新悟。
三つの魔力がドンドン重なり合っていく、複雑かつ多層的に混ざり合い、そして一つの球が産まれた。普通の人間が受ければ細胞の一つも残らず消し去りそうな一撃である。
「………喰らえ………我らが最大奥義を!!!」
目にも見えない速さでそれは打ち出された。通る部分の世界が削れていきそうな圧倒的な威力……
でも………言ったでしょう。
「受け止めてあげるわ」
あたしに触れたと同時にそれをギュッとハグをしてあげた。ギュギュギュギュギュっと妙な音を立てながら徐々にエネルギーが無くなっていき、そして消滅した。
「……ふぅっ、こんなもんね」
「……そ、そんな……」
「なんで……私たちの最大奥義がまるで堪えていないなんて……」
「鬼畜聖女、貴様何をした!!!??」
「見ての通り優しく抱きしめてあげただけよ……
『無限の愛』(新悟への想い)、新悟への愛の大きさに比例してあたしのフィジカル、タフネスといったものから免疫力なんかに至るまで、とにかくありとあらゆる能力が上がるスキルを帯びたこの身体でね」
「新悟への愛の大きさに比例して……だと………」
「ま、何が言いたいかって言えばね」
あたしは世界一の美少女のスマイルを敵討ちに異世界までやってきた忠臣たちに特別に見せてあげた。
「あんたらの想いより、あたしの新悟への想いの方が圧倒的なまでに大きかったから奥義とやらでも傷一つ受けなかったってわけよ………さーて、万策尽きたかしら………だったらそろそろ終わりにしましょう」
そうして少し近づくと青年魔族がにわかに笑った。
「はっはっはっはっは!!!調子に乗るのもそこまでだぞ鬼畜聖女よ!!!!」
「どういうこと?」
「我々はただの先兵にすぎん……貴様を倒すのは魔王様の娘であらせられる方だ……さぁ、出てきてください!!!そして鬼畜聖女の首を魔王様に捧げるのです!!!!」
その声は辺り一面にこだました………そう、こだまだけをした。
「あれ??マーチェ様!?マーチェ様ぁぁ!!??どこにいらっしゃるのですか!!??もういいんですよ!!!出てきてください、そして貴方様の力で鬼畜聖女の首を………マーチェ様ぁぁ!!!!???」
一応周りの気配を探ってみたけれど、こいつら以外に魔族の気配はない………と、言うことは。
「そいつ、逃げてるわね」
「「「えええぇぇぇぇぇぇ!!!!!?????」」」
息ピッタリな三人を取り合えず拘束したあたしは地下に監禁しておくことにした。
「にしてもマーチェねぇ……この世界に異物が紛れてるってことかしら?」
「探しましょうか?」
「どうでもいいわ。それよりパルーチェ、引き続き新悟を全力で探しなさい!!!」
「かしこまりました」
あたしは新悟の下着を抱きしめながら空を眺めた。
「新悟、今のあたしなら全ての世界のどんな相手からでも貴方を守れる……改めて確信したわ。
だから、早くあたしの夫となり、この世界の神になってちょうだい」