「ここは……」
僕たちは烏乃さんの愛刀『夜鳴』に導かれる方向に歩いていきました……そして『新悟愛してる町』と言うどういう顔で作ったんだと言わざるを得ない看板と新悟愛してる町に到着したのです。門には僕と由良江の姿が絡み合っている様子が描かれているではありませんか。
「ああ……もう………」
僕はその看板と門を見たと同時にその場に崩れ落ちました。
『ケラケラケラケラ!!!流石は由良江ちゃんお手製の世界だね、新悟だけじゃなく彼女の趣味も存分に反映されてるみたい』
ははは、そうですねぇ……
「大丈夫ですか新悟様?」
「はい、唐突に羞恥心を大砲でぶち抜かれただけです……まぁなんにせよ町にたどり着いたんですから一旦ここで休憩をとるとしましょう……ついでに黄昏の寝室についての情報収集も行うとしましょうか……」
「そうですね」
そして僕が立ち上がろうとしたとき、RPGに出てくる町娘と言った風体の少女がこちらに駆け寄ってきました。そのまま少女は烏乃さんの方をジーっと見つめます。
「ど、どうした?私に何か変なところあったか?」
「あ、申し訳ありません……しかしその……その胸元に光る宝石はもしかして『巫女の証』ですか?」
烏乃さんの胸元で青く光る宝石を見て恐る恐ると言った様子でそう口にしました。
「ああ、由良江様からいただいた大切な…」
途端に町娘さんは頭を下げてきました。
「ようこそおいでくださいました巫女様!!どうぞごゆるりと!!」
ざわめきたっていた町の中でもその声はとてもよく通り、門の近くにいた人たちがこちらの方を見てきます。
「えっ?はっ??」
「巫女様?」
「巫女様がいらっしゃったの!?」
「マジかよおい」
街中で推しの芸能人と出会った方のように…いえ、それ以上とさえ思える熱狂と共に人の波がこちらに押し寄せてくるではないですか。
「うぉぉぉ!本当だ、巫女の証をもってらっしゃるぞ!!」
「どうぞ、こちらの方へ歓迎いたしますぞ!!」
何ですかこれ?と困惑する僕ですが、巫女として唐突に大歓迎を受けている烏乃さんはそれよりさらに慌てふためいている様子です。
『すっごい人気だね……新悟大好き町なのに新悟ガン無視されてるじゃん』
『そんなことはどうでもいいんですよ……っていうか僕だって分かってないでしょうし。それより巫女って言うのは凄い人気みたいですね』
『うんっ。オラも予想外だよ……』
メーちゃんは口角を上げてほくそ笑みます。
『結構おもしろいじゃん』
~~~~~~~~~~~~
それから数十分後、一通りの熱狂も落ち着いた僕たちはとある宿の一室にいました。
「すっごい豪華ですね」
「はい、申し訳なくなりますね」
どこぞの高級ホテルのスイートルームに匹敵しそうなほどに豪華な一室です。雲のようにふんわりとしたソファに5人くらい一緒に寝れそうな大きなベッド、英国貴族が使っていそうな品の良いティーセット、そして大量に置かれている漫画……
「どうやらこの町の人にとって由良江様と新悟様はもちろん、由良江様が選んだ巫女の地位もかなりの場所にあるようです」
「みたいですね……それで一つ相談があるんですが良いですか?」
「はいっ、何なりと」
この町に来て、あの恥じらいのない看板と門を見たと同時に思ったことがあります。
「僕が神楽坂新悟であることは隠しておいた方がいいと思うんです」
「え?」
「由良江の奴は僕が思った以上の人気者になっているのは分かりました。そしておそらく僕の人気や知名度もこの世界では相当なものになっているでしょう」
そんな人気望んでいないんですが……まぁなっているものは仕方ありません。
「それに先ほどチラリと聞いたんですが由良江のやつは僕のことを探し回っているようなんです」
「え?どうしてですか?」
「まぁそこは聞かないでください………」
『痴話喧嘩中だから帰りにくいって言えばいいじゃんか』
『痴話喧嘩なんて一生する気はないですよ』
「とにかく僕が神楽坂新悟であることは隠しておいて欲しいんですよ。だから烏乃さんも僕に対しても他の人と同じように接して欲しいんです」
「え……でもそんなこと………」
「お願いします」
両の手を(まぁ手と言えるほど立派なものはないんですが)合わせて頼み込むと烏乃さんはしばらく逡巡したあとに渋々と言った様子で「分かりました、善処します」と言ってくださいました。
「しかしだとしたらどうお呼びすれば……じゃなくて………えっと………どう呼べばいいんだ?」
「そうですね……まぁとりあえず………」
『棒人間だしボーちゃんでよくない。オラのメーちゃんと似た感じになるしさ』
「ボーちゃんでお願いします」
「ボーちゃんですね……分かりまし……じゃなくて承知した」
あはは、烏乃さんが慣れてくれるのはしばらくかかりそうですね………
その時、僕たちの部屋のドアが激しくノックをされます。
「巫女様!!巫女様大変です!!!」
「ん?どうした!!??」
ドアを開けると、先ほどの町娘の人がいました。かなり慌てた様子で烏乃さんの肩に手を置いた。
「大変です!!化け物が……化け物がこの町にやってきました!!町を壊しながら暴れています」
なっ!?
「化け物?どういうことですか?この世界は由良江様が創造された世界、そんな化け物がいるはずが……」
「でもいるんです!!このタイミングで巫女様がいたのも由良江様のお導き、退治をしてください!!!」
「わ、分かった!!今すぐその場所まで案内を頼むぞ!!」
「はいっ、こちらです!!!」
そして僕たちは町娘さんの後を追ったのでした。