僕たちが町娘さんの案内で化け物が暴れているという場所に現着した時は、既に人たちは避難した後のようでした。
建物を壊しながら無軌道に暴れているあれが化け物なのでしょう……しかし……これは…怪物とか化け物とか言うからてっきりデイダラボッチとかサイクロプスとかそういう見るからに強いものを想像していました……でもあれですね。大きさはざっくり2メートルちょっとくらいでまぁ大きいっちゃ大きいんですけれど……
『まさか、全身に触手のようなものが生えているスライムみたいなモンスターとは…オラ、予想外だったぞ。
にしてもあれだねぇ……新悟…じゃなかった。ボーちゃんが夜な夜な読んでいるエッチな漫画に出てきそうな見た目だね。こりゃぁ強敵に違いないよ!!』
『読んでませんよ!!僕そう言う本一回も読んだことないですよ!!!』
『え~~~じゃあオラどこでこういういかにもたこにも女の子の身体をまさぐって服の隙間からヌルヌルした触手を這いまわらせる見た目のモンスターを見たんだっけ……
10万でオラの太ももを触らせてほしいと土下座してきた男神友達のユーくんのところだったっけ?いや、神通眼を使ってオラの谷間を3年間見つめ続けていたオープンスケベのターくん……?ひょっとして女神友達でことあるごとにオラの服を脱がそうとしてきたマーちゃんだったっけ?』
ろくな神様がいない……
『そんな友達ばっかりでいいんですか?』
『あっはっは、まぁ類は友を呼ぶからねぇ』
どこか抜けた気分になっていると烏乃さんが険しい顔で前にでました。
「しん……ボーちゃん様、ここは私にお任せくださ…任せろ」
「あの、ここは僕が何とかしますから烏乃さんは一旦下がって」
「いいえ、これは私の前に現れた試練だ。私がやらなきゃいけない」
見ている視線が斬れてしまいそうなほどに真剣なまなざし……烏乃さんは本気で黒烏の巫女となり、そして由良江を超える覚悟を決めているようですね………それ自体はとてつもなく素晴らしいことですし、僕としても全力を持って応援したいんですが……
「いくぞ、『夜鳴』!!」
「あっ、ちょっ!!」
制止する間もなく愛刀を抜いた烏乃さんはモンスターに向かって走り出しました。一歩一歩が彼女の意思を示すかのように力強いです。
『ほぉほぉ、あんなダメカラスだったのにここまで気迫を出せるようになるとは……これは期待できるのかな』
『うう……心配ですがここは見守りますか』
烏乃さんの接近に近づいたらしいモンスターは触手の一つを真っすぐに伸ばし彼女の身体を穿とうとしているようでした。烏乃さんはそれをひらりとかわすと触手が地面に突き刺さります。
「よしっ!!」
間合いに入ったと思ったと同時に彼女の銀閃………いえ、黒刀が放つ黒い輝きが放たれようとしますがしかし、振りかぶったと同時に地面が盛り上がり体制を崩しました。
「なにっ!!!??」
どうやら先ほどの触手が地面を進みながら戻ってきたようで、地面から姿を現した触手が再び烏乃さんの身体に向かいます。さきほどと違い態勢の悪くなった烏乃さんはかわし切ることが出来ないと判断したのか、それを刀で切り捨てようとします。
「どりゃぁぁぁ!!!」
『おおっ!!斬れた斬れた…烏乃ちゃんすごーい………で♡も♡』
そう、目の前の触手を切り伏せることには成功したのですが、相手は全身に触手のようなものが大量にあるモンスター……そして今はその本体に背を向けている状態なのです。そんな隙だらけの状態を相手は見逃すことなく、勢いよく数本の触手が彼女の背をぶち叩きました。
「gtのwr!!!!???」
ドンッ!!!!
烏乃さんの身体が建物の残骸と思しき瓦礫に強く叩きつけられます。
「烏乃さん!!」
『そ、そんな…触手のくせにエッチなことをせずにシンプルに叩いた!!??触手のくせに……スライム状の触手生物のくせに!!』
メーちゃんのピントのずれた発言にツッコむことも忘れて僕は棒の身体を躍動させて彼女の下に向かいます。
『え~~もうボーちゃん行くの?もう少し様子を見ようよ~~すぐに助けたら烏乃ちゃんの為にならないって』
『いや、もうあれ意識飛んでますって!!動かないんですよ!!』
『え?あっ、マジだ……もうちょっと頑張って欲しいなぁ………空は飛べないのに意識は簡単に飛んじゃうんだ……つまんな~~い』
ぶー垂れながら僕の魂の中で両の手で頬杖をつくのを感じながら、烏乃さんの前にでた、まさにその瞬間再びモンスターが触手で攻撃をしてきました。僕がそれを迎撃するために再び手をしならせます。
「いきま「いかないでいいですわよ」……え?」
触手が僕の目の前でピタリと止まりました。その刹那後、ふわりと白くて美しい羽が僕と触手の間にひらひらと舞い落ちてきます。咄嗟に上空を見ると白いローブに身を包み二枚の翼を携え、天使のような輪っかをつけている女性がいるではありませんか。
「わたくしが助けてあげますわ」
「あ…貴女は……はっ!!??」
あの胸にあるペンダントは烏乃さんのもつ巫女の証と似ています…烏乃さんの物は青色でしたが彼女のものは赤色……まさか……彼女も
「何故ならわたくしは天と由良江様から選ばれし女」
天使のような女性は指を宙でくるりと回します。するとその軌道をなぞるように白く輝いている輪が現れます。その輪がモンスターに向かって行き、女性に向かっていた触手も、そもそものモンスター自体の動きもピタリと止まりました。
女性は淑やかに微笑みます。
「固定(新悟の隣にいるのは由良江)の能力を授かった巫女なのですからね」
間違いありません……彼女は由良江からスキルをもらったシンラーにして巫女……僕が考えた五人の巫女の一人『光輪の巫女』に違いありません。