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第三十一話  仙獣との対決 其の二

 俺は2人から火眼玉兎へと視線を移した。


「どういった理由で人間界に留まっているのかは知らないが、もう大昔と違って人間界も仙獣がのんびり暮らせる場所じゃなくなっているんだ」


だから、と俺は破山剣の状態である〈七星剣〉に精気を強く込めた。


「俺がお前を神仙界へと還してやる」


そして俺は最終形態となった今の火眼玉兎を倒すべく、破山剣より効率よく相手に致命傷を与えられる、番目の形状武器を思い浮かべた。


するとどうだろう。


リイイイイイイイイイン――――…………


全長3尺(約90センチ)の破山剣は鈴のような音を発したあと、柄頭に取り付けられた装飾品に【弐】と書いてある、全長7尺(約2メートル強)を超える長兵器へと姿を変えたのだ。


それは通常の槍のような形状でありながら、穂先の左右に三日月状の刃が取り付けられた方天戟に似た武器だった。


ただし長兵器の中でも一般的な方天戟と違って、〈七星剣〉の弐番目の形状武器――旋天戟せんてんげきには特殊な力が備わっている。


その力でお前を倒す!


俺は左半身を前にした左半身になると、腰を落として肩幅以上に両足を広げた。


続いて旋天戟を中段に構え、穂先の先端を火眼玉兎に突きつける。


刺突の構えだ。


通常の剣でも高い威力を発揮する刺突という技は、長物の武器で自在に使いこなせれば剣を超えるほどの恐ろしい威力を発揮する。


そして修練を積んだ人間の武人ならば、刺突の厄介さを理解できただろう。


だが火眼玉兎は、人間との会話ができるほどの高い知能を持っていた高位の仙獣ではない。


ただ本能に従って行動する中位の仙獣だったため、俺がなぜ武器を変化できたのかも理解できず、それどころか俺の構えを挑発だと勘違いしたのだろう。


「キイイイイイイッ!」


次の瞬間、火眼玉兎は俺に猛然と襲い掛かってきた。


手にしていた一本角を最大限に使って、俺を武器ごと叩き潰すつもりだ。


もちろん、そんなことを許す俺ではない。


俺は時機を正確に見計らうと、鋭く踏み込んで必殺の突きを繰り出した。


ズンッ!


空気を裂いて伸びた旋天戟の穂先が、火眼玉兎の胸部に突き刺さる。


けれども、分厚くなった筋肉に食い止められて内部まで深く入らなかった。


このとき、火眼玉兎は内心せせら笑ったに違いない。


その程度の攻撃では自分を倒せない、と。


それは火眼玉兎の表情からも窺い知れた。


にやりと笑ったような表情を見せると、続いて俺の武器から破壊しようとしたのか一本角を大きく振りかぶる。


――ここだッ!


俺はカッと両目を見開くと、旋天戟の特殊な力を発動させた。


穂先の両側に取り付けられていた三日月状の刃が、独りでに高速回転して火眼玉兎の肉をえぐり始めたのだ。


旋天戟の特殊技――〝旋纏絲せんてんし〟である。


キイイイイイイイイイイイイ――――ッ!


 火眼玉兎の絶叫とともに、えぐられた傷口からは大量の血と肉の破片が周囲に飛び散っていく。


 これで、とどめだ!


 俺は〝旋纏絲〟を発動させたまま、全身の筋肉の動きを一致させながら旋天戟をさらに突き込んだ。


 旋天戟は火眼玉兎の肉と内臓をえぐりつつ、背中まで貫通していく。


 俺は致命傷を与えたことを確信して旋天戟を引き抜いたものの、それでも残心を取るため後ろに飛んで間合いを取る。


 ほどしばらくして、致命傷を負った火眼玉兎は前のめりに倒れた。


 それだけではない。


 火眼玉兎の全身が淡い光に包まれ、地面に飛び散っていた肉や血とともに身体ごと消滅したのだ。


 魂魄が神仙界へと還ったのだろう。


 やがて俺は残心と〈周天〉を解いた。


 同時に現出時間が決まっている旋天戟から、現出時間が決まっていない破山剣へと形状変化させる。


 そこでようやく俺は破山剣を鞘に納め、アリシアと春花の二人に「終わったぞ」と伝えようとした。


 ところが、そう伝える前に2人は俺の身体に抱き着いてくる。


「兄さん、あんたホンマは第5級の道士やなんて絶対に嘘やろ! めちゃくちゃ強いやないか!」


「龍信、あなたの剣は魔道具だったのね……ううん、そんなことはこの際どうでもいい。まさか、剣だけじゃなくて槍まで達人級なんて本当に凄いわ!」


 あまりにも興奮していた2人の勢いに押され、俺は2人を抱き締めているような格好で地面に倒れた。


 そして仰向けに倒れた俺は、そのまま青い空と流れる雲を見ながら思う。


 悪い気はしないが……とりあえず退いてくれ、と。

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