やっぱり現実は厳しかった……。俺は体育館に戻った。誰にも気付かれないように滑らか〜〜〜に式に戻って、その後教室に行くつもりでいた。
ところが、体育館に戻ったら誰もいない! ガラーンとして、生徒はもう誰もいなかった。
しかも、ジャージ姿の男性教師に見つかって「おい、お前さっきの……」とか言われたので、悪い予感しかしないのでダッシュで逃げた。
ダッシュバリ逃げだよ。
さて困った。俺は何組なのか分からない。現実の普通世界では1年A組だったから、それだと踏んで体育館を出て、教室のある棟に向かった。
昇降口もどこかは知ってるけど、靴入れはどこかまでは分からない。まだシールが貼られていなかったから。
とりあえず、持ってきた上靴に履き替え、教室に向かう……と思ったら、廊下にクラス表が貼られていた。
1年A組のところに「豊田雄大」って名前もある。転生前の名前は覚えてない。恐らく豊田ではなかったはず。
豊田……また車かよ。「作者」め、あくまで車パターンで来るつもりだな!? じゃあ、俺の「雄大」は? そんな名前の車種はないぞ?
雄大。でかい。一番……。確か一番大きいって意味がアルファードじゃなかったか!? 「雄大」と書いて「アルファード」って読みじゃなくて良かった……。
俺は胸をほっとなでおろし、A組だと確定したので安心して教室に向かった。
ここで俺は間違えた。何も考えずに教室の前の扉から入ってしまったのだ。
(ガラッ)「すいませ……」
みんな既に席についてた。先生は黒板に何かを書いている最中みたい。教室中はそれに注目していた真っ最中に俺は教室に前の扉から入って来た。
目立たない方が無理だろ。空気は完全に凍りついてた。時が止まったのを感じた。
ヤバい。やっちまった! これから3年間の暗い生活が始まる! 以前の俺の生活より早い孤独生活のスタートかよ! そこまで考えたのは0.01秒だったと思う。
「「「ヒーロー来たーーーー!!!」」」
はへっっっ!?
以前の人生も含めて発したことがないような音が俺の口から出た。
なんだここ。お祭り野郎がいっぱいだった。まだホームルームの時間だろうというのにクラス中のやつが近づいてきて俺の肩をたたく。
「すごいよ! 感動した!」
「なんか映画の1シーンみたいだった!」
「なにあれ、仕込みかと思ったくらい!」
後で聞けば、目の前の校長もクラスの担任もあのときの状況を正しく把握してくれていて、説明してくれていたらしい。
俺はちゃんと評価されていたってことだった。
一応、担任からは気を失う理由は貧血以外にもあり得るから、次からは先生達を頼ってねって言われた。
俺にとっては2回目のことで、それが貧血だと原因を知っていたのでそこまで気が回らなかった。
それを説明しても分かってもらえるだけの材料が思いつかなかったので、俺は素直に謝った。
その態度も評価されたようだった。
他のクラスまで声は届いていたみたいで他のクラスの担任までが教室を覗きに来ていた。ただ、俺の姿を見ると納得という感じで戻って行った。
「はいっ! じゃあ、改めてホームルーム再開するわよ!」
担任がパンと手を一つ打った。
「そこのヒーローはいなかったから、もう一度自己紹介すると、私はこのクラスの担任の草村文枝だ。『ふみえちゃん』とか言ったやつは、その場で停学にしてやるから舐めんなよ」
顔は笑っているので半分は冗談だな、と感じた。ただ、最初に締めるとこ締める辺りちゃんとした大人だとも感じた。
高校生なんて甘いことばかり言えば大人を舐めきって学級崩壊する。厳しいことを言えば総スカンで誰もついてこない。かなり難しい立場、それが教師ってもんだ。
俺も中身がおっさんだからそれに気づいたってくらいで、草村先生みたいには振る舞えないだろう。単純にリスペクトだった。
「あと、結婚を迫ってくるなら早めにな! 卒業したらもう二度と会えないから! 私はいつでも婚活中だ!」
いや、考え過ぎだった。この人、ダメな人だ。
「じゃあ、次! きみらの自己紹介を頼むぞ。じゃー……今日が4月6日だから……」
お、出席番号順! 懐かしい! 社会に出たら存在しない順番!
「よーし、そこのヒーローくんから行ってみよう!」
出席番号どこ行った!
「俺は豊田だから、出席番号12番ですよ? 4月6日は如何やっても12にならないし!」
「そんなの、みんなが知りたい順に決まってるやん! ささ、つべこべ言わずに!」
何を言っても彼女には勝てないだろう。
それにしても、しまったな。自己紹介なんて社会に出てもやる機会は少ない。特別な訓練でも受けていない限りうまくやることなんかてきないだろう。
しかもトップバッター。名前と……年齢はみんな同じか。趣味とか言ってもお見合いじゃあるまいし。好きなスタンド使いでも言うか?
「えー……」
しまったーーーっ! 見切り発車だ! 方針が決まらぬまま発射してしまった! 一番ダメなやつー。
「好きなスタン……」
「ちな、私の幼馴染です」
ひょっこり横から女の子が出てきた。