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第5話:鈴木アルノの登場と記憶の蘇り

 俺が教室で自己紹介をしようとしていたその瞬間に出てきたこの娘……。


「誰だ、これ!」

「私は鈴木アルノ。で、こっちが豊田雄大。さっきの首席ちゃんを助けた人ね」


 その少女は俺のことを指さして、俺の紹介をみんなにしているようだ。


 なぜ、みんなに向かって俺の紹介を!? まずは、俺の方を見て俺に自己紹介じゃないか!? いや、今は俺のターンでは!?


 いや、待て。鈴木……アルノ?


 そんな名前のお隣さんが昔はいたような……。彼女の名前が引き金になって、俺の記憶が蘇ってきた。


 それでも彼女の名前を口にしていたのは幼稚園くらいまでの話。彼女は小学生くらいになったら引っ越して行ったんじゃ……。そこら辺が曖昧だ。きっと「作者」が意図的にぼやかしているんじゃないかと密かに陰謀論を唱えてみた。


「はいはい、お名前、聞かせてね♪」


 おっと今度はラップ調で来やがった。ラップで挨拶とか失敗したら最高に痛いやつ。ここで俺が乗らないと彼女がその十字架を背負ってしまう。


「俺の名前は、豊田だぜ。下の名前を言うならば、雄大なんてゆーんだい!」


 ラップ調で返してやった。ラップっていうかダジャレだけど。韻とか全然踏んでないし!


「随分、背丈が伸びたけど、一体、身長いくつなの」

「背は179! You gatta change!」


 今度は好きな歌の歌詞をねじ込んでやった。


「私の名前は覚えてる!?」


 今度は親指を立てて彼女自身に向けてる。あんまりない胸に親指が当たってた。


 これは俺への挑戦だな!?


「お前の名前は、アルノだな。鈴木アルノだ。覚えてる。隣に住んでたやつだろう」


「「Yeah(イエー)」」


 俺達はそれぞれ腕組みするみたいなラップのポーズでキメた。


「久しぶりだな、アルノか!」

「ユーダイ、久しぶり」


 今度はお互いグータッチ。実際は、俺はほとんど記憶が無いけれど、俺の身体が覚えているようだ。それって、俺は転生じゃなくて、転移ってこと!? そんなことは今はどうでもよくて、目の前のアルノとの再会が嬉しかった。


 栗色の髪のショートボブ。目は大きめでたれ目がち。胸は小さめというか、スレンダーな感じ。これは完全に妹属性入ってるけど、俺にとっては幼馴染だ。少し上目遣いの感じも、少し照れ笑いなのも全てが懐かしい。


「はいはい。以後のラップを使っての自己紹介を禁止とするーーー」


 草むら先生が手をパンパンと2回打って俺達の再会を喜ぶシーンを止めた。先生冷たいぜ。


「あと、次誰か倒れても体育館のステージから飛び降りるなよー。誰かがケガしたら先生の給料がさがっちゃうからなー!」


「「「ははははは」」」


 すげえ、先生ウケてる! さすが高校教師。毎年のことなのか!? それとも年々スキルアップしてるのか!? とにかく、普通のサラリーマンとは違うスキルを彼女の中に見た。


「先生を路頭に迷わせたら、そいつにはもれなくお嫁にもらってもらうからなーーー」


「「「げーーー」」」


「いま、『ゲーーー』って言ったやつ覚えとけよ! 先生、幸せになってやるからな!」


 面白い! 先生おもしろいわ! 多分、20代半ばから後半……。俺がもう少し年が上だったら全然アリだったわ。


「それで、ヒーローの豊田雄大とその嫁、鈴木アルノだな。10年後、お前ら覚えとけよ。先生の方が幸せになってやるからな!」


 わざとらしく悔しそうに言ってもうひと笑い取ってたわ。でも、完全に俺はクラス中のやつに覚えられたし、悪い印象でもないだろう。


「次の旦那候補! そこの背が高いやつ!」


 先生がびしっと指をさして次のやつを指名した。もう、生徒の自己紹介でも何でもなくて、旦那候補になってるし!


 草村先生面白いぜ。「従来世界」ではいなかったキャラだな。「作者」の実体験だろうか。背は低くて中学生くらいにも見える。黒髪のロングヘア―で丸い眼鏡。ちょっと目がつり目がちで不貞腐れた表情はキャラ付けだろうか。


 あんまかわいいと本気になる生徒が出て来そうだ。ある程度は「毒舌」とか「」結婚迫るキャラ」で線引きしているのかも。凄いなやっぱりよく考えてるのかも。


「本田ー! お前は将来弁護士か医者になれ! そして、私を迎えに来い! よーし、次の候補は……」


 しまった、本田の自己紹介を全く聞いてなかった! すまん! 本田っっ!


 〇●〇


 そんな感じでとりあえず、全員の自己紹介が終わった。ほとんど聞いてなかったけど。


 一つ分かったことは、あの首席のリーフさんは同じクラスとのこと。「従来クラス」では俺はJ組だったからA組のリーフさんとはほぼ交流が無かったんだ。


「久しぶりだね、ユーダイ」


 俺の席の隣にさっきの美少女……もとい、幼馴染のアルノが座っていた。彼女は机に覆いかぶさるように寝ていて顔だけこっちに向けていた。


 お隣の幼馴染なのに「久しぶり」って設定おかしくなってるぞ! 「作者」め、設定の矛盾は読者が嫌うところだぞ!


「ユーダイもアビリティに編入してきたんだね。入学おめでとう」


 俺の記憶が呼び起こされる。アルノは中学受験のときから中高一貫のこの「アビリティ第一学園」に進学したんだ。時間帯が合わないことと学校が違うこともあって疎遠になっていたんだ。


 そうか、ここ中高一貫だった。入学式のときに校門で撮影している親子が少なかったのもある程度理解できてしまった。ちくしょう「作者」め。こんなところで辻褄を合わせてきやがった。


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