「じゃあ、クラス委員を決めるぞぉ!」
入学の2日目の朝はロングホームルームだった。開口一番草村先生がめんどくさそうなことを言った。
昨日のリーフさんも来てる。無表情だから何考えてるかは読み取れないけど、後ろの方の席を陣取ってた。座った姿の姿勢がいいのですごく目立つ。
黒髪もきれいで艶っていうか光沢がすばらしい。
「作者」め、彼女にヒロイン役を丸投げだな!?
背が高い本田も後ろの方の端っこの席辺りにいた。あそこって主人公席では!? もしかしたら、やつが主人公で俺は噛ませ犬なのか!?
それならそれでいい。目立たずに、いじめられないで平和に高校生活を過ごせれば俺としては不満はないのだから。
鈴木も本田の近くにいる。二人は仲がいいな。もしかして、エスカレーター組だろうか。
そして、俺はなぜか一番前のど真ん中の席に座っている。いや、座らされている。席決めは後らしい。今座っているところは暫定だと事前に説明されている。
「なーに?」
そして、俺の席の横では幼馴染のアルノがにこにこしながらこっちを見てる。俺の人生に似つかわしくない存在。いわば、バグ的な存在だ。
「まずは立候補はいないのかー!?」
なぜ、教師はこういうときに立候補者がいると思うのか。自分の学生時代にそんなやつでもいたというのか。
「もしいなかったら、ヒーローとその嫁に決まっちまうぞー」
もしかして、その「ヒーロー」ってのは俺のことか!? これが悪目立ちの功罪だ。まあ、悪いほうだから「罪過」かな。
多分、俺は卒業まで、ことあるごとにいじられるんだ。下手したら、卒業して20年くらい経ってからの遅すぎる同窓会でも言われるんだ。
俺がちょっと目眩を覚えていたときだった。
「はいっ!」
その凛々しい声につい後ろを見てしまった。あの涼しげで心地いい声はリーフさん。
「お、ヤマトか。いいぞ。よし、前に出てみようか」
担任の草村先生がエロいカメラマンのようなセリフ回してリーフさんを教室前に招く。
「他はいないかぁー?」
普通はいないよ。みんな先生と目が合わないように明後日の方向を向いている。これから「推薦」とか「くじ引き」とか「話し合い」とか無駄な時間を過ごすんだ。
とにかく、俺も指名されないようにするしかない。
「おーし、他にいないみたいだから、女子はヤマト。男子は豊田に決定だ」
は!?
「おーし、豊田も前に出てこい!」
間違いじゃなければ、「豊田」は俺の名前だ。他にいたって話は聞いてない。
「こら! 豊田! 周囲をキョロキョロして他の豊田を探すな! このクラスに豊田はお前一人だ」
理不尽!
「いや、先生。俺は立候補してないし!」
「私が推薦した! このクラスの中では私の発言力はかなり強いぞ!」
パワハラ!
「先生、それは仕事上の権限を利用したパワハラでは!?」
「そんなことを言っていいのかー? 私の内申書を書く筆次第でお前は総理大臣にもホームレスにもなるんだぞ!?」
ダメだ、この先生。おもろすぎる。ネタだよね? ネタで言ってるよね? 今から30年後の令和の世の中では先生瞬殺されるぞ!?
「よーし! クラスのクラス委員となった俺は、いわばクラスの代表だ! みんな俺に着いて来い!」
「「「おおーーー!」」」
しまった。掛け声を間違えた。
先生のプレッシャーに即折れした俺は前に来て教壇の上に立った。それこそノリとヤケクソで言ってみたら、みんなも悪乗りしてしまった形だ。ちなみに右手はこぶしを握りしめて突き上げてた。
草村先生は俺のほうを見て「どうすんだこれ」って目してた。教室は異様に盛り上がってしまった。
しばらく大騒ぎだったから、さすがにヤバいと思って俺は両手を上げた。ちょうど「Y」みたいな感じ。みんな次を期待して教室は静かになった。
ところが、次のネタを考えてない。またも見切り発車した形だ。「とりあえず動く」俺が社会に出て学んだこと。しかし、これは見切り過ぎた。
「ありがとうございます。これで私も挨拶できます」
何を勘違いしたのか、横にいたリーフさんが俺に深々と頭を下げてお礼を言った。
「あ、いや……」
俺が誤解を説く前に彼女はくるりと方向を変えて、クラスメイトの方に向いた。
「昨日は生徒代表でありながら無様なところをお見せして申し訳ありませんでした」
ここまで言ったら頭を深々と下げた。
なんだよ、真面目か。たしかに、約30年前の俺の記憶でもリーフさんは真面目って感じだった。
「貧血でした。自分の体調もコントロールできず本当に恥ずかしいです」
どうやら彼女は昨日のことを恥じているらしい。だから、みんなにお詫びをしているようだ。
「しかも、倒れそうになったところを支えてくれた上に、新入生挨拶の続きまでしていただき、保健室にまで運んでいただいたとのこと……」
あ、俺だ。色々詳しいみたいだし、昨日の放課後か、今朝にでも誰かに聞いたのかな? これって、俺に腹を立てているって話じゃないよな!?
「それで、その……。そのかたにお礼を申し上げたいのですけど、それがどなたかご存知の方いらっしゃらないでしょうか?」
クラス中が静かになった。多分みんなの心のツッコミは「みんな知ってるよ」だろう。しかも、それが真横にいる人だという冗談みたいな状況……。
「何組だけ分かるだけでもいいんですけど……」
リーフさんは教室内をキョロキョロ見渡して情報提供者を探す。
「あーーー……、ヤマトさん……あのな……」
頭をかきながら、もう片方の手は少しだけ手を上げて話し始めたのは本田だ。
「えーっと……」
本田の名前が出てこなかったらしい。そりゃ、ほとんど初対面だし名前は覚えてないよなぁ。
「ヤマトさん、あいつは本田だよ」
「ありがとうございます」
俺がこっそりリーフさんに教えてあげた。
「本田さん、ご存知なんですか!?」
「ご存知っていうか……みんな知ってるっていうか……」
「そうなんですか!? ぜひ教えてください!」
「……あんたの隣のヤツだよ」
「え?」
リーフさんがこちらを向いた。
「あ……」