「ありがとうございました! 本当に!」
俺はなぜか教室の一番前、教壇の上でリーフさんに詰め寄られている。
「いや、たまたま手が届いたから……」
「生徒席からステージまでそんなに簡単に手が届いたりしません! ……あ、アクセル持ちのかたですか!?」
「あ、いや……」
リーフさん言葉を言葉通りに受け取る人みたいだった。それに必死だからめちゃくちゃ顔がかわいいんだけど!
「おーし、そこまで!」
壇上でリーフさんからお礼を言われて、俺がキョドっていると、なぜそんなことができたのかと問い詰められ、俺が答えられないという状況になった。しかも、大勢の前でかわいい子にお礼を言われるわ、詰め寄られるわ、俺は益々どうしていいのか分からなくなっていたところだった。
「クラス委員を決めたら、次は合同合宿のリーダー2名を決めてもらおうと思ってたけど、若者のいちゃらぶを見せつけられて気分が悪いので、お前たちがそのままリーダーな」
「はあーーー!?」
そのあとはもういくら言っても合同合宿のリーダとやらを変えてもらうことができなかった。そのことでリーフさんから更に謝罪のお言葉をいただいて自体は更にカオスと化していった。
〇●〇
席決めについても「時間が無くなった」と言われて、現在の暫定的な座席がそのまま採用となってしまった。
ただ一つ、リーフさんが「クラス委員は席が近い方が色々と効率がいい」と言って俺の左隣に引っ越してきた。草村先生も「なるほど、それは面白そうだ」と言う斜め上の返事でOKを出してしまった。
俺の席は1列目のど真ん中。先生の教卓の真ん前だ。授業中寝ることもできない。それどころか、ノートもいい加減に取ることが許されない厳しい席だ。
「これから1学期の間、よろしくお願いします」
そして、左にはリーフさん。クールな美少女だ。隣にいるだけで、なんかいい匂いもする。しかも、真面目。俺は中身がおっさんじゃなければ、まともに返事することもできなかっただろう。
「よろしく」
今の俺でも、そう返すのが精いっぱいだったんだが……。
(キーンコーンカーンコーン)おっと、ここで昼休みを知らせる鐘が……。学校って授業に入るまでに数日導入期間みたいなのを設けるよな。会社に入ると、自己紹介と入社手続きで半日ってくらいで、その後はすぐに業務に入る会社もある。
社内研修とかしてもらえるのは大企業だけだし、そう言った意味では学校は大企業並みの待遇なのかも。元ブラック企業経験者としては、だるいというか、生ぬるいぬるま湯みたいなのんびり時間が続いていた。
「あ、ねえ、雄大。ご飯、どこで食べる?」
今度は逆サイドの幼馴染アルノが話しかけてきた。俺は激しく教室以外でご飯が食べたいと思っていた。
「雄大! 昼どうすんだよ」
肩に腕をまわしてきて、馴れ馴れしく話しかけてくるのは本田。なんか、あれだよ。俺のイメージするヤンキーってこんな感じ。パーソナルスペースゼロ距離だよ。
そして、言ってる内容から、「当然俺たち一緒に飯食うんだろ」的な要素も含まれている。
どこでこうなったんだろう。俺はどこかの選択肢を間違えたのだろうか。俺は元々ぼっちで次第にいじめられた暗黒3年間を過ごした男だぜ? こんなクラスカースト最上位みたいなやつが当然昼ご飯を一緒に食べる様な状況に……。
「雄大連れて行ったらダメーーー!」
「待て待て。連れて行かないから。そっちの、鈴木さん? だっけ? も、一緒にさ!」
アルノも連れて行こうってのか。そりゃあ、アルノはかなりかわいい。クラスカースト最上位グループ確定だろう。クラス界のセリエAな。
「こっちにも鈴木がいるんだよ」
本田が男のほうの鈴木を連れてきた。ホント仲良しだな。この二人。
「ど、ども……」
照れくさそうに鈴木が挨拶をした。
「本田くんと鈴木くんってエスカレーター組だよね? 5組だった……」
アルノも中学からのエスカレーター組だったっけ。
「よく知ってるな」
「私、1組だったから」
「なんだ、そっかー。エスカレーター組同士、よろしくな」
なんか、もう仲良くなってる。リア充すごい。
「食堂行くか! お、鈴木は弁当か? 食堂は弁当も持ち込みOKらしいぞ」
「鈴木くんも『鈴木』で紛らわしいから、私のことは『アルノ』でいいよ」
下の名前呼びOKとか、すげえなぁ……。
「そっか、紛らわしいもんな。じゃあ、アルノちゃんよろしくな。俺のことも……」
「いや、私は雄大のこと以外下の名前で呼ばないから」
アルノさん、きっぱりと断ったよ。まあ、俺は幼馴染だから家族以外は受け付けないってことかな。彼氏ができたら、彼氏は下の名前で呼んじゃったりするのかも。
俺はアルノと鈴木、本田と4人で食堂に行くことになった。
〇●〇
俺達は食堂に移動していた。生徒数1000人のおよそ6割が利用するこの食堂はかなり広かった。あのだだっ広い体育館の1階にある。広いけれど、席は無限じゃない。出遅れたから俺達は空いている席を確保した。
本田と鈴木は日替わりの定食を注文した。俺とアルノは弁当を持参していた。
でも、「作者」よ。お前は「アビリティ・デバイス」って設定をこの世界に持ち込んだのなら、早めにそれについてのエピソードも入れとくべきだろう。これじゃ、普通の学園ドラマだぜ。しかも、なんも事件が起きてない。
「でも、さあ。みんなの『アビリティ』ってなに? 聞いても大丈夫?」
さっそく話題に出たーーーーー! 本田が無神経にもみんなに訊いた。
そして、ちょうどその後くらいに事件は起きた。