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第12話:アビリティ・デバイスの3つのルール

「私は大発(おおはつ)ミラ、2年生だ。ミラでいい」


 白衣の異常者は先輩だったらしい。背は低いのでてっきり同級生か、中学生が紛れ込んでいるのかと思っていたほどだ。


 銀髪と白衣で真っ白な少女って印象だ。胸部装甲は「ストーン」だ。おい、「作者」!巨乳をたくさん出さないと人気が出ないぞ!


 とりあえず、ミラ先輩と握手を交わした。契約成立だ。


「私はIQ180の天才だ。いわゆるギフテッドってやつだ」


 なんか、ドヤ顔で自分語りを始めた。厨ニ病っぽくて嫌いじゃない。


「機械、ソフト、創薬など私のアイデアが実現したものも多い。装置や器具、機器、薬品など学園と共同特許にしている代わりに学校の授業免除をもらってる。……分かりやすく言うと『発明』だな」


 従来世界で考えたら、授業を受けてなかったらカリキュラムを達成してないから進級できないだろ。それでも、この「アビリティ世界」ではOKなのか。とことんご都合主義だな。


 それにしても、子供のときにはなりたいものの職業で「発明家」とか書いてたやつがいたけど、社会に出たらそんな職業はないことに気がつく。


 しかも、人は何かしらに特化する。物を作るなら機械、電気、ソフトのいずれか。薬品関係は全く別だ。


 この先輩、装置が作れるなら機械、電気、ソフトをオールマイティにこなせるんだ。ただもんじゃない。IQ180は本当かどうか分からないけど、市場価値は限りなく高いのは俺でも分かる。


「しかし、私の一番のウリは分析力だ。見たものを分析し、そこから予想を立て、実験し、検証する。きみが今 求めているのはそういう能力じゃないのかね?」

「確かに……」


 やっぱり、この先輩、天才か!


「あと、この未発達な身体じゃないかね!?」

「それはいらん!」


 やっぱり、この先輩、変態暴走機関車か!


「ちょうど、新しい研究テーマを探していたところだ。徹底的に『かいぼー』してやるからな」


 そのニヤリとした表情が怖い。ジョジョ立ちが一層怖いわ! そして、ドヤ顔が痛い。


「ただ、まあ……この……」

「きみ、私の頭を撫でるのをやめてくれないか」


 無性に良い高さにある頭を撫でてしまう。


「だから、撫でるなというのに! 屈辱だ!」

「いや、妙に撫で心地が良くて……。先輩頭の形いいですね」

「やめろ!」


 なんだ、この茶番。平和だなぁ……。


「とりあえず、今日はきみのアビリティ・デバイスが見たい」


 ミラ先輩がちょっと真面目な顔で言った。この人はどこまでが本気か分からないから困る。


「これです」


 ついさっきの先輩の「研究」を出した。


「『研究』……か。なるほど」


 俺が渡したデバイスをよーく見てる。


「きみはこれをどう考える?」


 聞かれたので俺はここまで分かっていることを話すことにした。


「俺のアビリティ・デバイスは他の人のより小さいみたいです。クラスメイトのはファミコンのカセットくらいだったし、先輩のはMDみたいに円盤だった。俺のはmicroSDくらいですかね」

「microSD!」


 先輩が変なところに食いついた。


「きみは今『SDカード』じゃなくて、『microSD』って言ったね? 巷にはSDカードは出ているが、microSDはまだ開発段階だ。その存在を知っているってことは、きみは……」


 しまった! microSDは2000年ごろではまだ発売になってない! このころSDとかコンパクトフラッシュとか複数の新しいメディアが覇権争いをしていたころか!


 いきなり先輩に俺が未来の記憶を持っていることに気づかれてしまったか!?


「情報通だな!」


 ガクってコケた。コントみたいにコケた。とりあえず、誤魔化せそうだ。


「デジタルガジェット系が好きで色々調べてます。あは、あは、あは……」


 まあ、大丈夫だろう。


「他には?」

「とりあえず、今持ってるアビリティ・デバイスは6つです」

「なに!? 6つ!? それ全部使えるのか!?」


 まだ「ダッシュ」と「スピード」しか試してないな。


「2つは試しました。あと4つはこれからですね」

「実に興味深い!」


 ミラ先輩がどっかの教授みたいなセリフを吐いた。


「へ、変ですか?」

「きみはアビリティ・デバイスのルール知らないのか?」


 ルールだと!? 「アビリティ」自体、俺のいた「従来世界」では存在しなかった概念なんだ。そう考えていると、彼女が人差し指を天高く掲げてルールを説明し始めた。動きもジョジョ的なんだよなぁ……。


「ルール1、アビリティは1人に1つ」


 なんかスタンド使いのルールみたいなことを言い始めたな。確か、3部は俺がまだ子どものころだったから1989年くらいからかな。もう、この世には存在している。


 それでも、俺は既に2つを同時に発動している。さっそくルールから逸脱しているようだ。


 ミラ先輩が、指を2本に増やした。


「ルール2、アビリティはそれぞれ固有の特殊な能力を持つ」


 超能力とも違うし、実態もないからスタンドとも違うな。そして、俺は多分、アビリティ持ちの人からその能力について聞いたら、アビリティをコピーできるようだ。


 ミラ先輩が、指を3本に増やした。手は高らかに挙げられていて、よく見たらつま先立ちで背伸びしている。意外とかわいいな、この先輩。


「ルール3,普段はアビリティ・デバイスに収納されていて、必要な時にインストールして使う。一定以上の使用は身体に負担をかけるのでNG」


 そうなのか。聞いてたよかった。俺は、何も考えずにアビリティ・デバイスをインストールしたままで次をどんどん貯め込んでいくことを考えていた。


「こんな小学生でも知っているようなことを知らないなんて、きみはどのこ田舎から来たんだ」


 彼女がくるっとこっちを向いて見ながら訊いた。


「ちょ、ちょっと……にゅ、入院生活が長かったもんで……」

「そうなのか。じゃあ、しょうがないな」


 嘘じゃない。俺は嘘はついていないのだ。


「アビリティ・デバイスには色々な形があるんですか?」


 話を逸らす様に、次の話題を振ってみた。


「そうだな。昔はいわゆる『ファミコン』のカセットくらいの大きさがあったな。第一世代だ。そして、フロッピーサイズ、CDサイズ、そして、最新は第四世代のMDサイズのものだ。その都度、デバイスリーダーは変わるからそう簡単には交換することはできない。なにしろ外科手術が必要だからな」


 マジかよ!? 外科手術でデバイスリーダーとやらを取り付けているのか!?


「年々、各社小型のデバイスリーダーを開発して手術の負担を減らしているのさ」


 なんか、それでも首筋に何か異物を手術で取り付けることには抵抗があるな……。


「そう言った意味では、きみのアビリティ・デバイスは、更に更に小さい。言ってみれば、第五世代どころか、第六、第七世代と言ってもいいだろう。どこかの大手デバイス・メーカーの関係者かな?」


 眉を段違いにして顔を近づけて来る先輩。


「ま、まあ……そんなとこです」

「嘘だ。こんな小さいデバイスは、まだ世界中誰も考えついてない……と言うことは、きみは……」


 しまった、うっかりペラペラと話してしまった。今度こそ……バレた……!?


「秘密が多いなぁ。じっくり私が『かいぼー』してやろう」


 ガクってコケた。コントみたいにコケた。とりあえず、誤魔化せそうだ。


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