翌日は、身体測定などもありまだまだ授業は始まらない。……ゆるい。ゆるすぎる。元ブラック企業勤めとしては眠ってしまいそうなゆるさだった。
それだけ社会は厳しいということか。
昼休みは例によって食堂に行くことになっているようだ。
「雄大、食堂行こ♪」
「はい……」
こんなかわいい子に手を引かれて食堂に行くなら、俺ももっとドヤ顔でかわいらしい幼馴染を自慢したらいいのだろう。でも、実際はほとんど知らない子だ。あるのは昔の記憶くらい。ドヤ顔するほど知らないのだ。
厨ニ病全開でいきたいのだけど、さすがにほとんど知らない子だと扱いも難しい。どう接していいのか距離を測りかねていた。
「待て待て! 俺らも行くから!」
本田はもう鈴木を含めた4人パーティーのつもりみたいだ。だが、俺の心はボッチだからな!
○●○
広い食堂は昼の学生達で賑わっていた。一度は社会に出た俺からしたら二度と戻れないと思った瞬間だ。
一番安い素うどんとか130円だし、一番高いカツカレーですら、480円というあり得なさ。俺は社食があるような立派な会社には行けなかったから、束の間のホワイト企業体験と思っていた。
腹ぺこ学生達は定食やうどん、カレーなどの列にたむろしていたが、席自体はほぼほぼ埋まっていた。
当然、俺達の席もない。しかも、4人だし。
そんな中、4人がけのテーブル席に一人座り、周囲に人を近づけない空気をまとった女子学生を発見した。
リーフさんだ。
4人用に一人なのだから、当然相席になるはずなのだが、みんなリーフさんからの負のオーラを感じ取り近くに座らないみたいだ。
これはある意味一石二鳥。俺はすぐさま声をかけた。
「リー……ヤマトさん。席一緒にいい? 食堂混んでるね」
「え? あ! は、はい。どうぞ!」
まるで今、俺達の存在に気づいたみたいにテーブルの上のパンを自分の方に寄せてテーブルを広くしてくれるリーフさん。
元々パン1個と牛乳のパック1個しか置いてないのだからそんなにテーブルを占拠しているわけでもない。
4人用テーブルなので、リーフさんを入れて5人だと少し手狭ではあるが、身体の小さいアルノがお誕生席につくことで問題を解消した。
「わーい、お誕生席だ。お誕生席だ♪」
若干狭いし座りが悪い席なのだが、のんきに喜ぶアルノだったので救われた。
俺は声をかけた手前、リーフさんの隣に座ることになった。
「ヤマトさんはいつもパンなの?」
イの一番に声をかけたのは本田だった。こいつの心の垣根はバリアフリーだな!
「はい……」
少し緊張した面持ちでリーフさんは答えた。
「あ、同じクラスだし、『リーフさん』って呼んでいい?」
「え? あ、はい。構いません」
俺は本田に心の中でエールを送った。もう心の中では「リーフさん」って呼んでいたのだから。
「あのー……」
今度はリーフさんが俺のほうを見て話始めた。俺はなに、とばかりに無言でリーフさんのほうを向いた。
「豊田さんは入学式で私を助けてくださったし、保健室まで運んでくださったんですよね?」
「え、はい。まあ……」
改めて言われるとめちゃくちゃだ。入学式の新入生挨拶に飛び込んで代表をさらって行ったのだから。ダスティン・ホフマンも真っ青だろう。
「放課後もクラスの人達と一緒に様子を見に来てくれて……、ありがとうございます!」
すごく前のめりだった。
「いや、どういたしまして。前も言ったけど、なんか手が届いたから……」
これも前言ったな。デジャヴがヤバい。
「いえ、豊田さんが助けてくださらなかったら……。なんか……その大変なことになっていた気がするんです……」
「ま、まあ、大事に至らなくて良かったよね」
俺の知る未来では、リーフさんは廃人のようになってしまっていたんだ。元気でなによりだ。
「あ、リーフさん。今日、放課後みんなで『歓迎会』するんだけど、行くよね?」
本田はほんとズバズバ行くよな!
「歓迎会……」
リーフさんが顎に指を当てて考え始めてしまった。
「『歓迎会』ってのは本田が勝手に言ってるだけ。誰かに歓迎されるんじゃなくて、俺達の決起集会とか、交流会みたいな感じ?」
リーフさんの顔が明るくなった。やはり、本田の謎の言葉選びに困惑していたようだ。
「行きたい! 行きたいです! 私も参加させていただいてもよろしいんでしょうか!?」
リーフさんがまた俺に前のめりなんだけど、俺に決定権はない。
「もちろんだよ! そもそも、雄大とリーフさんはクラス委員だろ。参加必須だよ!」
「はいっ! ありがとうございます!」
あーーー。「歓迎会」やるって言って聞かない本田がどんどん参加者を増やして行く……。そして、やっぱり俺も参加することになってる……。
「てか、リーフさん。オナクラだしつるもうぜ!」
「オナクラ……? つるむ……?」
本田の申し出にまたリーフさんが困惑してる。
「えーと……、同じクラスになったし、仲良くしようってこと」
俺が助け舟を出した。なんか通訳になった気分だ。
「その、豊田さんとも仲良くなれますか!?」
「あー、雄大なら中心メンバーだから必然だろうな」
おい、だから、いつから俺は中心になったんだよ!?
「はいっ! オナクラです! つるみます!」
「「「おーーー!」」」(パチパチパチパチ)
なんか4人でぐたぐたしてたのに、5人メンバーになってしまっていた。本田、鈴木、アルノが拍手してた。俺も一応参加して拍手してみた。
この日、俺達はリーフさんと一緒に昼飯を食べた。多分、これからも一緒になるんだろう。
まあ、悪い気はしないな。