「え? お姉ちゃん?」
タイキがけげんそうな顔になってナツミ(体はハルタだけど)を見た。
え? まさか気付かれた? ナツミは少しあわてた。
「え? わ…いやオ、オレ、ハルタだけど。な、何言ってるの? タイキ」
「だってさ。ハルちゃんいつも優しかったのに、なんかお姉ちゃんに言われてるみたいな気がして……」
タイキが困り声で答えた。
知らないうちに日ごろ、弟にきつく当たっていたことに気付かされ、ナツミは少し反省した。
「あはは、ごめんごめん。ちょっとあせっちゃってさ。それにしてもさ、わ……ナツミって普段そんなに怖いの?」
「怖いってほどじゃないけど、最近ちょっと冷たくなった」
「あはは……そうだったんだ」
(うわあ、私って最悪)
そう思ったナツミだったが、ちょっとだけ反論した。
「でもさ、そういう年ごろなんじゃない? 女の子だし」
「え? ハルちゃん、女の子の気持ちわかるの?」
「あ、いや、そういうわけじゃないけど……あはは」
ナツミは苦笑いするしかなかった(体はハルタだけど)。
「どうしたの? タイキ?」
玄関の声を聞きつけ、ナツミの母が出てきた。
「あ、ママ。ハルちゃんが、お姉ちゃんいないのかって……あ」
タイキは先ほど姉(中身はアキトだけど)に言われたことを再び思い出し、言葉をにごした。
「ああ、ハルタくん。久しぶりね。ナツミ! ハルタくん来てるけど!」
もちろん部屋から反応はない。
「ちょっと待っててね」
そう言ってナツミの母は中に戻り、玄関近くのナツミの部屋のドアをたたいた。
「ナツミ? いないのかしら? タイキ知ってる?」
「あ、えーと、言っちゃダメだって……」
「ええ? どういうことかしら」
ナツミの母は首をかしげた。
「あの、いないみたいですね。わかりました。オレ、さがしてみます」
ナツミは(体はハルタだけど)ここにいつまでいても仕方ないと思い、そう言った。
(ママに相談したいのはやまやまだけど、今は私の体をさがさなきゃ)
「そう。ごめんなさいね」
「はい。大丈夫です」
ナツミは(体はハルタだけど)アキトの家に向かうことにした。
ナツミは(体はハルタだけど)急いで外階段を駆け上がった。
「わあ!?」
二階と少し、階段を上ったところで、ナツミは上から踊り場を回り込んできた自分の体と鉢合わせして叫び声を上げた。
後ろにはアキトの姿が見えた。
「ああ、よかった。ハルタの体が来てくれたよ。中にいるの、ナツミだよね?」
自分からそう言われて、ナツミは困惑した(体はハルタだけど)。
「え? えーと……」
「もしかしてお前、オレのままのオレってことはないよなあ?」
後ろのアキトから奇妙な言葉が出て、ナツミは(体はハルタだけど)ますます混乱した。
「え? アキト? あれ?」
だが、すぐに言葉の主に気付いた。
「あ!? 今オレって……その言い方、もしかしてバカハル!?」
「あはは、正解!」
「ってことは私の体は……」
「ああ、ごめん。ボクが入っちゃってる」
「えええ!?」
思わずナツミは声を上げた(ハルタの声だけど)。
「あ、あのさ、ナツミ。これ、ジャージに着替えたけど、見てないからね」
おずおずとしゃべるアキトだが、声も体もナツミだ。ナツミ(体はハルタだけど)はその声に違和感を感じながらも言いたいことは悟った。
「……見てないって、何を?」
わかってはいるけれど、ナツミはちょっと怖い顔になってしまった(顔も声もハルタだけど)。
「あ、はは、ナツミの……あの、その、えーと……」
自分の声で困られても調子が狂うばかりだ。
諦めてナツミは話を切り替えた。
「まあ、そんなこと気にしてる場合じゃないよね。これ、どういう状況?」
アキト(体はナツミだけど)はその言葉にほっとした表情で話し始めた。
「あ、ああ、これで確認できたよ。ボクたち三人、ぐるっと三角形を回すみたいに体と心が入れ替わっっちゃったみたいなんだ。こんなことあるなんて信じられないけど」
アキトは(体はナツミだけど)指で時計回りに空中で三角形を描くようにして説明した。
「オレはさ、アキトになって頭よくなるかと一瞬思ったけどならないから、やっぱオレなんだよね、これ。あんま得しないよな」
「ああもう、バカハルは黙ってて。よくそんなのんきなこと言ってられるよね」
「はは、まあ、ハルタはそういうとこがいいところなんだよ」
ナツミの声でそう言われ、ハルタはちょっとドキっとした。中身はアキトだけど。
「え? ああ、はは……」