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第7話

「けさ起きたらこうなってたんだよね。みんな」

 アキトが真顔になって本題に入った(体はナツミだけど)。


「うん」「ああ」

「まずは原因を考えなきゃ」

「そうね」「ああ」

「寝る前には異常はなかったよね」

「なかった」「ああ」

「寝た後は……」


「あ!!」


 最後だけハルタが先に声を上げた(体はアキトだけど)。


「オレ、変な夢見た。起きる寸前に」

「え? どんな夢?」

「きのう、神社でみんなで石を持ち上げたよね」

「うん」

「あの場面が夢に出てきてさ」

「え?」

「なんか神様だっていう白いキツネが現れて、三人の願いをかなえてやるって言って……」

「それで?」

「起きれば分かるって言われて、そこで目が覚めちゃった」


「なにそれ、ちゃんと覚えてないの?」

 横で聞いていたナツミ(体はハルタだけど)が声を荒げた。

「なんだよ、オレの声で怒るなよ」

「ハルがちゃんと説明しないからでしょ」

「だって夢だぜ。ってか、ホントそれだけだったんだ」


「ああ、ちょっと待って。よく考えてみようよ。それだけでも手掛かりになるかも」

 アキトは(体はナツミだけど)持ち前の冷静さで、みんなで推理していくことを提案した。


「ここじゃ寒いから、オレの家に行こうぜ」

 ハルタ(体はアキトだけど)が言った。

「えーと、ハルタの家ってこと?」

 ナツミ(体はハルタだけど)が聞いた。

「え? そうだけど」

「アキトの声で言われると、なんだかどっちがどっちだかわかんなくなる」

「オレだって、オレの声でナツミがしゃべってるとすっごい違和感」

「私だってホントは頭がおかしくなりそう。アキトがしゃべる声、いつもの自分の声と微妙に違うし」

「あ、それオレも思った。ナツミがオレの体でしゃべると、オレの声みたいでオレじゃないみたいに聞こえてぞわぞわするんだよな」


「ああ、それはさ、自分の声は骨伝導って言って、普段は頭の骨を伝う音も聞いてるからだよ」

「ふわー、さすがアキト。すごいこと知ってるなあ」

「はは、それボクの声で言われるとやっぱ変だね」

「って私の声で言われるのも変だけど」

「オレの声で私って言われたよ……」

「はは、きりがないからさ。早くハルトの家いこ」

「そうだな」

「そうね」


   ◇


 階段を上りながら、ナツミ(体はハルタだけど)が口を開いた。

「さっき私、ハルの部屋で起きたんだけど、物が散乱してぜんぜん掃除してなさそうだったよ」

「げっ。見られたのか」

「しょうがないでしょ。ホント、バカハルの部屋って感じだった」

「なんだよそれ? いいじゃんかオレの部屋なんだし……あ!」

「何?」

「……見てないよな」

「何を?」

「あ、ああ見てないならいい」

「何? 気になるんだけど」

「いいから!」

「あ! もしかして……」

「そういうのじゃないから」

「じゃあ何よ?」

「……うう。それは……」


「あはは、もういいじゃん。早く行こうよ」

 アキト(体はナツミだけど)がハルタに助け舟を出した。


「とにかく! オレが掃除するまで部屋に入るなよ」

「掃除するのは私じゃないの? 体はハルだし」

「う……」

「ほら、ナツミも意地悪しないで」

「くそー。いつか仕返ししてやるからな。覚えてろよ!」

「え……」

 ナツミはアキトの顔と声で悪態をつかれ、ちょっと胸がもやもやした。


 三人はハルタの家の玄関に到着した。

「さっき私、あわてて飛び出しちゃったから鍵は開いてると思うけど……」

「オレが先に入る」

「それだとさ、ボクが勝手にハルタの家に入っていくみたいになっちゃうけど」

「ああ、そうか」

「三人で一緒に入るしかないんじゃない」

「う……それだと」

 ハルタ(体はアキトだけど)が困った顔になった。


「ハルタは部屋に見られたくないものがあるんだよね。それならボクら、片付くまで目をつぶってるよ。ナツミもいいよね?」

「あ、うん、アキトがそう言うなら……しょうがない協力する」

「ありがと。じゃあそうしようハルタ」

「うん。わかった」


 三人は玄関を開け、入ってすぐ右のハルタの部屋に入ろうとしたところに、リビングからハルタの母が出てきた。


「あら、三人そろうなんて久しぶり。ハルタ、あわてて出て行ったみたいだから何かと思ったけど、二人を呼びに行ってたのね」

「あ、えーと……」

 体はアキトなのにハルタが口を開こうとした。


「あ! そ、そうなんだオレ、ちょっとみんなで中学のこと話したいなって思って、呼びにいってたんだよね」

 ハルタをさえぎり、ナツミは懸命にハルタっぽい口調でごまかした。


「そうだったの。二人とも、ゆっくりしてってね。あとハルタ、いい機会だからちゃんと部屋片づけなさいね」

「……はい」

 ナツミは自分が怒られたような変な気分になったが、仕方なくそう答えた。

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