「あ、そうそう、ナツミは何を願ったの?」
ハルタはナツミに振ってごまかした。
「え? もう、バカハル! 秘密って言ったでしょ!」
「はは。じゃあ、アキトの願いは?」
ハルタは次にアキトに返した。
「え? あ、はは。ボクもやっぱり秘密にしておきたいし……」
「結局そうなるんじゃない。じゃあさ、アキトはかなったと思う? この入れ替わりで」
ナツミはちょっと口調がきつくなった。
「え? あ、えーと……かなっていないと思うけど」
「ほーら。やっぱり願かけは関係ないってことでしょ?」
「うーん……」
「あ! オレはちょっと願いがかなったかも」
ハルタが突然声を上げた(声はアキトだけど)。
「え?」「え?」
アキトとナツミの言葉がナツミとハルタの声で重なった。
「オレさ、アキトみたいに背が高くて頭よくなりたいなってずっと思ってたからさ」
「え……」
「えーとハル? それ神社で願ったんじゃないんでしょ」
ナツミがあきれ顔で(顔はハルタだけど)ツッコミを入れた。
「それはそうだけどさ。なんか背が高くなって気分がいいんだよね」
ハルタが自分みたいになりたいと思っていたことにアキトは驚いたが、ちょっと心がむずむずした。
「ああ、そういうことなら私も願いがかなったかも」
「え? ナツミ、オレになりたかったの?」
ハルタが(体はアキトだけど)驚きの声を上げた。
「そんなわけないじゃん。あ、でもそうでもあるか。私、一度男の子になってみたかったんだよね」
「はあ?」
ハルタが(体はアキトだけど)気の抜けた声を出した。
「ハルタになったって気付いたときはショックだったけど、今は面白い気もしてる」
「はああ?」
ハルタがますます気が抜けた声を出した。
「ふふ、例えばトイレとか」
「え?」
「どうやるのかなって」
「それって立ちションしたいってこと?」
「バカハル! はっきり言わないの!」
「ああ、いいぜ。オレの体を存分に使ってくれて」
「ええ? なんだか拍子抜けするなあ」
「だって昔はみんな一緒にお風呂入ってたじゃん。あ、でもうちはトイレ、立ちション禁止だから」
「もう、しないから!」
「あー、ナツミ。話の途中で悪いんだけど、それもさ、神社では願ってないよね?」
アキトが脇からちょっと困った顔で聞いた。
「まあそうだけど。そうそう、アキトは私の体に入ってどういう気分?」
なんだかナツミは開き直ったのか、さっきからちょっと調子に乗っている(体がハルタだから?)。
「ど、どうって言われても……なんか変な感じだよ。ちょっと胸あるし……」
「ああ、それちょっとセクハラ発言だけど。そりゃあ私、女子だからね」
「あ、もしかしてアキト、女の子になりたかったとか?」
ハルタが(体はアキトだけど)無邪気な声を上げた。
「そ、そんなわけないよ。それに、ナツミになっちゃうなんて……」
「ホント、バカハル。私の体に入っちゃったアキトの気持ち考えなさいよ」
自分のことは棚に上げてナツミが言った。
「なんだよナツミ、オレの体で遊ぼうとか思ってるくせに!」
「うん。遊ばせてもらうよ」
「くそー、好きにしろよ」
「はは、二人とも前向きでいいけど、このまま戻れなくなったらどうするの?」
「え!」「あ!?」
「だからさ、原因を突き止めて、なんとかしなきゃ」
「ああ……」「うん……」
「で、ナツミの説だとすると、ボクだち一生このままだ」
「宇宙人呼ぶ手段がないか……」
ナツミがつぶやいた。
「ハルタの説はさ、仲良しの人類がみんな入れ替わっちゃうからあり得ないでしょ」
「あ、はは。そうだな」
「ということは、やっぱり願かけ石、ハルタが夢で見たキツネの神様が原因なのが、ボクたちにとっても最善だと思うんだよね」
「どうして?」
ナツミが首をかしげた。
「だってさ、神様の力で入れ替わったのなら、もっかい願かけすれば元に戻してくれる可能性が高いでしょ」
「ああ、確かに!」
ハルタ(体はアキトだけど)が声を上げた。
「非科学的かもしれないけどさ、試してみる価値はあると思うんだよね。神社に行って」
アキト(体はナツミだけど)はやっぱり冷静だ。
「あ、それならナツミ、パジャマから服、着替えてよ。オレの服、壁際にある中から選んでくれていいよ」
「ええ? この汚い中から?」
「汚くないよ。どれも二日ぐらいしか着てないし」
「もう……でもまあいいか。男の子の気分を味わうにはそれくらいワイルドな方がね」
そう言ってナツミ(体はハルタだけど)は服の物色を始めた。
「でもオレのアキトの体はオレの服じゃちっちゃいなあ」
「そうだ。私の体もそのジャージじゃかっこ悪いし。アキトもうちで着替えてよ」
「そうだね。じゃあさ、ボクの家とナツミの家に行って着替えてから神社に行こうか」
「わかった」
「そうしよ」