三人は部屋を出て玄関に向かった。
ナツミはハルタの靴を履き(体はハルタだから当たり前だけど)、残りの二人は履いてきたサンダルを突っかけた。
「おばさん、おじゃましましたあ!」
自分の家なのに、ハルタが(体はアキトなので)大声であいさつした。
二人は笑いそうになったが、必死でこらえた。
「言ってみたかったんだよね、母さんにおばさんって」
外廊下に出てからハルタ(体はアキトだけど)が言った。
「もうちょっとで笑っちゃうとこだったぞ」
「ホント、やっぱりバカハルなんだから」
「いいじゃんか。少しぐらいふざけたって。こんな機会そうそうないだろ」
「だからさ、元に戻らなかったら永遠にその機会が続いちゃうよ」
「あ、そうだった。早く着替えて神社行かなきゃ」
二人は外階段を上り、まずアキトの家を目指した。
三人はアキトの家の玄関前までやってきた。
「あれ?」
ハルタが(体がアキトなので)ドアを開けようよしたけれど、カギがかかっていた。
「あ、そうだ。ボクの両親、きょうは出かけるって言ってたっけ」
「アキトがいないのにカギ閉めて行っちゃったの?」
ナツミが聞いた(体はハルタだけど)。
「ああ、でも大丈夫だよ」
そう言ってアキトは(体はナツミだけど)自分の部屋の出窓の下にあるエアコン室外機の裏に手を伸ばした。
「ここにカギがあるから」
「ええ? それって危なくない?」
ナツミがちょっと驚いて聞いた(体はハルタだけど)。
「ああ、ボクがマンション内にいる時だけだから、これは。ハルタさ、ボクのスマホ持たないで、サンダル突っかけてうちから出たでしょ?」
「え? ああ、うん」
「それってほぼボクがハルタの家に行くときの行動だからさ。結果オーライだよ」
「そうだったんだ」
アキトがカギを開け(体はナツミだけど)、三人はアキトの家に入った。
「ただいまあ」
ハルタが(体はアキトなのに)声を上げた。
「ここでもやるとはね。まあ、誰もいないけど」
「ホントあきれる、バカハルには」
三人は入ってすぐ左のアキトの部屋に入った。
「ボクの部屋のどこに何があるか、ハルタほとんど知ってるよね」
「え? ああ、まあそうだけど。じゃあ、服はオレが選んでいい?」
「いいよ」
ハルタは(体はアキトだけど)クローゼットを開け、服を物色し始めたが、アキトが体(ナツミだけど)をもじもじし始めた。
「あれ? どうしたのアキト?」
自分の体だけに、ナツミが気付いた。
「あ、はは……えーと、あのさ……ト、トイレ……行きたくなっちゃった」
「ええ? 私の体で!?」
「あ、ごめん……」
「あーもう、しょうがない。私も覚悟決めてるから。行って来て」
「え?」
「どうやればいいのか……」
「普通に座ってすればいいだけでしょ」
「あ、ああそうだね」
「あと、ちゃんとふいてね。女の子なんだから」
「えええええ!?」
「聞かなかったことにする。あと、どうしたか報告しなくていいから」
「あ……はい」
「ナツミさ、なんか肝っ玉座ってるよな」
服を着替えていたハルタが口を出した。
「もう、バカハルは黙ってて。私に入ってるの、ハルじゃなくてホントよかった」
「へいへい」
「あ、じゃあ行ってくる」
アキトは(体はナツミだけど)部屋を出て行った。とりあえず使い慣れてる自分の家のトイレでよかったと思いながら。
「オレとオレ、なんか変な気分だよな」
着替えを終えたハルタが(体はアキトだけど)、自分とナツミ(体はハルタだけど)を指差して言った。
「外から見たら、ハルタとアキトにしか見えないでしょ」
「はは、確かに。あ、ナツミもトイレ行っておいた方がいいんじゃないの? きのうオレ、夕飯いっぱい食べたから、大きい方も出ると思うし」
「もう! ホントにバカハルはデリカシーない……けど、まあ確かに、行っておいた方がいいかも」
「そうだろ、あと、立ちションはだめだぞ」
「バカ! わかってるって」
部屋のドアが開き、アキトが(体はナツミだけど)戻ってきた。
「あ、あの……」
「報告はいらないって言ったでしょ」
「あ、はい……」
「さて、私もトイレ行ってくるかな」
「あ、オレの、できるだけ見ないでね」
「このバカハル! 見るか!」
今度はナツミが(体はハルタだけど)トイレに向かった。