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第12話

「あーあ、オレ、お子さまだってばれちゃう」

「え?」

「アキトだって知ってるだろ。たまに一緒に風呂入ってるんだから」

「あ、はは、そういうことか」


「今はオレ、ちょっと大人かな?  アキトのおかげで」

「なんだよそれ」

「あとでよく見とこうかなあ」

「うわ。それだけはやめて」

「はは。なんかオレもさ、入れ替わり楽しくなってきちゃったよ」


「ホントお前ら、前向きだよなあ。ボクは不安しかないよ」

「まあアキトは体がナツミになっちゃってるからね」

「これで元に戻らなかったら……」

 冷静なのが裏目に出て、アキトはいろいろ考えてしまって不安が膨らんできた。

「女子っていろいろたいへんだからなあ」

「とにかく、今日中に元にもどさなきゃ」

「そうだな。あ、これ最新巻!」


 ハルタは(体はアキトだけど)机の上にあった人気マンガの最新巻を見つけて叫んだ。

「読んでいい?」

「いいけど……ハルタはのんきだなあ。それに時間ないよ」

「ナツミが帰ってくるまでちょっとだけ。あとで貸してね」

「ああ」

 ハルタは(体はアキトだけど)マンガを読み始めた。


 アキトはマンガを読む自分の体を不思議な思いで眺めていた。

(ボクの中にハルタが入ってる。神様がボクたちの願いをかなえたっていうのなら、これってどういう意味があるんだろう)


 ドアが開き、ナツミ(体はハルタだけど)が帰ってきた。

「スッキリした? オレの体」

「はいはい。しましたよ」

「それはよかった」

「ハルタはしなくていいの?」

「あ、そうだな。朝もトイレ行ってなかったし。オレも行ってこよ」


   ◇


 三人は神社の入口に来た。やっぱりうっそうと木が茂っている。

「早く行こうぜ」

 ハルタ(体はアキトだけど)が参道を歩き出し、二人が続いた。


 ほこらの前には赤い座布団に乗せられた願かけ石があった。

「きょうは私がハルタの体だから、アキトの体のハルタと私が両脇で持ち上げて、私の体のアキトは正面で支える役なのかな」

「はは。なんだかややこしいけど、そうしよう」

 そう言って三人は石を持ち上げようと近づいた。


「あれ? なんか貼ってあるぞ」

 ハルタ(体はアキトだけど)が石に紙が貼ってあるのを見つけた。


 【土日月休業】


 紙には毛筆のような筆跡でそう書いてあった。

「なんだこれ?」

「あ! でもこれが貼られてるってことは、ボクらを入れ替えたのはやっぱりこの願かけ石ってことじゃない?」

 アキト(体はナツミだけど)が冷静に推論を立てた。


「でも、もしかして……願いは一度だけとか……」

 ナツミ(体はハルタだけど)が怖いことを言った。


「ええ? それじゃあオレたち、一生このままかよ!」

「そんな……」

 さっきまで肝が据わっているように見えたナツミ(体はハルタだけど)はそうつぶやいてへたりこみ、目に涙をためている。


「おい! キツネ野郎! 出て来いよ! 願い叶えるとか言ってオレたちに呪いをかけやがったな。お前、神様じゃなくて妖怪か何かなんだろ!」

 ハルタ(体はアキトだけど)が大声で神様をののしった。


 その瞬間、一迅のつむじ風が吹き、巫女の装束を着た小さな女の子が姿を現した。みけんに三つの赤い印を付けている。


「きさま、われを妖怪とぐろうするか。われはウカミノタマぞ。願いをかなえてやったというのにその物言い、天罰を下してやろうか」


「なんだこのチビ?」

「むむむ。重ねてわれをぐろうするとは……」

「あ、あの……」

 アキト(体はハルトだけど)が口を挟んだ。

「うぬ?」

「あなたさまはハルトの夢に出てきたキツネの神様ですね」

「そうじゃ。お主は礼儀正しいのう」

「あの、願いをかなえたとおっしゃいましたが、ボクたち困っているんですけど……」

「んん? どういうことじゃ?」

「体を入れ替えてほしいなんて誰も願ってないんです……」

「うむ?」

「だから、どうか元に戻していただけませんでしょうか?」

「何と! 神のおぼしめしを断ると!?」


「あ、いやその……」

「まあもどしてやってもいいが、われが苦労して考えた恩恵がわからぬというのは気に入らぬのう」

「あの、そう言わずにどうか……」


「そうじゃのう。仕方ない、われの恩恵の意味を理解したらもどしてやろう。そこにある通り、土日と月曜日は休みじゃがな」



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