「あーあ、オレ、お子さまだってばれちゃう」
「え?」
「アキトだって知ってるだろ。たまに一緒に風呂入ってるんだから」
「あ、はは、そういうことか」
「今はオレ、ちょっと大人かな? アキトのおかげで」
「なんだよそれ」
「あとでよく見とこうかなあ」
「うわ。それだけはやめて」
「はは。なんかオレもさ、入れ替わり楽しくなってきちゃったよ」
「ホントお前ら、前向きだよなあ。ボクは不安しかないよ」
「まあアキトは体がナツミになっちゃってるからね」
「これで元に戻らなかったら……」
冷静なのが裏目に出て、アキトはいろいろ考えてしまって不安が膨らんできた。
「女子っていろいろたいへんだからなあ」
「とにかく、今日中に元にもどさなきゃ」
「そうだな。あ、これ最新巻!」
ハルタは(体はアキトだけど)机の上にあった人気マンガの最新巻を見つけて叫んだ。
「読んでいい?」
「いいけど……ハルタはのんきだなあ。それに時間ないよ」
「ナツミが帰ってくるまでちょっとだけ。あとで貸してね」
「ああ」
ハルタは(体はアキトだけど)マンガを読み始めた。
アキトはマンガを読む自分の体を不思議な思いで眺めていた。
(ボクの中にハルタが入ってる。神様がボクたちの願いをかなえたっていうのなら、これってどういう意味があるんだろう)
ドアが開き、ナツミ(体はハルタだけど)が帰ってきた。
「スッキリした? オレの体」
「はいはい。しましたよ」
「それはよかった」
「ハルタはしなくていいの?」
「あ、そうだな。朝もトイレ行ってなかったし。オレも行ってこよ」
◇
三人は神社の入口に来た。やっぱりうっそうと木が茂っている。
「早く行こうぜ」
ハルタ(体はアキトだけど)が参道を歩き出し、二人が続いた。
ほこらの前には赤い座布団に乗せられた願かけ石があった。
「きょうは私がハルタの体だから、アキトの体のハルタと私が両脇で持ち上げて、私の体のアキトは正面で支える役なのかな」
「はは。なんだかややこしいけど、そうしよう」
そう言って三人は石を持ち上げようと近づいた。
「あれ? なんか貼ってあるぞ」
ハルタ(体はアキトだけど)が石に紙が貼ってあるのを見つけた。
【土日月休業】
紙には毛筆のような筆跡でそう書いてあった。
「なんだこれ?」
「あ! でもこれが貼られてるってことは、ボクらを入れ替えたのはやっぱりこの願かけ石ってことじゃない?」
アキト(体はナツミだけど)が冷静に推論を立てた。
「でも、もしかして……願いは一度だけとか……」
ナツミ(体はハルタだけど)が怖いことを言った。
「ええ? それじゃあオレたち、一生このままかよ!」
「そんな……」
さっきまで肝が据わっているように見えたナツミ(体はハルタだけど)はそうつぶやいてへたりこみ、目に涙をためている。
「おい! キツネ野郎! 出て来いよ! 願い叶えるとか言ってオレたちに呪いをかけやがったな。お前、神様じゃなくて妖怪か何かなんだろ!」
ハルタ(体はアキトだけど)が大声で神様をののしった。
その瞬間、一迅のつむじ風が吹き、巫女の装束を着た小さな女の子が姿を現した。みけんに三つの赤い印を付けている。
「きさま、われを妖怪とぐろうするか。われはウカミノタマぞ。願いをかなえてやったというのにその物言い、天罰を下してやろうか」
「なんだこのチビ?」
「むむむ。重ねてわれをぐろうするとは……」
「あ、あの……」
アキト(体はハルトだけど)が口を挟んだ。
「うぬ?」
「あなたさまはハルトの夢に出てきたキツネの神様ですね」
「そうじゃ。お主は礼儀正しいのう」
「あの、願いをかなえたとおっしゃいましたが、ボクたち困っているんですけど……」
「んん? どういうことじゃ?」
「体を入れ替えてほしいなんて誰も願ってないんです……」
「うむ?」
「だから、どうか元に戻していただけませんでしょうか?」
「何と! 神のおぼしめしを断ると!?」
「あ、いやその……」
「まあもどしてやってもいいが、われが苦労して考えた恩恵がわからぬというのは気に入らぬのう」
「あの、そう言わずにどうか……」
「そうじゃのう。仕方ない、われの恩恵の意味を理解したらもどしてやろう。そこにある通り、土日と月曜日は休みじゃがな」