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第13話

「ふざけんな! 今すぐ戻せよ!」

 ハルタ(体はアキトだけど)が怒りの声を上げた。


「なんだ、気が短いおのこだな。お主の夢に出て教えてやったのに、われの思いがわかっておらんかったのか。よくよく考えるのだな。まあ、火曜日以降に来るがよい」

 そう言い終えると小さな女の子はすうっと消えた。


「あ、待てこら!」

 ハルタ(体はアキトだけど)が叫んだが、反応はなかった。


「あのさ」

 神様が現れてちょっと落ち着いたようで、ナツミ(体はハルタだけど)が話し始めた。

「私、ときどき男の子になってみたいって思ってたんだ。それにハルタはさ、アキトみたいに勉強できたらってずっと言ってたでしょ。アキトは……私になりたかった?」

「ええ? そんなことあるわけないでしょ」

「そうかあ。じゃあアキトはとばっちり?」

 ナツミ(体はハルタだけど)は首をかしげた。


「あいつ、オレの夢では三人の願いをすべてかなえるみたいなこと言ってたから、それは違うんじゃないの」

 ハルタ(体がアキトだから?)が珍しく論理的なことを言った。

「うーん。そうかあ」

「やっぱさ、何を願ったか、言うしかないんじゃない?」

 ハルタ(体はアキトだけど)は覚悟を決めたようにそうつぶやいた。


「ええ? 私はいやだから」

「ボクもちょっと……」

「なんだよそれ、そんなにたいへんなこと願ったの?」

「じゃあ、ハルは何を願ったの?」

「え? ああ……」

「ハルも言えないんじゃん」


「わかった。言うよ。言わないと始まらないからな」 

 ちょっと間があったが、ハルタは覚悟を決めたように真剣な顔(顔はアキトだけど)になった。


「オレはお前のことが好きだ!」

 ハルタ(体はアキトだけど)はアキト(体がナツミなので)の方を向いてそう宣言した。

「え?」

 アキトは自分が自分に告白してるみたいになっていることと、自分の体の中にいるハルタが自分に好きだと言ったみたいで混乱した。


「ちょ、ちょっとハル! 何言い出すの!」

 ナツミ(体はハルタだけど)が驚いた声を上げた。横から見ていると、今のはアキト(中身はハルタだけど)が自分に告白したようにも見えた。


「オレは本気だから」

「あのさ、お前ってどっちのこと? 私? アキト?」

 ナツミ(体はハルタだけど)が聞いた。

「あ、そうか……ナツミだよ……」

 ハルタ(顔はアキトだけど)はバツの悪そうな顔になった。


「……ハルタ、それを願ったの?」

 ハルタがナツミのことを好きなことはとっくに気付いていたアキト(体はハルタだけど)が聞いた。

「あ、うん……ナツミにオレのこと好きになってほしいって……」

「ああ、そういうことか」


「あ、えーとハル? 私、ハルのこと嫌いじゃないけど……」

 困り顔でナツミが言った。

「わかってるよ。お前、アキトのことが好きだもんな」

「え?」

「隠そうとしてたみたいだけどさ、さすがのオレでもわかるよ」

「あ……うん。ごめんハル」

「なんだよ、謝るなよ、オレが悲しくなるじゃないか」

「あ、うん……」

「ナツミの願いはそれだったのか?」

「え? ああ、こうなったら言うね。私はアキトが好き。アキトに振り向いてほしいって願った」

 ナツミ(体はハルタだけど)はそう言ってハルタ(体はアキトだからアキトにも言ったみたいだけど)の顔を見た。


 アキト(体はナツミだけど)はドキッとした。今度は横から見るとハルタが自分に告白したみたいだったからだ。

「なんだよ、オレの顔で見つめるなよ。オレはアキトじゃないぞ……って今はアキトか」


「そうだ。アキトは何を願ったの?」

 ナツミが聞いた。

「え、ボク……ボクはやっぱりちょっと……」

「なんだアキト、男らしくないぞ。まあ、今はナツミの体だけどな」

 自分の声でハルタにそう言われ、アキトは困惑した。


「私、アキトが好きだからたぶん気付いちゃってたんだけど……アキトの願い」

「え?」

「アキトが自分で言った方がいいと思う。ハルタ、びっくりしないでね。あと、アキトのこと、嫌いにならないって約束して」

「え? どういうこと? オレがアキトを嫌いになるわけないじゃん」

「でも約束して」

「うーん。わけわかんないけど……するよ」


 アキトはもう覚悟を決めるしかないと思った。

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