「……ごめんハルタ」
「え? 何謝ってるの? アキト」
「ホントは一生言わないつもりだったんだけど……ボク……ハルタのことが好きなんだ。ハルタがボクのことを好きになってほしいって願ったんだ」
「え? それはオレ、知ってるし、オレ、アキトのこと好きだぞ」
「もう、バカハル! そうじゃないって」
「え? どういうこと?」
「ホントごめん……気持ち悪いよね」
「あ!」
ちょっと間があった。
「……そうかあ。ああ、そうか、はは」
さすがのハルタ(体はアキトだけど)も気付いてちょっと困った顔になった。
「もう友だちじゃいられないよね?」
アキトがちょっとうつむき加減で聞いた。
「え? そんなことあるわけないだろ……」
「そんなのさ、最近じゃ普通でしょ? アキトもなんで謝ってるのよ」
ナツミが割って入った。
「あ、ああ、うん……」
「あ! 学校でも習ったよな。なんて言うんだっけ?」
ハルタが声を上げた。
「LGBTQでしょ。でもさ、アキトはアキトだからね」
また少し間があって、ハルタが言った。
「あ、うん。そうだよな。オレ、アキトなら付き合ってもいいかも」
「もう! バカハルはホント、デリカシーないなあ」
「え? いやあの……うそじゃないんだけど……」
「それに、さっき私のこと好きって言ったのはどうしたの?」
「そうだけどさ。じゃあナツミ、オレと付き合ってくれるの?」
「え? それはまあ、お友だちなら」
「それじゃあ今と変わんないじゃん」
「いいじゃないそれで」
「はは。二人ともありがと。そうだね。ボクも、お友だちならナツミと付き合ってもいいかな」
アキトは二人の様子を見てほっとしていた。
「もう、アキトもデリカシーないなあ。私だってアキトのこと、本気で好きなのに」
「もう、オレがへこむこと言うなよ、ナツミ」
「言うよ。だってこうなったら私、ハルがライバルってことじゃん」
「えええ? それじゃあオレはアキトがライバル?」
「それならボクはナツミがライバルになるけど……あっ!」
アキトが何かをひらめいた。
「どうしたの? アキト」
「神様の意図がわかったよ」
「どういうことだよ、アキト」
「ボクらの願い、かなってるみたいに見えるんだ。体の入れ替わりで」
アキトが説明を始めた(体はナツミだけど)。
「まずさ、ハルタがボクに入ってるでしょ。で、ナツミはハルタに入って、ボクがナツミに入ってる。ということは、三人が一方通行の片思いだったはずなのに、見た目では全部が両想いみたいになってるんだ」
「うう。頭の悪いオレにはよくわからない……」
「ボクに入ってる今のハルタの視点から考えてみて。ボクの今の体はナツミで、好きなのはハルタだから、横から見ると、見た目はナツミがハルタを好きで、中身はボクがナツミを好きって構図になってるんだ」
「あ、確かに」
「で、ナツミはボクのことが……ホントに好きなの?」
「もう、何回も言わせないでよ」
「あ、ごめん。信じられなくてさ。うれしいけど……ごめん」
「もう、こんなとこで私のこときっちり振らないでよ」
「……ごめん」
「はは、俺にも勝ち目があるかな」
ハルタ(体はアキトだけど)が微笑んだ。
「あ、それはないと思う。今のアキトの体のままならともかく。ああ、それでもやっぱりないかな」
ナツミは冷たく言い放った。
「なんだよナツミ、それはないだろ」
「はは、話の続きね。ナツミはボクが好きってことは、今のボクの体に入ってるのはハルタだから、ここでもハルタの願いがかなってる。で、ナツミはボクの体に入ってるから、ボクの願いもかなってる」
「なんかすごいな」
「そういう感じでさ、入れ替わりによってボクらの願いが全部、二重にかなってるように見えるんだ」
「なるほどね。でも、実際はぜんぜんかなってないけどね」
ナツミが(体はハルタだけど)ちょっとあきれた声で言った。
「そうなんだよなあ」
アキトが難しい顔になった。