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第16話

「ええ!!」

 微妙に違和感を感じる自分の叫び声にたたき起こされるようにアキトは目を覚ました。

「え?」

 アキトはびっくりして立ち上がったが、横の布団を見ると、ナツミの体が寝ている。あれ? 自分が入っていたはずなのに?


「ナツミ! 起きて!」

 アキトはついそう言ってしまったが……。

「ナツミは私だけど」

 反対側の布団の上に座っていた自分の体がナツミの口調で答えた。さっきの叫び声の主だった。

「ええ!? オレ、ナツミになっちゃった!?」

 今度は目が覚めたナツミの体がハルタの口調でそう言った。

「ちょっと、私の中にいるのバカハルでしょ! なに胸触ってるの!?」

「しょうがないだろ。確かめただけだよ」


「あのさ、これってまたあの神様のしわざだよね」

 二人に挟まれたアキト(体はハルタになっちゃったけど)は冷静だった。一番恐かったハルタへの告白もしちゃったし、もうジタバタしてもしょうがないと達観している。


「そうか! あのキツネ、間違えやがったな! ふざけやがって!」

 ハルタ(体はナツミだけど)は一段と甲高い声で怒った。

「でも、やっぱり戻してってまた頼みにいくしかないよね。まあこれで原因はほぼ間違いないから、きのうみたいにあわてなくてもいいかな」

 アキトが冷静になだめた。

「そうね。朝ごはん食べてからにしよ」

 ナツミももう肝が据わっている。


「ナツミ、あのさ……オレ、トイレ行きたいんだけど」

 ハルタ(体はナツミになっちゃったので)が申し訳なさそうな声を上げた。

「え? 行って来れば?」

「ん? いいの? きのうはあんなに恥ずかしがったのに……あ!」

「なに?」

「そうか。きのうはアキトだったからね。そりゃ恥ずかしがるか。はいはい」

「もう、何が言いたいの、バカハル! さっさと行って来れば!」

「くそー、オレが何してもいいんだな?」

「……そういうことしないのは知ってるから。ハルはね」

「え? まあな、しないよ。するわけないだろ」

「そういうとこは好きなんだけどね」

「え? ああ、幼なじみとしてだろ。あーあ」

 そう言ってハルタ(体はナツミだけど)は部屋を出て行った。


「ナツミ。これってさ、それぞれ好きな人の中に入っちゃったってことなんだけど……」

 アキト(体はハルタになっちゃったけど)が言った。

「え? ああ、そうなるよね」

「ボク、ハルタの体に入っちゃって、なんだか変な気分なんだ」

「それは私も。でも、アキトをどうこうできるわけでもないし。本物のアキトは目の前でハルタになっちゃってるしね」

「そうだね。でもこれってさ、ボクらが試されてるような気がしてきたんだ」

「どういうこと?」

「好きな相手の姿かたちが好きなのか、それとも心が好きなのかってさ」

「ああ……」

「ボクはハルタが好きだけど、今のハルタの体はナツミでしょ。好きって気持ちはどこに行っちゃうんだろう。ボクはハルタの体の中に入ってるし」

「うーん……」

「ナツミはボクのことが好きって言ってくれたけど、今のボクの体はハルタだよ。ナツミはボクの体に入ってるけど、自分で自分が好きってわけにはいかないでしょ」

「うん、確かに。それで変な気分なんだね」


「ああ、すっきりした」

 ハルタ(体はナツミだけど)が戻ってきた。

「ナツミの体ってさ……」

「おい! それ以上言うと殺す」

 ナツミがドスの聞いたアキトの声を出した。

「うわっ、こわ。アキトはぜったいそんな声出さないぞ」

「いいから座ってね、ハ・ル・タ・くん」

 今度は急に優しい声になった。

「あ、うん……」

「ハルタはさ、私になってどんな気分?」

「え? ああ、そりゃあさ、ナツミの中だと思って最初はちょっとドキドキしたけど、これじゃあ好きもなにもないよな。本物のナツミはお前……アキトの中にいるわけだし」

「そこなんだけどさ、アキトの中にいる私、アキトの体ともども好きって言える?」

「えええ? そんなこと聞かれてもなあ。二人とも昔から好きだけど、今は好きって意味が違うしなあ」

「それってホントに違うのかな?」

「それをアキトの声で言われてもなあ……」

「私、友情と恋愛ってそんなにすっぱり割り切れないんじゃないかって思い始めてる」

「え?」

「バカハル……ぜんぶ言わなきゃわかんないかなあ。私、ハルのこと好きなのは友情だと思ってたけど、そうじゃない部分もあるかもってこと」

「え? それって希望持てるってこと?」

「うーん、でも、正直言ってアキトへの好きって思いのが強いかな」

「なんだよ。オレを泣かすつもりか」


 横で聞いていたアキト(体はハルタだけど)が口を挟んだ。

「ボクはさ、ハルタのことを好きなのは友情だと思ってたんだけど、それだけじゃないような気持ちの方が強くなってきて、よくわからなくなってる。ナツミのことも……もちろん好きだけど」

 難しい顔(顔はナツミだけど)で聞いていたハルタが答えた。

「オレはさ、アキトもナツミも幼稚園の時からの腐れ縁でほとんど空気みたいだったんだけど、いつの間にかナツミが好きだと思ってる自分に気付いたんだよな。それってさ、アキトへの好きとはやっぱ違うんだよなあ」

 うなずきながらアキト(体はハルタだけど)が言った。

「神様はさ、こうやってボクらにいろいろ考えさせようとしてくれてるのかもしれないって思うんだよね」

「ええ? あのキツネがか? ぜったい間違えただけだって」

 ハルタ(体はナツミだけど)が反論した。

「とにかく、朝ごはん食べたらまたあの神社に行かなきゃね」

 ナツミ(体はアキトだけど)はお腹がすいていた。

「わかった。じゃあダイニング行こうか」

 アキト(体はハルタだけど)が言った。 

「私、目玉焼き作るね」

「オレは何もできないぞ」

「わかったよ、ボクがトースト作るから」

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