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第2話 どうしてですか?

征太郎せいたろうさま、ですね」

「覚えていただき、光栄です。清子きよこさま」


 『清子』と呼んでいたあの人は、もういないことを悟った瞬間だった。

 手に持つ盲杖もうじょうがより一層、彼の今を物語っていた。


「どうしてですか?」

「なにがでございましょう」


 『なにが?』


 “なぜ、ここにいるの?”


 いや、清仁きよひとさまの乳母の調子が悪いから、鍼灸師を呼んだ。そして、来てくれたのが、征太郎さまだった。


 “違う。そんなことが聞きたいのではない”


「どうして、あなたは、鍼灸師になったのですか?」


 『目が見えなくなったから』

 それが適切な答えだろう。

 では、どうして、そんなことになったのか。


「教えて下さい」


 沈黙は長くは続かなかった。

 彼はそっと、唇を開いた。

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