夏休みが終わり、新学期の朝が訪れた。俺は目覚ましの音で目を覚まし、ベッドから起き上がると、まずは軽く伸びをした。窓から差し込む朝日が、部屋を柔らかく照らしている。俺は一人暮らしの静かな部屋で、今日から始まる新しい学期に向けて心を整えた。
洗顔を済ませ、鏡の前で髪を整える。寝癖を直し、シンプルなポニーテールにまとめると、制服に着替えた。夏服の白いブラウスとスカートが、清潔感を引き立てる。
朝食はトーストとヨーグルト、そしてオレンジジュース。手早く食事を済ませ、歯磨きをしながら今日の持ち物を確認する。前日に用意していたため、忘れ物はない。最後にリップクリームを塗り、身だしなみを整えた。
玄関でローファーを履き、ドアを開けると、爽やかな朝の空気が迎えてくれた。通学路は、夏の名残を感じさせる蝉の声と、秋の訪れを告げる涼しい風が交差している。俺は歩き慣れた道を進みながら、これから始まる新学期に思いを馳せた。
夏休みの間、俺は今後どうやって生活していくのかをずっと考えていた。最初は戸惑いもあったが、持ち前の冷静さと適応力で、今では自然に女性としての自分を受け入れることができている。
元々日々を淡々とこなすように生きてきた俺が、珍しくワクワクした感情を持っていることに気付いたのだ。
単調な日々が少し色づいたような気がして、女性としてこの身体で精一杯生きてみようと思う自分がいる。
これから始まる学校生活に不安は多少あれど、不思議と楽しみにしている自分がいることに気付く。
学校に到着し、昇降口で上履きに履き替える。廊下を歩きながら、クラスメイトたちの賑やかな声が耳に入ってくる。教室の扉を開けると、見慣れた風景が広がっていた。俺は自然に自分の席へ向かい、椅子に腰を下ろす。
その時、元気な声が俺に向けられた。
「おはよう、綾! 夏休み、どうだった?」
振り向くと、親しい友人である
「おはよう、奈帆。特に変わったことはなかったかな。」俺としては初対面ではあるが、綾にとっては仲の良い友だちだ。意識せずとも手慣れたようにすらすらと言葉が出てくる。
奈帆は椅子を俺の机のそばに引き寄せ、楽しげに話し始めた。
「私はね、家族で海に行ったり、バレー部の合宿があったりで、結構忙しかったよ。でも、楽しかった!」
「そうなんだ。」
「海ではね、日焼けしちゃって大変だったんだから!」奈帆は腕を見せながら笑った。
「日焼け止め、塗らなかったの?」
「塗ったんだけど、泳いでるうちに落ちちゃったみたいでさ。」
「そっか。」
「バレー部の合宿もさ、朝から晩まで練習漬けでヘトヘトだったよ。でも、みんなと一緒だから頑張れた!」
「大変だったね。」
「でもね、夜はみんなで肝試しとかして、すっごく盛り上がったんだよ!」
「怖くなかったの?」
「最初は怖かったけど、みんなでいると平気だったよ! 」
「よかったね。」
「相変わらず綾は淡々としてるなー」
奈帆は満足げに微笑み、さらに話を続けた。
「そういえば、新しいカフェが駅前にできたんだって。今度、一緒に行かない?」
「いいね。」
「じゃあ、今週末とかどう?」と奈帆は提案した。
「予定はないから、たぶん大丈夫。」
「やった! じゃあ、土曜日の午後に駅前で待ち合わせしよう!」奈帆は嬉しそうに言った。
そこでチャイムが鳴り、みんなが席につき始める。
「綾、また後で話そ!」奈帆が自分の席に戻ると俺は小さく一息つく。
俺は元々親しい友だちもいなく、休み時間にはもちろんプライベートでも話すことがほとんどなかった。
別に人付き合いが苦手というわけではないが、部活にも所属せず学校が終わるとすぐに帰るという退屈な毎日を過ごしてきたのだ。
それが身体に引っ張られているのか、友だちと過ごすのも悪くないなと思う自分がいることに驚く。調子が狂わされることばかりだなと思いつつ授業に集中するのだった。