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第8話 ロルタリア



ロルタリアの王宮、その豪奢な厨房の奥で、スイーツクイーンと呼ばれる女王クラリスは、今日も憂鬱な気分に包まれていた。


大きなテーブルには、彼女が朝から作り上げたスイーツの数々が並んでいる。どれもこれも、職人が嫉妬するほど美しく、そして完璧な仕上がりだ。サクサクとしたパイ生地に、絹のように滑らかなクリーム。色とりどりのフルーツが見事に並べられ、見る者の目を奪う。


「うーん…今日もまた完璧ね。だけど…」クラリスはため息をつきながら、傍に控える侍女たちを見渡した。


「皆、どうぞ試食してちょうだい。いつものように、感想を聞かせてね。」女王は微笑んでそう言ったが、侍女たちはその言葉を聞いた瞬間、さっと視線を逸らし始めた。まるで目を合わせたら最後、逃れられない運命を悟っているかのように。


一人の侍女が勇気を出して進み出たが、その顔には困惑が浮かんでいる。「女王陛下、実は…最近、試食の回数が多く、皆、少々…その…体調が…」


「体調?」クラリスは首をかしげた。彼女の周りでは常に大量のスイーツが作られ、それを味見するのが彼女の側近たちの日常の一部だった。だが、最近になって誰もが試食を避けるようになり、次第に試食役が消えていったのだ。


「いくら食べても、もう誰も喜んでくれないのね…」クラリスは再びため息をついた。「私の作ったスイーツが悪いわけじゃない…けど、こんなに美味しいものを誰も食べたがらないなんて…寂しいわね。」


女王はふと、周りの目を気にしながらつぶやいた。「誰か、いくらでもスイーツを食べてくれる人はいないかしら…」


彼女は、その願いがもうすぐ叶うことをまだ知らなかった。運命が近づいている。彼女のスイーツ愛を分かち合う、無限の食欲を持つ「運命の人」が、すぐそこまで来ていることを…。




ロルタリアの国境を越えたフレイヤ一行は、この国に関する甘美な噂を耳にしてすぐに興味を惹かれた。特に「スイーツストリート」と呼ばれる首都ラ・シュクレの通りが話題に上がると、フレイヤの心は躍るばかりだった。


「スイーツストリート……もうその名前だけでわくわくするわ!」フレイヤは頭の中に浮かぶ数々のスイーツ店のイメージに、すでに心を奪われていた。


街道を進むにつれて、風が甘い香りを運んできた。フレイヤは胸いっぱいにその香りを吸い込み、目を輝かせた。「ここはまるで天国じゃない?」


しかし、その頃、ロルタリア国内では異変が起きていた。通常は人間に危険をもたらす魔獣たちが、突然姿を消していたのだ。森の猟師たちによると、魔獣たちは何かに怯えるようにして森の奥深くへと逃げ込んでいた。同様の現象は海でも発生し、魔獣が姿を見せなくなったことで漁業は大豊漁を続けていた。人々は不思議に思いながらも、この幸運を喜んでいた。


だが、フレイヤにとってそんな出来事はどうでもよかった。彼女の関心はただ一つ、スイーツを心ゆくまで楽しむことだった。


ついに首都ラ・シュクレの城下町にたどり着いたフレイヤ一行は、目の前に広がるスイーツストリートを見て歓喜した。フレイヤは目を輝かせ、歓声をあげた。「ここは天国ですか? 全てのお店を食いつぶすわ!」


その宣言通り、フレイヤは次々とスイーツ店に足を踏み入れ、見かけるスイーツを片っ端から注文していった。店員たちは最初、喜んでフレイヤに対応していたが、彼女の底なしの食欲に驚愕することになる。フレイヤが食べる量は常識を超え、どの店も次々と品切れ状態に追い込まれていった。


「また一軒、閉店に追い込んでしまったわね……次はどこかしら?」フレイヤは満足そうに微笑みながら、次のスイーツ店を探して歩き出した。


その頃、森や海での異変がロルタリアの女王クラリスの元にも報告されていた。しかし、彼女はその報告に対して特に関心を示さなかった。「魔獣がいなくなった?それはそれで問題ないわ。むしろ歓迎すべきことよ。」


そんな中、大臣の一人が別の報告を持ちかけた。「陛下、我が国に王国を追放された元聖女が訪れているとのことです。彼女は現在、どの国にも属しておらず、我が国に迎え入れることを検討してはどうでしょう?」


クラリスは一瞬興味を失いかけたが、ふと足を止めた。「追放された?つまり、何か問題があったということよね。そんな人物をわざわざ迎える必要はないわ。」


しかし、大臣は続けた。「ただ、噂によると、その元聖女は類まれなスイーツ好きだとか……」


その言葉に、クラリスの表情が変わった。彼女の瞳が輝きを取り戻し、興奮気味に言った。「スイーツ好きですって? それなら話は別ね……城にその聖女を招きなさい。私が作ったスイーツを存分に味わわせてやりましょう。」


「かしこまりました。すぐに使者を送ります。」大臣は頭を下げ、すぐに手配に取りかかった。


その時、一人の騎士が駆け込んできた。「陛下、大変です!城下に化け物のような女が現れ、スイーツ店を次々と品切れに追い込んでいます!」


「化け物?無銭飲食の類かしら?」クラリスは驚きつつも、興味を持った。


「いいえ、違います。彼女はお金を払っていますが、その量が尋常ではありません。すでに10店舗以上が閉店に追い込まれ、このままでは城下のスイーツ店がすべて品切れになる恐れがあります。市民からも『自分たちの分がなくなる』という苦情が寄せられています。」


クラリスはしばらく考え込んだ後、微笑みを浮かべた。「品切れになるほど食べ尽くす?面白いわね……その者を捕らえ……いや、丁重に城へ招待しなさい。私が彼女を嫌というほどスイーツでもてなしてやるわ。」


こうして、スイーツストリートで暴食していたフレイヤに、女王クラリスからの招待状が届くこととなった。果たして、フレイヤとスイーツクイーンの運命の出会いはどのように展開するのか──それは、すぐに明らかになるのであった。




フレイヤは、スイーツ店をまた一軒、品切れに追い込んだあと、満足げに次の店を探して歩き出した。彼女の後ろには、次々と閉店を余儀なくされた店の看板が掲げられ、店員たちは呆然とするばかりだった。


「さあ、次はどこに行こうかしら?」フレイヤは次のスイーツの計画を練りつつ、街中を歩いていた。


そんな彼女の前に、突然、騎士たちが現れ、彼女の行く手を遮った。騎士たちはきちんと整列し、その中の一人が前に進み出て、恭しく頭を下げた。


「聖女フレイヤ様、我が国の女王クラリス陛下があなたを城へお招きしております。どうか我々と共に城へお越しくださいませ。」


「え?」フレイヤは一瞬戸惑ったが、すぐに思い出した。「ああ、そうだ、スイーツクイーンのことね…」


一瞬、興味が薄れかけたが、「スイーツ」という言葉がフレイヤの脳裏に蘇った。「スイーツは出るのかしら?」と、彼女は興味津々に尋ねた。


騎士は笑顔で答えた。「もちろんでございます。女王陛下自ら、あなたに特別なスイーツを振る舞われることでしょう。」


「それなら話は別ね!」フレイヤの目は輝き、すぐに城へ行く決心をした。


しかし、その時、別の騎士団が勢いよく駆け込んできた。


「待て!」と、彼らは叫び、フレイヤたちの前に立ちはだかった。


「どうしたの?」とフレイヤが疑問を浮かべると、その騎士は険しい表情で言った。「お待ちいただこう。その暴食犯は、我々と共に来てもらう。」


「暴食犯?」フレイヤは困惑した顔で騎士を見つめた。


騎士は続けた。「あなたはこの街のスイーツ店を次々と品切れに追い込み、城下全体に混乱を引き起こしています。このままでは、市民たちがスイーツにありつけなくなり、生活に支障が出かねません!」


「暴食犯?」フレイヤは呆れたように繰り返し、その場に立ち尽くした。


「主様が暴食犯ですと?」わんわんことフェンリルが鋭く睨みつけ、声を低くした。「主様はただ、正当な代金を支払い、スイーツを楽しんでいるだけです。それが罪だというのか?」


「そうよね!」フレイヤも不満げに頷いた。「お金を払ってスイーツを食べてるだけなのに、なんでそんなこと言われなきゃならないの?」


騎士たちは少し戸惑いながらも、「しかし、その食べる量が尋常ではありません。このままでは、城下のスイーツ店が全て閉店する恐れがあるのです!」と主張した。


フレイヤは笑いをこらえきれなくなり、クスクスと笑い出した。「ふふ、そんなこと言われても、スイーツを食べるのが私の使命みたいなものなのよ。」


「どういたしますか、主様?」ティアちゃんが静かに尋ねた。


フレイヤは肩をすくめ、「まあ、せっかくだし、スイーツクイーンに会いに行くわ。どうせ、スイーツを食べるだけだしね」と軽やかに笑った。


「わかりました。主様がそうおっしゃるなら。」ハムちゃんことバハムートも静かに頷き、従者たちはフレイヤの後ろに立った。


「それじゃあ、城へ案内してくれるかしら?」フレイヤは騎士団に向かって手を振りながら言った。「私は暴食犯なんかじゃないけど、スイーツクイーンに会えるなら喜んで行くわ。」


騎士たちはしばらく困惑した様子だったが、最終的にフレイヤの言葉に従い、彼女を城へ案内することにした。


こうして、スイーツ店を次々と食いつぶしていたフレイヤは、「暴食犯」として城に向かうこととなった。しかし彼女にとって、それはただのスイーツを楽しむための旅の延長であり、何の問題もなかった。果たして、フレイヤとスイーツクイーンの運命の出会いが、どのように展開するのか──その答えは、すぐに明らかになる。




フレイヤは騎士団に囲まれながら、城へと連れて行かれる途中も飄々とした様子を崩さず、むしろ次のスイーツが何か気になって仕方がなかった。彼女の従者たち、ティアマト(ティアちゃん)、フェンリル(わんわん)、そしてバハムート(ハムちゃん)も、いつものように無言で彼女の後に続いていた。まるで護衛するかのように周囲を取り囲む彼らは、騎士団にすらその威圧感を感じさせていたが、誰もそれに触れようとはしなかった。


城の大広間に到着すると、女王クラリスが華やかにフレイヤを迎えた。彼女は美しい装いをまとい、その背後には豪華なスイーツのテーブルが並んでいた。


「お待ちしておりました、フレイヤ様。ようこそ、ロルタリアへ」とクラリスは微笑みながら、フレイヤに近づいた。


フレイヤは広間に目を向け、豪華に飾られたスイーツの数々を見て目を輝かせた。「これは…すごいわ!どれも美味しそう!」


「そうでしょう?」クラリスは誇らしげに頷いた。「ここに並んでいるスイーツは、すべて私が考案し、城下の店で提供されているものです。どうぞ、好きなだけ召し上がってください。」


フレイヤは驚きの表情を浮かべた。「え?全部あなたが考えたの?」


「ええ、そうです。スイーツは私の情熱であり、この国の誇りです。フレイヤ様もスイーツ好きと伺っております。ぜひ、私が作ったスイーツの数々を味わっていただければと思います。」


「それはもちろん嬉しいけど、こんなにたくさんあるなんて…さすがに驚いたわ。」フレイヤはテーブルに近づき、さっそく一つのケーキに手を伸ばす。「じゃあ、遠慮なく…」


一口食べると、彼女の表情が一変した。口の中に広がる甘さと繊細な味わいに、フレイヤは目を閉じて幸福感に包まれた。「これは…本当に美味しい!」


クラリスはその様子を満足そうに見つめ、「気に入っていただけて嬉しいです。フレイヤ様がこれほどのスイーツ愛好家だとは聞いていましたが、実際にお目にかかれて光栄です。」


「ええ、スイーツは私の生き甲斐よ!」とフレイヤは微笑みながら次々とスイーツを試していった。「このチョコレートケーキも…ふわふわのシフォンケーキも最高ね!」


二人はスイーツ談義に花を咲かせ、フレイヤはクラリスに興味深そうに質問を投げかけた。「でもどうして、あなたがこんなにスイーツを作ることに情熱を注いでいるの?」


クラリスは一瞬考え、微笑みながら答えた。「それは、スイーツには人々を幸せにする力があるからです。この国の人々が笑顔になること、そして自分自身がその一部になれることが私にとって何よりも大切なのです。」


「なるほどね…それは素敵な考えだわ。」フレイヤは感心しつつも、まだ食べ続けていた。「でも、こんなにたくさん作ってどうするの?食べきれないわよね。」


クラリスは笑いながら、「それが問題で、最近は私のスイーツを試食してくれる人が少なくなってしまっているのです。皆、お腹いっぱいになってしまうようで…でもフレイヤ様なら心配いらないわね。」と答えた。


「それなら任せて!私は無限にスイーツを食べられるわ!」とフレイヤは誇らしげに胸を張った。


その言葉にクラリスは驚きの表情を浮かべ、「無限に食べられる…ですって?」と繰り返した。


「そうよ。スイーツを食べると私の力がどんどん増えるの。だから、どれだけ食べても大丈夫なのよ。」フレイヤは笑顔でスイーツを次々と平らげていった。


クラリスはその光景を見て、ようやく気づいた。「フレイヤ様…あなたこそが、伝説の聖女では?」


フレイヤは一瞬戸惑ったが、すぐに笑って答えた。「まあ、そんなものかもしれないわね。でも、今はスイーツが一番大事なのよ!」


クラリスも笑顔を返し、「それなら、私もこれからもっと美味しいスイーツを作らなくてはなりませんね。フレイヤ様に喜んでいただけるように!」と決意を新たにした。


こうして、フレイヤとクラリスはスイーツの話題で意気投合し、ロルタリアでの新たな関係が築かれた。スイーツクイーンと聖女の出会いは、ロルタリアに新たな風を吹き込むことになるだろう。


その後、クラリスはふと思い出したかのようにフレイヤに声をかけた。「そうそう、フレイヤ様…」


「ん?」フレイヤは、次のスイーツに手を伸ばしながら答えた。


「実は…もう一人、別の招待客がいたはずなのです。街のスイーツ店を次々と品切れ閉店に追い込んだ方も城にお迎えしようとしたのですが…」


すると、すぐに騎士の一人が進み出て、やや慌てた様子で報告した。「恐れながら陛下、その“暴食犯”と呼ばれた者は、実は…聖女フレイヤ様ご本人であります。聖女様と暴食犯は、同一人物でございました。」


「なにそれ?」フレイヤがぽかんとした表情を浮かべた。


クラリスは、しばし騎士の言葉を理解できずに立ち尽くした後、「暴食犯?そんな罪状、ありますか?私が、丁重にお連れしろと言ったはずですが、何故そのような無実の罪をでっちあげてお連れしたのですか?」と騎士たちに厳しく問いただした。


騎士たちはすぐに頭を下げ、「申し訳ございません!」と謝罪した。


クラリスはすぐにフレイヤに向き直り、「フレイヤ様、本当に申し訳ございません。私の部下が不躾な対応をしたことを心からお詫び申し上げます。どうか、これに免じて許していただけますでしょうか?」と、スイーツの山を指し示した。


フレイヤは、軽く肩をすくめて笑いながら答えた。「まあ、気にしてないわよ。だって、スイーツがこんなに美味しいんだもの。それだけで私は幸せよ!」


クラリスはフレイヤの寛大さに感謝し、「ありがとうございます、フレイヤ様…これからもぜひ、私の作るスイーツを存分にお楽しみくださいませ。」と、頭を下げた。


フレイヤはニッコリと笑って、再びスプーンを手に取り、次々とスイーツを口に運んでいった。その光景を見守るクラリスの顔には、深い感謝と安堵の表情が浮かんでいた。


クラリス女王は、フレイヤがスイーツを次々と食べていく様子に呆然と立ち尽くしていた。自らのスイーツをここまで嬉しそうに、美味しそうに食べてくれる姿を目の当たりにしたのは、生まれて初めてだった。これまで数々の人々にスイーツを振る舞ってきたが、どこか形式的な称賛や感謝の言葉ばかりで、心の底から喜びを感じたことはほとんどなかった。しかし、フレイヤの反応は違った。彼女はまさに子供のように純粋に、心からスイーツを楽しんでいる。それを見ているだけで、クラリスの胸は熱くなっていった。


「こんなに美味しそうに私のスイーツを食べてくれるなんて…」クラリスは、初めての感動に胸を打たれた。彼女はフレイヤを見つめ、思わず呟いた。「これが運命なのかしら?」


そして、ふと決意を固めたように、クラリスはフレイヤに向かって一歩踏み出し、情熱的な声で呼びかけた。


「フレイヤ様!」


フレイヤは驚いてスプーンを持つ手を止め、クラリスの方を見上げた。「はい?どうかしたの?」


クラリスは一瞬ためらったが、次の瞬間にはその瞳に決意を浮かべ、真剣な顔で言った。「フレイヤ様…私のお願いを聞いていただけますか?」


「お願い?」フレイヤは少し不思議そうな顔をしたが、クラリスの表情があまりにも真剣だったので、その言葉を待つことにした。


クラリスはフレイヤをじっと見つめ、ついに口を開いた。「私の作るスイーツを、一生食べ続けてくれませんか?」


その言葉には、クラリスの全ての情熱と期待が込められていた。彼女はフレイヤがスイーツを楽しんでくれる姿に、これまで感じたことのない喜びを覚え、それをずっと続けてほしいと心から願っていたのだ。


フレイヤは驚いた表情を浮かべ、しばらく黙ってクラリスを見つめていたが、やがて微笑んで言った。「こんなに美味しいスイーツなら、喜んで食べ続けるわ!」


その瞬間、クラリスの顔に大きな笑みが広がった。「本当に!?」


「ええ、本当よ。こんなに美味しいスイーツを食べられるなら、毎日でも大歓迎よ!」フレイヤは笑いながら、再びスプーンを手に取り、目の前のスイーツを口に運んだ。


クラリスはその光景を見て、感動のあまり涙を浮かべながら呟いた。「ああ…なんて幸せな日なのでしょう。今日、この日、運命の人に出会えたわ…」


フレイヤはクラリスの言葉を聞いて微笑み返しながら、「私もこんな美味しいスイーツに出会えて、とても幸せよ」と言ったが、その手は止まることなく次々とスイーツを口に運び続けていた。


クラリスはその姿を見つめ、再び感動の涙をこらえながら心の中で呟いた。「これが運命の絆…フレイヤ様、これからもあなたに私の全てを捧げるわ。そして、もっともっと美味しいスイーツを作り続けてみせる…!」


こうして、スイーツを通じて結ばれたクラリスとフレイヤの絆は深まり、二人の物語は新たな展開へと進んでいくのだった。


作ることに情熱をかけるクラリスと、毎日大量に生み出されるスイーツをものともせず美味しく消費することに情熱を燃やすフレイヤ。二人の出会いはまさに運命的であった。


「フレイヤ様、もしよろしければ、この国にずっと留まっていただけませんか?聖女としてではなく、スイーツ開発顧問として。私たちには、フレイヤ様のようにスイーツを心から愛し、食べてくれる方が必要なのです。食べるのがお仕事なんです」とクラリスは真剣な目でお願いした。


「え?他に何もしなくていいの?ダラダラしててもいい?」とフレイヤは半信半疑で問い返す。


「もちろんです。私のスイーツを食べてくださるだけで十分。それ以外は、どうぞご自由に過ごしてください」とクラリスは微笑んだ。


フレイヤは目を輝かせて言った。「それなら永住します!でも、他国のスイーツを食べに旅行に行くことだけは許してね。」


「もちろん、その自由もあります。でも、あまり長く旅に出られないでくださいね。フレイヤ様がいなくなってしまうと、私のスイーツを食べてくださる方がいなくなってしまい、寂しいですから」とクラリスは優しく言った。


こうして、フレイヤはロルタリアに籍を置き、スイーツ開発顧問兼ロルタリアスイーツ親善大使という肩書きを手に入れた。彼女はこれからもスイーツを楽しみながら、自由に生きることを選んだのだった。




フレイヤがスイーツを無限に食べ続けられる理由は、その食べたスイーツのエネルギーが彼女の内なる力として蓄積され、彼女の力を増大させているからだった。スイーツを食べれば食べるほど、フレイヤの力は強くなり、その影響力も増大していく。


ロルタリアに滞在してからというもの、フレイヤは日々大量のスイーツを消費し、そのエネルギーを吸収していた。彼女の力はロルタリアの国境を超え、隣国ヴェルデにも影響を及ぼし始めた。その結果、ヴェルデに住む魔獣たちは、フレイヤの圧倒的な力に恐れをなし、こぞってヴェルデの国境を越え、さらに遠く、彼女の力が及ばない場所へ逃げ込もうとしていた。


魔獣たちの逃げ込む先は、なんとフレイヤが以前追放された王国だった。王国はこれまで、フレイヤの存在に依存してきた部分が多かったため、彼女のいない今、王国にはフレイヤの力が及んでいなかった。そのため、魔獣たちは自由に王国へと流入し、混乱を引き起こし始めた。



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王国では、不穏な空気が漂っていた。


「最近、魔獣が増えている……」王国の騎士たちは、日々の防衛戦で疲れ果てていた。かつてフレイヤが王国にいた頃は、彼女の力で魔獣たちが王国に近づくことすらなかった。しかし、フレイヤがロルタリアに移住してからというもの、魔獣たちが次々と押し寄せ、まるで洪水のように流れ込んでいた。


「これはいったいどういうことだ?」国王は不安げに大臣たちに問いただした。


「恐れながら、陛下……ヴェルデの国から魔獣が流れてきております。どうやら、ロルタリアに滞在しているフレイヤ様の力に恐れをなした魔獣たちが、逃げ込んできたようです」と一人の大臣が答えた。


「フレイヤが原因で魔獣が逃げ込んできているのか……」国王は困惑した表情を浮かべ、頭を抱えた。「まさかこんな形で災厄が戻ってくるとは……彼女を再び追放したことが、こんな事態を招くとは思わなかった!」



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一方、ロルタリアではフレイヤが相変わらずスイーツを堪能していた。毎日のように新しいスイーツが提供され、彼女の食欲は尽きることがなかった。その度に、彼女の内なる力はさらに増幅されていく。


しかし、そんなフレイヤも、ふと異変を感じた。彼女の敏感な感覚が、遠く王国で何かが起きていることを察知させたのだ。


「何かが起こっている……」フレイヤは一瞬、食べていたスイーツを止め、思案する。「私の力が届いていない場所で、何かが乱れているような……?」


「主様、何か問題でも?」ティアちゃんが心配そうに尋ねた。


「いや、特に問題ってわけじゃないけど……何か、王国の方で厄介なことが起こっている気がするのよね。でも、私の手を煩わせるようなことじゃないわ」とフレイヤは肩をすくめて言った。「今はスイーツを食べるのが一番重要なことよ。」


「確かに、主様にとってスイーツは重要ですからね」とハムちゃんが真剣な表情で同意した。


だが、フレイヤの力がどれほど強大であろうと、王国で迫り来る災厄は着実に迫っていた。そして、その脅威がフレイヤのもとにも届く日は、そう遠くなかった。


フレイヤがロルタリアにいる間に、王国はさらなる困難に直面しようとしていた。果たしてフレイヤはこの事態にどう対応するのか――それとも、甘いスイーツに囲まれた日々が続くのだろうか。













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