王国の辺境地では、以前にも増して不穏な動きが広がっていた。村や町の近くに突然現れる魔獣たちが、次々と家畜や作物を荒らし、人々を襲い始めていた。王国の防衛の最前線を守る騎士団は、連日の魔獣との戦いに疲れ果て、すでに限界を迎えていた。
「魔獣の数がこれほど増えるとは……」
ある騎士が息を切らしながら呟いた。
魔獣たちは以前から存在していたものの、これほど大量に姿を現すことはなかった。しかも、その数は日増しに増え続けている。騎士団は全力で応戦していたが、次々と湧き出てくる魔獣に対応しきれず、次第に街や村が被害を受け始めていた。
「こんなに多くの魔獣を相手にするなんて、今まで聞いたことがない!」
別の騎士が疲労困憊の表情で声を上げた。
現場の指揮官たちは、すでにこの異常事態に直面し、フレイヤの力が必要だという認識を持ち始めていた。かつて、彼女が魔王軍から王国を守った時のことを思い返し、今こそ彼女の助けがなければこの危機を乗り越えられないと考えたのだ。
「フレイヤ様がいれば……」
ある隊長が呟いた言葉に、周囲の騎士たちは頷いた。
しかし、上層部にこの声は届かなかった。騎士団の上層部は現場の苦労を知らず、魔獣の脅威を軽く見ていた。彼らは、騎士団がいれば十分に対応できると信じて疑わなかった。
「騎士団なら、この程度の脅威は対応できるだろう。これまでだって、何とかなってきたではないか。」
上層部のある幹部は、こう言い放った。
実際には、現場の疲弊は限界を超えており、騎士団の兵士たちは次々と倒れていった。補充が間に合わないまま、魔獣は勢いを増し、都市部への進行が止まらなくなっていた。
「私たちは、もうこれ以上持ちこたえられない……」
騎士団の一人が、絶望的な声で言った。
王国全体が魔獣の脅威にさらされている中、次第に都市部にまで影響が出始め、人々の間には不安と混乱が広がりつつあった。市場ではパニックが起き、村や街から避難してきた人々が王都の周辺に集まり、混乱が生じていた。
「フレイヤ様の助けが必要だ!」
騎士団の兵士たちは、何度もこの声を上層部に伝えようとしたが、その叫びは無視され続けた。
「フレイヤは追放された者だ。今さら彼女に頼るわけにはいかん!」
上層部は頑なにフレイヤの復帰を拒んだ。
それでも、現場の騎士たちは心の中でフレイヤの帰還を強く願っていた。彼女がいれば、この危機的状況も乗り越えられると信じていたからだ。
こうして、王国は魔獣の脅威に次第に押しつぶされつつあったが、上層部の認識は依然として楽観的であり、状況を改善するための対策を講じることなく時間だけが過ぎていった。
王国の空に異変が起こり始めた。突如として空を覆うように飛来したのは、巨大なドラゴンの群れだった。彼らは、まるで魔獣たちが逃げ回るのを追うように、上空を自由に舞いながら、餌場を探していた。これまで王国の歴史でも類を見ないほどの巨大なドラゴン族が、今まさに王国全土を脅かそうとしていた。
「空を見ろ!ドラゴンだ……!ドラゴンがやってきたぞ!」
騎士団の一人が叫ぶ。
その声に、すでに疲弊しきった騎士団の面々が恐怖に包まれる。地上には魔獣がはびこり、今度は空からはドラゴンが襲来する。まさに、二重の脅威が王国を覆い尽くそうとしていた。
巨大なドラゴンたちは、地上にいる魔獣を次々と捕らえ、空高く舞い上がり、咥えたままどこか遠くに運び去っていた。彼らはまるで無尽蔵の餌を求めているかのように、王国全土をくまなく飛び回り、次々と魔獣を襲撃しては餌にしていた。
しかし、問題はそれだけではなかった。魔獣を追うドラゴンたちは、次第に人々の住む街や村にも降り立ち、建物を破壊し、人々を恐怖に陥れた。ドラゴンたちは単なる魔獣捕食のためだけではなく、王国の全土を侵略しつつあったのだ。
「これではもはや、騎士団の力では防ぎきれない……!」
ある隊長が呟いた。
騎士団の防衛ラインは次々と崩れ始めた。魔獣の猛攻に加えて、ドラゴンが加わることで、王国の守備は限界に達していた。ドラゴンの咆哮が響くたび、騎士たちは恐怖に震え、次々と押し寄せる脅威に対応するために無理を強いられていた。
「こんな数のドラゴン、今まで見たことがない……!」
別の騎士が絶望的に叫んだ。
巨大なドラゴン族が空を舞い、人々の目にはまるで大きな影が王国を覆っているように見えた。その様子に、王国中が混乱と恐怖で包まれていく。人々は逃げ惑い、都市部では避難命令が相次いで発令された。
「国王陛下!このままでは、王都も危険にさらされます!」
王宮の中でも、緊急事態が宣言された。
上層部の動揺
王国の上層部は、この時になって初めて事態の深刻さに気づいた。これまで楽観視していた魔獣の問題が、いよいよ都市部にまで及び、さらに追い打ちをかけるようにドラゴンが押し寄せてきたことで、彼らは自らの誤った判断を思い知らされることとなった。
「これほどの規模のスタンピードが起こるとは……まさか、魔獣に加えてドラゴンまでが動くとは思わなかった!」
ある大臣が慌てて声を上げる。
「騎士団の力ではもう限界だ……。防衛ラインは崩壊しつつある。このままだと、王都にまでドラゴンが侵入してくるのも時間の問題だぞ!」
他の大臣も、今や焦りを隠せなくなっていた。
王国の防衛計画はすでに限界を迎えており、都市部まで魔獣とドラゴンの脅威が迫りつつあった。この未曾有の事態に、国王はついに決断を下す。
「フレイヤを呼び戻すしかない……!彼女の力がなければ、我々はこの国を守りきることはできない!」
国王は焦燥感を隠しきれず、緊急会議の場で声を荒げた。
しかし、その瞬間、事態はさらに複雑化した。フレイヤがすでにロルタリアの民となっているという事実が、ここで初めて明らかになったのである。
「陛下、申し上げます……フレイヤ様は、今やロルタリアの民です。彼女を呼び戻すには、外交ルートを通じて正式な手続きが必要です。すぐには対応できません……」
その報告に、王国の上層部は騒然となった。フレイヤはかつて王国の聖女として崇められ、国を救った英雄であった。しかし、追放された彼女が他国の民となったことで、もはや簡単に呼び戻すことができなくなっていたのだ。
「なんということだ……フレイヤを手放したのは誰だ!」
国王は激怒し、怒りを抑えきれなかった。
「外交ルートを通じてフレイヤに救援要請を送らねばならん!だが、手続きには時間がかかる……その間、我々はどうするのだ!」
焦る国王に対して、大臣たちもどうすることもできず、ただ頭を抱えるばかりだった。
フレイヤに頼るべきか、それとも…
国王は混乱しながらも、フレイヤに救援を求めるべきか、それとも騎士団でどうにか持ちこたえるべきか、悩んでいた。フレイヤの力があれば、これほどの脅威もすぐに解決するだろう。しかし、彼女がすでに他国の民となった今、簡単には戻ってこない可能性もあった。
「ロルタリアに特使を送るしかない……フレイヤを説得し、女王クラリスを納得させる方法を考えなければならない……」
国王はついに決意を固め、ロルタリアへの使者派遣を命じた。
しかし、特使には重大な課題が課せられることとなる。フレイヤ本人を説得するだけでなく、ロルタリアの女王クラリスを説得するという困難な任務が待ち受けていた。クラリスはフレイヤを手放すつもりはなく、彼女を王国の危険な状況に送り込むことに強く反対するだろうという予測があったからだ。
「このままでは、ドラゴンスタンピードによって王国が滅びるかもしれん……!」
国王は深い溜息をつき、遠くロルタリアに思いを馳せた。彼の頭には、かつての聖女フレイヤの姿が浮かんでいたが、果たして彼女は再び王国を救うために戻ってくるのだろうか──それは、まだ誰にもわからない。
そして、王国全土には今もなお、ドラゴンの咆哮と魔獣の襲撃が響き渡っていた。時間は刻一刻と迫り、王国の未来はますます暗雲に包まれつつあった。
魔獣の襲撃が止まらず、王国全土がパニックに陥り始めていた。さらには、突如現れたドラゴン族のスタンピードにより、状況はさらに悪化の一途をたどっていた。王国の騎士団は疲弊し、都市部に避難してきた民衆も不安と恐怖に包まれ、次第に混乱が広がっていく。いよいよ、王国の上層部も事態の深刻さを認識せざるを得なくなった。
「もはや、我々の力だけではこの危機に対処できぬ……」
国王の前に集まった大臣たちは、恐怖に震えながら口々に訴えた。
「このままでは、王国が滅びてしまう。今こそ、フレイヤ様に助けを請うべきです!」
騎士団長が声を上げた。彼は現場の実態を最もよく知る立場にあり、すでに何度もフレイヤの助けを求めるよう進言していた。
国王は苦渋の表情を浮かべたまま、王座に座り込んでいた。フレイヤはかつて、この王国を魔王軍から救った英雄であり、聖女の名を持って崇められていた。しかし、彼女は追放され、その後、どこに行ったのかも定かではなかった。
「確かに、フレイヤの力があれば、この状況を打開できるだろう。しかし、彼女はもうこの王国の者ではない……」
国王は歯ぎしりしながら呟いた。
「フレイヤ様は現在、ロルタリアという国にいると聞いております。彼女がその国の民となったという噂も……」
大臣の一人が、ややためらいながら言葉を続けた。
その言葉を聞いた瞬間、国王の表情は凍りついた。「何だと……フレイヤが、ロルタリアの民になっただと?」彼は信じられないというように、立ち上がり声を荒げた。
「はい、陛下。どうやら、彼女はロルタリアで特別な地位を与えられ、非常に優雅な生活を送っているとのことです。」
その報告に、王宮内はしばし静まり返った。フレイヤはもはや王国の人間ではなく、他国の民となっていた。しかも、ロルタリアという国は外交において非常に強固な立場を持っており、単純に「返してほしい」と頼むわけにはいかなかった。
「どうするのだ? この状況で彼女を呼び戻すことができなければ、王国は滅びるぞ!」
国王は頭を抱えた。
「陛下、まずはロルタリアに正式な救援要請を送るべきです。フレイヤ様に直接助けを求めるのではなく、ロルタリアとして王国を支援してほしいと訴えれば、彼女が戻る可能性もあります。」
大臣の一人が慎重に提案した。
「だが、時間がかかる……」
国王は歯を食いしばりながら言葉を絞り出した。外交交渉には手続きが必要であり、正式な書状を作成し、使者を派遣しなければならない。それだけでも貴重な時間が失われる。だが、他に選択肢はなかった。
「やむを得ん。直ちにロルタリアへ特使を派遣せよ。急げ、時間がない!」
国王の命を受け、緊急に特使が選ばれた。彼らの任務は、フレイヤの帰還をロルタリアに要請し、国を救うための救援を確約することだった。
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ロルタリアでは、フレイヤは至極快適な生活を送っていた。毎日、女王クラリスが手を変え品を変え、新しいスイーツを振る舞ってくれる。作ることに情熱をかけるクラリスと、そのスイーツをどこまでも美味しく消費するフレイヤ。二人の関係は完璧な調和を保っていた。
「フレイヤ様、今日は新作のチーズタルトをご用意しました。ぜひお召し上がりください。」
クラリスが優雅に差し出すスイーツに、フレイヤは目を輝かせた。
「ありがとう!これもすごく美味しそう!」
フレイヤは歓喜の表情を浮かべ、次々とスイーツを口に運ぶ。
クラリスは、その様子を熱心に見つめていた。「これほどスイーツを楽しんでくれる人に出会えるなんて、私は幸せだわ。」
「私もこんなに美味しいスイーツを食べられて、毎日幸せよ。」
フレイヤは微笑みながら、さらにスプーンを進めていた。
その時、ロルタリアの宮殿に特使が到着した。使者は急いでフレイヤの元に案内されるが、そこには女王クラリスが厳しい表情で待ち構えていた。
「国王からの救援要請だそうですが……フレイヤ様をそんな危険な場所に送り出すわけにはいきません。」
クラリスは、毅然とした態度で特使を睨みつけた。
特使たちは圧倒されながらも、説得を試みた。「女王陛下、フレイヤ様の力がなければ、王国は滅びてしまいます。我々はこの事態を何としても防がなければならないのです。どうか、フレイヤ様にお戻りいただけないでしょうか。」
だが、クラリスは首を振った。「フレイヤ様は今、ロルタリアの大切な一員です。危険な任務に就かせるわけにはいきません。それに、彼女の幸福を邪魔するわけにはいかないわ。」
特使たちは再び頭を下げ、懇願した。「陛下、どうかもう一度お考え直しを。我々はフレイヤ様の力がなければ、何もできないのです……」
クラリスはしばらくの間、沈黙を保っていたが、やがて口を開いた。「分かりました。ただし、フレイヤ様ご自身の意思に任せることにしましょう。」
こうして、フレイヤは最終的な決断を下すことを迫られることとなった。彼女はこの快適な生活を捨て、かつての王国を救うために戻るべきなのか、それとも今の生活を守るべきなのか――その答えは、フレイヤ自身の胸に委ねられた。
ロルタリア女王クラリスからの拒絶に直面した王国の特使たちは、苦悩の中で次なる一手を模索していた。フレイヤを呼び戻すことが王国の唯一の希望であることは明白だったが、彼女の現在の立場やロルタリアの保護下にあるという事実が、事態を複雑にしていた。
「どうする……?このままでは、王国が滅びる……」
特使団のリーダーであるエドワードは、冷たい汗を浮かべながら呟いた。彼の顔には焦りと絶望がにじみ出ていた。
「フレイヤ様の力なくして、今の状況を乗り越えることは不可能です。それは誰もが理解している。だが、ロルタリアの女王は明らかに彼女を手放すつもりがない。」
もう一人の特使が苦々しく言葉を続けた。
「ではどうする? 彼女を強引に連れ帰るわけにもいかない。外交問題に発展すれば、それこそ王国は内外から崩壊するだろう。」
エドワードは深いため息をつき、椅子に身を預けた。彼にとって、この状況は打開のしようがないように思われた。
ロルタリア宮殿の豪華な応接室で、特使団は途方に暮れていた。彼らはフレイヤに直接面会し、彼女の意思を確認したいと何度も求めたが、クラリス女王の許可がなければフレイヤとの面会すら叶わない。ロルタリアという国の強固な意志は、フレイヤを王国に帰還させることを阻んでいた。
「フレイヤ様……どうか我々をお助けください。」
エドワードは心の中で何度もそう祈ったが、その思いは届かないままだった。
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一方、クラリスはフレイヤの元で、変わらぬ日常を送っていた。スイーツ作りに情熱を燃やすクラリスは、今日も新しいケーキを作り、フレイヤに振る舞っていた。フレイヤは、そのスイーツを美味しそうに口に運び、至福の時間を楽しんでいた。
「フレイヤ様、今日のケーキはいかがですか?」
クラリスは微笑みながらフレイヤに尋ねた。
「最高に美味しいわ。あなたの作るスイーツには本当に飽きないのよね。毎日が天国みたいだわ!」
フレイヤは満面の笑みを浮かべて、もう一口ケーキを頬張った。
クラリスはその姿を見て、満足そうに頷いた。「それを聞けて安心しました。フレイヤ様が幸せである限り、私も幸せですわ。」
しかし、そんな穏やかな時間も長くは続かなかった。やがて、フレイヤの元にも特使の存在が知らされることとなった。
「フレイヤ様、実は王国から特使が来ております。」
クラリスが慎重に切り出すと、フレイヤは一瞬動きを止めたが、すぐにスプーンを再び手に取り、さほど興味を示さないように見えた。
「ふーん、それで?」
フレイヤはスイーツを食べ続けながら、興味なさげに応じた。
「彼らは、あなたに王国の救援を求めているのです。今、王国は危機に瀕しており、あなたの力がなければ立ち直ることができない、と訴えています。」
クラリスは言葉を選びながら、フレイヤに現状を伝えた。
フレイヤはしばらく黙ってスイーツを口に運んでいたが、やがて軽く肩をすくめた。「でも、私はもうロルタリアの民なのよ。王国のことなんて関係ないじゃない。」
クラリスはフレイヤの返答に頷きながらも、「そうですね。ただ、彼らの苦悩は深刻です。あなたが救わなければ、王国が滅びる可能性があると訴えています。」と言葉を続けた。
「ふーん、でもね、私は今の生活がとても気に入ってるのよ。スイーツを食べて、毎日が幸せだわ。」
フレイヤは再び笑顔を浮かべ、スイーツに集中した。
クラリスはフレイヤの気持ちを尊重しつつも、心の中で一つの葛藤を抱えていた。フレイヤが今の生活に満足していることは間違いない。しかし、彼女の力が必要とされている場所があることもまた事実だった。
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その夜、特使たちはついにフレイヤと直接対面する機会を得た。クラリスの取り計らいで、フレイヤとの会談が実現したのだ。
「フレイヤ様、どうかお力を貸していただけませんか。王国は、今まさに滅びの危機に直面しています……」
エドワードはフレイヤの前に跪き、頭を下げた。
フレイヤは特使たちをじっと見つめ、しばらくの間、無言だった。やがて、彼女は軽くため息をつき、言葉を発した。「あなたたちの言ってることは分かるわ。でもね、私は今、幸せな生活を送ってるの。どうしてまた、あんな面倒なことに巻き込まれなきゃいけないの?」
「フレイヤ様、お願いです!」
エドワードは必死の思いで訴えた。「王国は、あなたの力がなければ救われないのです!」
その瞬間、クラリスが静かに口を開いた。「フレイヤ様の意思に任せるしかありません。彼女が望むならば、私はそれを尊重します。」
フレイヤはしばらく考え込んだが、結局、笑みを浮かべてクラリスに向き直った。「私は今の生活に満足してるわ。だから、王国には戻らない。」
エドワードはその言葉に打ちのめされたが、彼女の意思を覆すことはできなかった。
こうして、特使たちは王国への帰還を余儀なくされ、フレイヤの助力を得られないまま、王国に戻ることとなった。彼らは国に戻った後、さらなる苦境に立たされることになるが、フレイヤの決断は揺るがなかった。
フレイヤが急に立ち上がり、呟いた。「しょうがない、ちょっとラルクシェルでお茶してくるか。次のティータイムまでには戻るわ。」
クラリスは驚いた表情を浮かべた。「ラルクシェル?そんな店名、初めて聞きましたが……」
フレイヤは微笑んで答えた。「ああ、そりゃそうよ。王国にあるのよ、ラルクシェルっていうカフェがね。」
「王国ですか……」クラリスは、フレイヤの自由奔放さに少し感心しつつも、心配そうに言った。「気をつけてくださいね、フレイヤ様。」
「心配しないで!ちょっとお茶してすぐ戻るから。」フレイヤは軽く手を振り、外に出た。「わんわん、ティアちゃん、ハムちゃん、行くわよ!ハムちゃん、王国まで飛んでくれる?」
バハムート(ハムちゃん)はすぐに頭を下げて答えた。「御意。」
フレイヤ、ティアマト、フェンリル、そしてバハムートの四人(?)は、すぐにバハムートの背に乗り、王国へ向かって飛び立った。普段ならのんびりとスイーツ巡りを楽しむフレイヤだったが、この日は違った。バハムートの速度は圧倒的で、わずか数分で王国に到着した。
「到着!」フレイヤは軽やかに地上に降り立ち、辺りを見回した。だが、その異常な速さにより、魔獣やドラゴンたちは逃げる暇もなく、未だに王国を襲撃中だった。
「じゃあ、私はラルクシェルでお茶してくるから、あとはよろしくね。」フレイヤは仲間たちに任せるように言い残し、軽やかにカフェへ向かった。
バハムートは静かに頷き、「御意」と言って空へと舞い上がった。大空に浮かぶドラゴンたちは、まるで嵐に吸い込まれるように次々とバハムートの巨大な口に飲み込まれていった。一方、地上で暴れていた魔獣やドラゴンたちは、ティアマトとフェンリルによって瞬く間に掃討され、息つく暇もなく消滅していった。
一方で、フレイヤはラルクシェルに入店し、ゆったりとした気分でお茶を注文していた。「この紅茶、美味しいわねぇ。」フレイヤは優雅にカップを傾けながら、外の騒ぎなどまるで気にする様子もなくくつろいでいた。
しばらくして、全てが片付いたのを感じ取ったバハムート、ティアマト、フェンリルの三人は、任務を終えた満足感を抱えながらフレイヤの元に戻ってきた。
フレイヤがゆったりとした時間を楽しんでいる間、王国はすでに救われ、ドラゴンも魔獣も全て消滅していた。そして、王国の関係者たちが何も気づく前に、フレイヤたちは再びロルタリアへと帰国した。
「ふぅ、間に合ったわね。ティータイムにちょうどいい頃合いだわ。」フレイヤはにっこりと微笑みながら、再びクラリスの元へと戻り、次のスイーツを楽しむ準備を整えていた。