「みなさん、今日は私の仕事術について知りたいということで来てくださったんですね」
勇姫は前世の
「はい!
はねるような声で返事をしたのは、桃色の髪をした
「私も興味があるわ」
静かな声で言ったのは、銀白の髪を持つ
「では、今日は私が前の世界で使っていた"スプシ"というものについて、簡単にお話ししましょうか」
勇姫は微笑むと、大きな紙を壁に貼り付けた。そこには横線と縦線が交差して作られた格子状の枠が描かれていた。
「これが"スプシ"の基本形です。私たちの世界では、これを"表"と呼びます」
「ただの升目じゃないですか?」
疑問を口にしたのは、別の女官だった。勇姫は頷いた。
「そう見えますよね。でも、この"升目"こそが、情報を整理する魔法なんです」
勇姫は筆を取り、表の一番上の行に「業務名」「担当者」「完了予定日」「状態」と書き入れた。
「まず、情報を種類ごとに分けて並べます。例えば...」
彼女は下の行に実際の業務を書き始めた。
「朝の茶会準備」「
「
「薬草在庫確認」「
「おお!なるほど!」
小桃が目を輝かせた。
「これだけでも十分便利だけど、ここからが本当の"見える化"の始まりよ」
勇姫は今度は色付きの墨を取り出し、「完了」の部分を青く、「進行中」を黄色く、「未着手」を赤く塗った。
「色で区別すると、一目で状況が分かるでしょう?これを私は"視覚化"と呼んでいます」
霜蘭が眉を上げた。
「なるほど...これなら複雑な情報でも把握しやすいわね」
「そのとおり。でも、本当のスプシの強みは、ここからなんです」
勇姫は新たな紙を取り出した。今度はもっと複雑な表で、女官たちの名前と様々な業務の組み合わせが書かれている。
「例えば、誰がどの業務を担当しているかを一覧にすると...」
彼女は指で表の一部を指し示した。
「小桃ちゃんは伝達業務が得意だから、この部分を集中して担当してもらう。逆に、
「わあ!確かに!あたし、走り回るの得意だけど、字を書くのはニガテなんです!」
小桃が素直に認めると、部屋に笑い声が広がった。
「では次に、もっと複雑な例を見てみましょう。後宮の
勇姫が三枚目の紙を広げると、そこには宮殿中の備品が細かく記録されていた。茶葉の種類、量、使用頻度、保管場所...様々な情報が整然と並んでいる。
「これを見ると、どの茶葉がいつ不足するか予測できます。また、使われていない高級茶葉が倉庫で
女官たちからどよめきが起こった。
「驚くべきことに、この表から読み取れるのは、香梅閣が一ヶ月で使う茶葉は、他の場所の三倍もあるということ。これは何かおかしいと思いませんか?」
霜蘭が静かに立ち上がった。
「...横流しの可能性があるわね」
「その通りです。でも、非難するのではなく、まずは実態調査から始めましょう。数字は嘘をつきませんから」
勇姫の言葉に、女官たちは感心したように頷いた。
「
小桃が両手を叩いて喜んだ。
「私の前世では、これが当たり前の技術でした。でも、ここでも十分活用できるはず」
勇姫が言い終えるか終わらないかのうちに、部屋の扉が静かに開いた。そこには栗色の髪をした若い男性が立っていた。淡い金色と白の衣装に身を包んだ
「面白い話が聞こえてきたので、つい...」
皇太子の突然の登場に女官たちは慌てて平伏した。だが、勇姫だけは立ったまま、驚いた表情を隠せずにいた。
「殿下...」
「続けてくれないか?その"スプシ"というものを、私にも教えてほしい」
瑞珂の口元にはかすかな微笑みが浮かんでいた。他の女官たちが驚きの表情を交換する中、勇姫はゆっくりと頷いた。
「かしこまりました。では、政務に応用できるスプシの例から始めましょうか...」
こうして、