「あ!
小桃は勇姫を見ると驚いたように立ち止まった。漆黒に近い深い藍色の髪をきちんとまとめ、青と銀を基調とした書記女官の制服を着た勇姫は、疑問を浮かべた灰紫色の瞳で小桃を見つめた。
「どうしたの?そんなに慌てて」
「い、いえ!なんでもないです!」
小桃は明らかに動揺しており、両手で抱えていた小さな木箱をさらに
「それは…?」
「これは……あの……」
小桃はもじもじとして、言葉に詰まっている。
「秘密ですか?無理に聞きませんよ」
勇姫がそう言って行こうとすると、小桃は急に彼女の袖を掴んだ。
「待ってください!実は…
勇姫は驚いたが、小桃の真剣な表情に、つい頷いてしまった。
「わかったわ。どこで見せてくれるの?」
「あたしの部屋で…いいですか?」
◆◆◆
「これが、あたしの宝物なんです」
そう言って小桃は恥ずかしそうに微笑んだ。
「宝物?」
「はい…
小桃は大きな箱の
「これは故郷から持ってきたものです。あたし、実はこの宮殿に来る前は、
彼女は一つ一つの品物を大切そうに並べていく。
「裁縫店?小桃ちゃん、お裁縫得意なの?」
小桃は照れくさそうに頭を掻いた。
「実は…苦手なんです。だから、もっと役に立てることをしたくて、女官試験を受けたんです」
勇姫は意外な事実に驚いた。いつも明るく前向きな小桃が、こんな
「でも、あなたは伝令の仕事がとても上手よ?」
「それは…あたし、走るの昔から得意だったから。村の運動会では一等賞でした!」
小桃は少し誇らしげに胸を張った。続いて、彼女は小さな木箱を開けた。中にはきれいな
「これは…」
「
勇姫は驚いて目を見開いた。そこには見事な筆使いで彼女の姿が描かれていた。事務仕事をする姿、小桃に指示を出す姿、瑞珂と話し合う姿…。
「小桃ちゃん、これを描いたの?」
「はい…あの、怒らないでくださいね。こっそり描いちゃって…」
勇姫は感動のあまり言葉を失った。その絵は単なる
「どうして私の絵を?」
小桃は恥ずかしそうに目を伏せた。
「あたし…
勇姫は思わず小桃の肩に手を置いた。
「私も小桃ちゃんのこと、大切に思っているわ」
「違うんです!」
小桃は急に声を上げた。
「あたし、
彼女の杏色の瞳に涙が浮かんだ。
「あたしなんて、何も出来なくて、失敗ばかりで…」
勇姫は驚きながらも、小桃の手をしっかり握った。
「そんなことないわ。小桃ちゃんは皆の笑顔を守ってくれる、大切な存在よ」
「でも…」
「聞いて。私は前世では、誰からも認められなかったの。でも、ここであなたのような人に出会えて、初めて自分の価値を感じられるようになったの」
勇姫は真剣な表情で続けた。
「だから、あなたの存在は私にとってとても大切なの」
小桃の目から涙がこぼれ落ちた。
「本当ですか…?」
「嘘なんか言わないわ」
勇姫はそっと小桃の涙を拭った。
「あなたの絵、素晴らしいわ。こんな才能を持っていたなんて」
「実は…あたしの母が画家だったんです。でも病気で早くに亡くなって…」
小桃は
「お母様の作品?」
「はい。これが唯一の形見なんです」
勇姫は静かに頷いた。小桃の天真爛漫な表情の裏にある複雑な過去を知り、胸が痛んだ。
「でも、あたし、強くなりたいんです。
小桃は涙を拭いて、決意に満ちた表情を見せた。
「だから…あたしにも何か教えてください!スプシとか…」
勇姫は小さく笑った。
「絵を描くことは、立派なスプシよ」
「え?」
「情報を整理して見える形にする。それがスプシの本質なの。あなたは絵で、目に見えない心まで表現している。それは私のスプシより、ずっと素晴らしいことよ」
小桃の顔が明るくなった。
「本当ですか?」
「ええ。あなたの才能、もっと活かしましょう。例えば、業務改革の図解を一緒に作れないかしら?」
「あたし、お役に立てますか?」
「もちろん。図で説明すれば、みんなにもっと分かりやすく伝わるわ」
小桃は嬉しそうに飛び跳ねた。
「やります!あたし、頑張ります!」
勇姫は微笑んだ。
「それと…今日見せてくれたもの、全部大切な宝物ね。特に、お母様の絵と、あなたの才能」
小桃は頷き、宝箱を大切そうに閉じた。
「
勇姫は小桃の頭を優しく撫でた。
「小桃ちゃんは、すでに十分役立っているわ。あなたの笑顔が、みんなの力になっているのよ」
二人は微笑み合った。小さな女官寮の一室で、勇姫は小桃の秘めた想いと才能を知り、彼女との絆がさらに深まったのだった。
「じゃあ、明日から一緒に『見える化プロジェクト』を始めましょうか」
「はい!あたし、頑張ります!」
小桃の元気な返事は、いつもと変わらなかったが、その瞳には新たな決意の光が宿っていた。天真爛漫な女官の秘めた想いは、これから