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第6話 月影の館

 突然現れた大きな屋敷に驚き、危うく腰が抜けるところだった。

だって、どれほど歩いてもこんな屋敷見つからなかったのだから。


 仰天する私に構わず、シロは目の前の大きな両扉の前に立つ。そうすると、扉はギィィィ……と大きな音を立てて、ひとりでに動き出した。


「ようこそ。改めて、お待ちしていた」


 シロの後について屋敷の中に入る。天井から吊り下げられた、豪華なシャンデリアが私を出迎える。年季が入っているが、ガラスの飾りは輝きを失ってはおらず、きちんと手入れがされていることが窺える。


 少し視線を落として、奥の階段を見ると、そこには訝しげな顔をした5人の人間がこちらを見つめていた。


「あ、さっきのうさぎさんだ」


「………」


「女の子じゃん。友達になれるかな」


「待って亜紀ちゃん、今それどころじゃ……」


 各々が好き勝手喋っている。


 すると、同い年くらいだろうか、ある1人の男の子が立ち上がって、こちらに質問を投げかけてきた。


「おかえりシロさん。帰ってすぐで悪いんだけどさ、そろそろ説明してくんないかな? 俺ら何の説明も無しにここに連れてこられて、不安とかもあるだろうしさ」


 どうやら彼らも私と同じように、何もわからないままここに連れてこられたらしい。


 彼の言い方には焦りや不安がのぞいていたが、決して不快になるような言い方ではなかった。この状況にも関わらず。話したこともないが、彼の善い人柄が垣間見える。


「いいだろう。人数も揃ったことだ、貴殿らにこの屋敷のことを話そう」


 私が5人の中に軽く会釈をして加わると、シロは私たちの前にちょこんと立って、大仰な喋り方で語り始めた。


「コホン。では改めて、私はシロ。この屋敷の管理を任されている者だ。そしてこの屋敷は「月影の館」。ここは貴殿らの潜在意識が深い場所で繋がってできた空間であり、現実での貴殿らの意識が薄れた時にのみ現れる。詰まるところ、寝ている時だな」


「この屋敷には、屋敷に来た者の「原点」に関するものが出現することがある。ここでは、それらヒントを繋ぎ合わせ、自身の心を暴くことができるのだ」


 ここまで説明を聞いていたが、よく分からない。というか腑に落ちないのだ。「心を暴く」? そんなことをして一体何になるというのだろう。


 すると今度はそれまで黙って聴いていた、私より少し年上であろう女の人が話し始めた。


「質問なんだけど、心を暴くってどういうこと? それに何の意味があるの?」


 どうやら全く同じことを考えていたらしい。


「ここに集められたからには、必ず、貴殿らは心に大きなしこりを抱えている。この中にも心当たりのある者もいるのではなかろうか? 意味などを考えずとも、自身の心を知る良い機会であろう。それに、ここでの体験で、現実世界の貴殿らの生活に支障をきたすこともない。安心して、心置きなく自分探しに勤しむが良い。それでは私は失礼する」


 シロはそう返すと、煙のようにぼやけて消えてしまった。


 残されてしまった私を含めた6人は顔を見合わせると、これから先、どうしようかと途方に暮れてしまった。

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