風車が見下ろす丘の上、七人と一羽は静かに立っていた。
空はどこまでも澄みわたり、風は歌うように優しく吹いていた。
「ここが、“風の心臓”……か」
悠誠がそうつぶやくと、風車が回転を止め、ゆっくりと音もなくその羽を折りたたんでいった。
風が止む。世界から音が消える。
そのとき、地面がわずかに震え、風車の根元にぽっかりと“扉”が開いた。
「いくよ。最後の鍵を開けに」
そう言って先頭に立ったのは、凪だった。
扉の先は、風の通らぬ洞窟だった。
白い石壁、しんとした空気、そして奥にひとつだけ置かれた台座。
その上には、一通の手紙が置かれていた。
誰の名宛でもなく、封筒の表にはただこう書かれていた。
「持ち帰るべきものが分かったら、この手紙を開けなさい」
「……持ち帰るべきもの?」
かなこがぽつりとつぶやき、まなみが手を伸ばしかけて、引っ込めた。
えいじが一歩前に出て、静かに言う。
「これは、“持ち帰る”っていう第七の誓いだ」
「でも、それって……物じゃないんじゃない?」
ゆうきのその言葉に、皆の視線が集まった。
「オレたち、ここに来て、七つの誓いを通って……何かを手に入れてるんだと思う。目に見えない、でも確かにあるもの」
「たとえば、勇気」と凪。
「ありがとうの気持ち」とかなこ。
「違いを受け入れる心」とまなみ。
「頼ってもいいと思えるようになったこと」と悠誠。
「笑い飛ばす力」とゆうき。
「誰かの言葉に耳を傾ける姿勢」とえいじ。
「そして……“素直に伝える言葉”」とさとしが静かに言った。
だんごが小さく頷き、そっと封筒を手に取る。指先で封を切ると、柔らかな紙の中から一枚の便箋が現れた。
【風の忘れ物】
それは、
“旅の途中で気づいた あなた自身のこと”
あなたが笑ったこと
あなたが謝ったこと
あなたがつながったこと
その全部が、“風の中に忘れられていたもの”でした
それを持ち帰ってください
それが、“あなたの風”です
読み終えた瞬間、洞窟の天井にあった穴から、風がさっと差し込んだ。
その風は、七人と一羽の体を優しくなで、そしてどこまでも高く、空へと舞い上がっていった。
それは――誰の心にもあった“風の忘れ物”が、もう忘れ物じゃなくなった証だった。
旅を終え、谷をあとにする彼らの背中に、
風はもう、なにかを託すようにそっと吹いていた。
(終)