夕方の光が、谷の奥を黄金色に染めていた。
歩き続けた一行は、風が静かに吹く丘の上に立っていた。遠くには、見たこともないくらい大きな風車がくるくると回っているのが見えた。
「あそこが……地図にあった“風の心臓”って場所か」
悠誠が地図を見ながらつぶやくと、だんごがじっと風車を見つめて頷く。
「でも、ここで一泊しよう。もう暗くなるし」
えいじの提案に、皆がほっと息をついた。まなみはさっそく薪を集めに走り、ゆうきは持参していた鍋を取り出して「今日は俺の料理ショー!」と張り切り始めた。
「……私も、手伝う!」
かなこが飛び出してきたのはいいが、足元の石につまづいて、鍋の持ち手に頭をぶつけた。
「いったぁー!」
「だから気をつけろって言ったのに……」と凪が笑いながらも、彼女の額に冷たい布を当ててやる。
その間に、まなみが焚き火に火を灯し、だんごが支柱を立てて簡易テントを作っていた。
やがて、ほかほかと湯気を上げるスープが完成し、皆が火のまわりに集まった。
「うまっ! やるじゃんゆうき!」
「それほどでもあるんだな、これが」
皆が笑う。けれどそのとき、かなこがふと、真剣な顔になった。
「ねえ、あたし……ちゃんと言えてなかったなって思って」
皆が静かになる。
「ほんとにさ……ありがとう。今日も、昨日も、その前も。私、いっつもミスばっかりで、何か忘れて、転んで、でも、みんなが助けてくれて……だから、ほんとにありがとう」
静かに、心からの言葉だった。
それを聞いて、凪が続く。
「私も……ありがとう。私、心配性だし、いろんなこと考えすぎて、迷惑かけたこともあると思う。でも、皆がそばにいてくれるから、少しずつ、信じて進めるようになってきた」
「俺もだな。正直、何度もミスった。でも……笑ってくれて、支えてくれて、ありがとう」
ゆうきがいつになく真面目な声で言うと、えいじが続いた。
「“ありがとう”って、言われると、嬉しい。だから……俺も、ちゃんと伝える。ありがとう」
まなみは涙ぐんで「うう……なんか、胸がじんとする……ありがとう」と言いながら、すっかり冷めたスープを口に運んでむせた。
さとしが、ノートに「ありがとう」という言葉だけを何度も何度も書き連ねていた。
そのとき、風が吹いた。
焚き火の火が小さく揺れて、そばの石の間から、なにかが光った。
それは、小さな銀の羽だった。
【第六の誓い】
“助けられたら、ありがとうと言うこと”
感謝は心の翼である。
かなこがその羽を拾い上げると、ふわりと空に舞い上がり、ゆっくりと風車のある方角へと流れていった。
まるで、「もうすぐだよ」と言っているようだった。