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第十三章 “番号を呼んだのは誰?”

 朝のHR。

 担任教師が出席を取り始める。

「1番……2番……3番……」

 淡々とした声。

 誰もが日常の一コマだと思っていたその時、ふと、クラスの空気が変わった。

「……0番」

 教師の声が、はっきりとそう言った。

 一瞬、教室中が静まり返る。

 日菜が隣で息を呑み、克宣が鉛筆を落とした。

「……今、聞いたよな?」

「言った……“0番”って……誰?」

 しかし、担任は出席表を閉じると、何事もなかったように授業の準備に入った。

 誰に問いかけても、彼自身は「そんな番号呼んでいない」と言う。

 けれど、クラス全員が、その声を確かに聞いていた。

 そして、その日から――

「机、ひとつ増えてない?」

 放課後、鼓大郎が昇降口で立ち止まった。

「なに言ってんだ、同じだろ」

「……いや、違う。靴箱の列、数合わなくない?」

 見直すと、確かに一つ、誰も使っていない靴箱が増えていた。

 しかも中には――真新しいローファー。

「これ、女子用……でも、誰の?」

 紗代子がそっと覗き込んだとき、ローファーの奥に、白い紙が挟まっていた。

「番号は呼ばれた。あとは、“席を見つけるだけ”。」

「これって、0番……」

 その言葉を遮るように、スピーカーが“音のないチャイム”を鳴らした。

 全員が顔を上げる。

 その瞬間、放送で声が流れた。

「“次は、1番”」

 ……誰の声でもなかった。

 聞いたことのない、機械と少女の中間のような、無機質な囁き声。

「ふざけんなよ……!」

 克宣が吐き捨てるように言った。

 だが、1番――席の前に座っていた男子生徒が、動かない。

「……おい、どうした」

 揺すっても反応がない。顔はうつむいたまま、ぴくりとも動かない。

「これ……眠ってる……?」

 違う。目は開いているのに、完全に“見えていない”。

「……“抜けてる”」

 海夏人がぽつりと呟いた。

「魂、って言ったら信じる?」

「じゃあ、1番が“呼ばれた”ってことか……?」

「番号順に、“引かれていく”……?」

「待って! でも、0番が先でしょ? じゃあ、次は“2番”になるはずじゃ……」

 詩旺埋が顔を上げる。

「違う。“呼んだ者の順番”で、対象が選ばれる」

「……え?」

「つまり――“0番”を呼んだのは、私たち全員。“誰かひとり”じゃない。“集団で呼んでしまった”。だから、“次は一番最初に名簿を確認した者”になる」

 陸人の背中に冷たいものが走った。

(……俺だ。最初に“番号がずれてる”と気づいたの、俺だった……!)

 詩旺埋が、静かに陸人を見つめる。

「止めるには……“名簿を閉じる”しかない。“記録”の連鎖を、どこかで断ち切るしかない」

「でもそれって、どうやって……?」

 そのとき――窓の外を、“何か”が横切った。

 白いセーラー服。

 顔が見えない。

 だが、教室の外にあるはずのない“もう一つの席”に、誰かが“座っていた”。

「次は、陸人さんですね」

 誰かが――呼んだ。

 そして、“誰も声を出していなかった”。


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