朝のHR。
担任教師が出席を取り始める。
「1番……2番……3番……」
淡々とした声。
誰もが日常の一コマだと思っていたその時、ふと、クラスの空気が変わった。
「……0番」
教師の声が、はっきりとそう言った。
一瞬、教室中が静まり返る。
日菜が隣で息を呑み、克宣が鉛筆を落とした。
「……今、聞いたよな?」
「言った……“0番”って……誰?」
しかし、担任は出席表を閉じると、何事もなかったように授業の準備に入った。
誰に問いかけても、彼自身は「そんな番号呼んでいない」と言う。
けれど、クラス全員が、その声を確かに聞いていた。
そして、その日から――
「机、ひとつ増えてない?」
放課後、鼓大郎が昇降口で立ち止まった。
「なに言ってんだ、同じだろ」
「……いや、違う。靴箱の列、数合わなくない?」
見直すと、確かに一つ、誰も使っていない靴箱が増えていた。
しかも中には――真新しいローファー。
「これ、女子用……でも、誰の?」
紗代子がそっと覗き込んだとき、ローファーの奥に、白い紙が挟まっていた。
「番号は呼ばれた。あとは、“席を見つけるだけ”。」
「これって、0番……」
その言葉を遮るように、スピーカーが“音のないチャイム”を鳴らした。
全員が顔を上げる。
その瞬間、放送で声が流れた。
「“次は、1番”」
……誰の声でもなかった。
聞いたことのない、機械と少女の中間のような、無機質な囁き声。
「ふざけんなよ……!」
克宣が吐き捨てるように言った。
だが、1番――席の前に座っていた男子生徒が、動かない。
「……おい、どうした」
揺すっても反応がない。顔はうつむいたまま、ぴくりとも動かない。
「これ……眠ってる……?」
違う。目は開いているのに、完全に“見えていない”。
「……“抜けてる”」
海夏人がぽつりと呟いた。
「魂、って言ったら信じる?」
「じゃあ、1番が“呼ばれた”ってことか……?」
「番号順に、“引かれていく”……?」
「待って! でも、0番が先でしょ? じゃあ、次は“2番”になるはずじゃ……」
詩旺埋が顔を上げる。
「違う。“呼んだ者の順番”で、対象が選ばれる」
「……え?」
「つまり――“0番”を呼んだのは、私たち全員。“誰かひとり”じゃない。“集団で呼んでしまった”。だから、“次は一番最初に名簿を確認した者”になる」
陸人の背中に冷たいものが走った。
(……俺だ。最初に“番号がずれてる”と気づいたの、俺だった……!)
詩旺埋が、静かに陸人を見つめる。
「止めるには……“名簿を閉じる”しかない。“記録”の連鎖を、どこかで断ち切るしかない」
「でもそれって、どうやって……?」
そのとき――窓の外を、“何か”が横切った。
白いセーラー服。
顔が見えない。
だが、教室の外にあるはずのない“もう一つの席”に、誰かが“座っていた”。
「次は、陸人さんですね」
誰かが――呼んだ。
そして、“誰も声を出していなかった”。