セドリックとの秘密の会話から戻ったイリスが、初めて自らの感情に向き合う夜。リュシアン王国の星空が広がる初夏のこと。ノクターン侯爵邸の東側、誰も立ち入らない小さな温室に、白銀の髪を持つ令嬢と灰色の獣の執事がいた。薔薇の香りが漂う閉ざされた空間は、社会の目から隠れた二人だけの領域。箱入り令嬢が初めて、言葉ではなく体で気持ちを伝えようとする夜がやってきた。
「ユナから花を貰ったのよ」
イリスは静かに言った。淡いラベンダー色の瞳には、いつもの冷たさがない。月光に照らされた白い肌は磁器のように繊細で、薄い水色の簡素なドレスを着ていた。普段は結い上げている白銀の髪を今夜は解き、それが肩から腰にかけて流れている。彼女の手には、メイドのユナから誕生日に贈られた一輪の薔薇。
「お嬢様にお似合いの花です」
ヴァルト・グレイハウンドは温室の入り口に立っていた。黒の執事服を緩め、ネクタイを外し、襟元が開いている。琥珀色の瞳は月明かりを浴びて金色に輝き、その視線はイリスから離れない。彼の姿勢はいつも以上に緊張し、獣の本能が呼び起こされているのを感じていた。
「ここに来て」
イリスの声は命令ではなく、願いのように響いた。彼女は幼い頃から「感情は無駄」と教えられ、冷たさの中で育ってきた。だが、ここ数週間の出来事—誘拐未遂、仮面舞踏会、そしてセドリックとの対話—が彼女の心に変化をもたらしていた。
ヴァルトはためらいながらも、彼女へと歩み寄った。ガラスの屋根からこぼれる月明かりが二人を照らす。その光の中、イリスの表情はいつもよりずっと柔らかく見えた。
「セドリック卿が...私に言ったことがあるの」イリスは視線を落とした。「『心を開くには言葉よりも行動だ』って」
ヴァルトは聞き役に徹していたが、セドリックの名前に反応して眉が動いた。獣の嫉妬心が胸の奥で燃えている。「卿と何を」
「私が人形みたいだって」イリスは言葉を遮った。「感情を表に出せないって。でも...あなたには、少しだけ見せている気がするの」
彼女の言葉にヴァルトの心臓が高鳴った。主従の掟を破る危険を感じながらも、彼の体は彼女に引き寄せられていた。
「お嬢様、それは...」
「言葉にしないで」イリスは静かに口を開いた。「その方が...私には楽だから」
彼女は薔薇をテーブルに置き、ゆっくりとヴァルトに近づいた。月明かりに照らされた二人の影が一つになろうとしている。イリスの細い手が、震えながらもヴァルトの胸元へと伸びた。指先が彼のシャツに触れる瞬間、二人の呼吸が止まった。
「お嬢様...これは」
イリスは首を横に振り、言葉を拒んだ。彼女の指がヴァルトのシャツのボタンに触れ、一つずつ外し始めた。手つきは不慣れで、指が震えている。でも、その意志は揺るがない。
ヴァルトは息を飲み、彼女の手を止めようとしたが、イリスの決意に満ちた瞳を見て動きを止めた。彼女の行動の一つ一つが、言葉以上の意味を持っていた。
シャツが開き、ヴァルトの体毛と肌が露わになる。筋肉質の胸と腹部には、数多くの傷跡が刻まれていた。奴隷時代の痕跡と、彼女を守るために負った傷。イリスの指がそれらを一つずつ辿っていく。
「こんなにも...」彼女の声が震えた。「あなたは傷だらけなのね」
ヴァルトは黙って彼女の探索を受け入れた。イリスの冷たい指先が彼の肌を這う感覚に、彼の体温が上昇していく。獣の本能が目を覚まし、理性との戦いが始まっていた。
「ヴァルト...」イリスの声は囁きのようだった。「私も傷だらけなの。見えないだけで」
その言葉に、ヴァルトの獣の心が痛んだ。彼はゆっくりと手を上げ、イリスの頬に触れた。彼女は身を引かず、むしろその温もりに頬を寄せた。
「お嬢様...いいえ、イリス」ヴァルトの声は深く響いた。「私の傷は、あなたを守るため。あなたの傷は、私が癒したい」
その言葉にイリスの目が潤んだ。彼女の指がヴァルトの首筋へと移動し、耳の後ろの柔らかな毛に触れる。獣人特有の、人間とは少し違う質感に心が震えた。
「触れていい?」彼女は小さく尋ねた。
ヴァルトは言葉の代わりに、彼女の手を取り、自分の胸に押し当てた。心臓の鼓動が伝わる場所。イリスは目を見開き、その力強い鼓動を感じ取った。
「あなたの心臓...私のためだけに打っているの?」
彼の返事はそっと身を屈め、イリスの額に唇を押し付けることだった。彼女の体が小さく震え、初めての優しさに戸惑いながらも受け入れる。
イリスの手がヴァルトの肩を辿り、彼の首筋へ。彼女は足先立ちになり、彼の喉元に唇を寄せた。獣の熱さを知りたかった。ヴァルトの喉から低い唸り声が漏れる。
「イリス...これ以上は」
彼の警告に、イリスは初めて微笑んだ。それは小さいけれど、確かな笑み。生まれて初めて、彼女だけの意志で見せた表情だった。
「私は...言葉にできないの」彼女は静かに言った。「でも、あなただけには伝えたい」
そして彼女の唇がヴァルトのものを求めた。不器用で、かすかな接触。しかし、その小さな行動は、イリスにとっては革命だった。
ヴァルトは彼女の細い体を腕に収め、そっとキスを返した。獣の情熱を抑え、彼女の繊細さを守るように優しく。イリスの手がヴァルトの髪に絡まり、彼の獣としての面を受け入れていることを示していた。
獣人と少女のキスが深まり、イリスの体が熱を帯びる。彼女は自分の中に眠っていた感情が、少しずつ解き放たれていくのを感じた。それは誰にも教わることのなかった感覚。彼女だけの、純粋な欲望。
「ヴァルト...」彼女は唇を離し、息を整えた。「私は...」
彼は彼女の言葉を指で遮った。「言わなくていい」獣の目が優しく輝いていた。「あなたの体が、すべてを語っている」
イリスの手がヴァルトの脇腹へと滑り込み、彼の背中を辿った。そこにも数多くの傷痕があった。彼女はそれら一つ一つに触れ、魂で感じとろうとしていた。
ヴァルトの手も動き始め、イリスのドレスの背中のリボンをゆっくりと解いていく。彼は獣の荒々しさを抑え、彼女を怖がらせないよう細心の注意を払っていた。
リボンが解け、ドレスの襟元が緩んだ。イリスの白い肩が月明かりに照らされる。ヴァルトは大きな口で肩を甘噛みし、彼女の肌を味わった。イリスの体が小さく震え、未知の感覚に戸惑いながらも、彼から離れようとはしなかった。
「こんなに...温かいのね」イリスの声は途切れた。「あなたに触れると、私の中の氷が溶けていくみたい」
その言葉に、ヴァルトの心が砕けた。彼は彼女をさらに強く抱きしめ、体温で彼女を温めようとした。イリスの手が彼の胸から腹部へ、そして腰へと降りていく。彼女の好奇心は純粋で、初めて知る男性の体への探索だった。
「イリス...」ヴァルトの声が獣のように低く響いた。「このまま続けると、止まれなくなる」
彼女は黙って彼を見上げた。その瞳には恐れはなく、むしろ決意が見えた。そして、再び小さな微笑み。それは言葉以上の答えだった。
ヴァルトはイリスを両腕に抱き上げ、温室の奥にあるベンチへと運んだ。二人の影が月明かりに踊る。今夜、白き人形姫は、獣の愛に溶かされていく。言葉ではなく、体で伝える真実の夜が始まったばかりだった。
「ヴァルト...」イリスの声が震えた。「私、もう我慢できないわ」
彼女の手がヴァルトのズボンに伸び、そっと下ろした。露出した彼の股間は、硬く張り詰めていた。イリスは目を見開き、その存在感に息を呑んだ。
ヴァルトは無言で頷いた。彼女の指先がそれに触れる。熱く、硬く、生命力に溢れたそれは、イリスの中の何かを呼び起こす。
「大きい...」彼女は小さくつぶやいた。「これが入るの?」
ヴァルトは答えず、代わりに優しくキスを落とした。イリスの不安を和らげようとするかのように。
「きょ、今日は無理かもしれないわね…」
「ゆっくりでいい」
イリスは目を閉じ、小さく頷いた。彼女の心は決まっていた。この男性の愛を受け入れることを。
ヴァルトはイリスの脚を開き、自分の小指を彼女の秘部へと近づけた。彼女の体が強張り、息が止まる。そして、小指はゆっくりと挿入された。
「イリス...」ヴァルトは優しく囁いた。「私の全てをあなたに捧げる。だから、あなたも私に全てを預けてほしい」
彼女は静かに目を閉じ、小さく頷いた。その行為は、彼女が自分の心を開いた証だった。
ヴァルトはイリスのドレスを脱がせ、彼女の素肌を露わにした。月光の下で白磁のような肌が美しく浮かび上がる。
「イリス...」ヴァルトは再び囁いた。「これが俺の象徴だ。触ってほしい」
イリスは目を開き、その存在感に息を呑んだ。大きくて、硬くて、何よりも力強い。それは彼女が知らなかった男性の一部だった。
「怖がらずに」
イリスはおそるおそる手を伸ばし、その先端に触れた。瞬間、ヴァルトの体が反応する。
「あ...」思わず声が漏れる。「これが...男の人の...」
ヴァルトは静かに微笑んだ。そして、イリスの手を取り、自分の口元へと運んだ。彼は無意識に指を口に含み、その味を確かめる。
「美味しい...?」イリスは不安げに尋ねた。
「ああ、美味しいよ」ヴァルトは答えた。「私たち獣人にとって、愛する者の体は全て美味しいものなんだ」
イリスは目を見開き、信じられないという表情を浮かべた。そして、ゆっくりと再びヴァルトの象徴にに手を伸ばし、今度は根元まで優しく握った。
「大丈夫か?」心配そうに尋ねた。
「ええ...」イリスは頷いた。「ただ...少し驚いただけ」
彼女は自分の中に生まれた新しい感覚に戸惑いつつも、ヴァルトへの想いを強めていた。この男性が自分を求めている。それが嬉しかった。
「イリス...」ヴァルトは言葉を続けた。「私はあなたを愛している。この先もずっと」
イリスは目を閉じ、小さく頷いた。そして、自分から唇を寄せた。二人の口が重なり、互いの温もりを確かめ合うように長く深く絡み合った。
やがて、彼女の手がヴァルトの首に回され、彼の体に力が入る。それは求める行為で、彼女の意志の表れだった。
何度か挿入を試みたイリスだったが、その日はたくさん愛撫を受けるのみに留まった。
「イリス...」ヴァルトは優しく囁き、彼女の背中に手を回した。「大丈夫だ。ゆっくりと進もう」
イリスは頷き、彼の腕の中で身を任せた。二人の夜は静かに更けていく。月明かりの下で、白き人形姫は初めての愛を知った。