目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報

Act of Intimacy-8. 獣は姫に牙を向けるか

屋敷から逃げ出し、再会したヴァルトとイリスが身を寄せた廃屋。リュシアン王国の辺境に近い森の中、春の雨が木々を叩く音だけが静寂を破っていた。異能に目覚め始めたイリスの体は、抑えきれない力に震えていた。彼女の中に眠っていた力が暴走し始め、精神の均衡を失いかけている危機的状況。一方、彼女を守るために戻ってきたヴァルト・グレイハウンドは、獣人としての本能と理性の間で引き裂かれていた。イリスの異能の波動が彼の獣性を呼び覚まし、彼女を守るべき存在か、捕食すべき獲物か、その境界線が曖昧になりつつあった。


「近づかないで...私、自分が分からなくなる」


イリスの声は震えていた。白銀の髪が乱れ、その一部が青白い光を放っている。淡いラベンダー色の瞳の中に、不自然な光が宿り始めていた。彼女は壁際に身を寄せ、破れた旅装の白いドレスは泥で汚れ、裾は雨に濡れていた。その細い指先からは、時折小さな光の粒子が漏れ出し、彼女自身もそれを恐れているようだった。


「イリス...」


ヴァルトの声は低く、抑制が効いていなかった。彼は窓際に立ち、雨に濡れた姿のまま。黒いシャツは体に張り付き、筋肉の隆起を強調している。頬には傷があり、血が雨で薄まって滴り落ちていた。彼の琥珀色の瞳は既に獣の金色に変わりつつあり、指先の爪は普段より鋭く伸びていた。


「あなたの異能が...私の獣を呼んでいる」彼は困難そうに言葉を絞り出した。「でも、俺はお前を守るために戻ってきたんだ。決して牙を向けない」


イリスの体から光が強まり、彼女は苦しそうに床に膝をついた。「でも...抑えられないの。力が...溢れていく」


ヴァルトは歯を食いしばり、一歩ずつイリスに近づいた。彼の中の獣が彼女に飛びかかることを望んでいるのが分かる。獲物を前にした捕食者の本能。しかし、彼の心はその本能と激しく戦っていた。


「お前の力は、俺の獣性を刺激する」彼は説明した、声は荒く。「でも...それは逆にも作用する。俺たちは互いを壊すか、救うかのどちらかだ」


イリスは苦しげに顔を上げた。彼女の瞳には光と同時に、恐怖と決意が混じっていた。「あなたに...傷つけられても構わない。このまま暴走するくらいなら」


その言葉に、ヴァルトの心臓が痛んだ。彼は彼女の前にひざまずき、その距離に彼の獣性がさらに高まるのを感じた。イリスから放たれる異能の波動は、まるで彼の野性を直接呼び覚ますような振動を持っていた。


「俺はお前を傷つけない」彼は確信を持って言った。「俺の獣は...お前のためにしか牙を剥かない」


イリスの目に涙が浮かんだ。「どうやって...これを止めるの?」


ヴァルトはゆっくりと手を伸ばし、彼女の頬に触れた。その接触で、二人の体から同時に光と熱が生まれた。イリスの異能とヴァルトの獣性が共鳴し始めている。


「力を解放させるんだ」彼は囁いた。「でも、ただ放つんじゃない。感情と共に...」


その言葉の意味を理解するのに、イリスは時間を要さなかった。彼女はゆっくりと身を乗り出し、ヴァルトの唇に自分のものを重ねた。二人が触れ合った瞬間、部屋全体が青白い光に包まれた。


キスは深まり、イリスの体から放たれる異能の光がヴァルトの体に流れ込んでいく。彼の獣性が高まり、喉から低い唸り声が漏れる。しかし、それは彼女を襲うためのものではなく、彼女を守るための力だった。


「ヴァルト...私の中が熱い」イリスは息を切らして言った。「あなたの力で...鎮めて」


彼は彼女の意図を理解し、そっと彼女を床に横たえた。イリスの白いドレスが光の中で透けて見え、その下の肌が青白く輝いている。ヴァルトの手が震えながらも、ドレスのファスナーを下ろし始めた。


「俺の獣があなたを求めている」彼の声は獣のように低かった。「でも、決して傷つけはしない」


イリスはただ頷き、自らドレスを脱ぎ始めた。彼女の白い肌が露わになるにつれ、その体から放たれる異能の光がさらに強まる。ヴァルトの目が完全に獣の金色に変わり、彼の体も変化を始めていた。腕には灰色の毛が生え始め、耳が尖り、顔つきが獣人に近づいていく。


「怖い?」彼は尋ねた、声は既に人間のものではなかった。


イリスは首を横に振った。「あなたは私の獣...私を守るために牙を向ける存在」


その信頼の言葉が、ヴァルトの心を強く打った。彼は自らのシャツを引き裂き、筋肉質の胸と腹部を露わにした。イリスの手が震えながらもその肌に触れ、獣に変わりつつある彼の体を確かめるように撫でる。


「熱い...」彼女は囁いた。「あなたの体が私の異能を吸収している」


ヴァルトは彼女の上に覆いかぶさり、再び唇を重ねた。今度のキスは前回よりも深く、獣の本能が混じっていた。彼の舌がイリスの口内を探り、彼女の甘い味を堪能する。イリスもまた、恐れることなく彼に応え、むしろ彼の獣性を受け入れるように体を開いていた。


「もっと...」彼女は息を切らせて言った。「あなたの全てが欲しい」


ヴァルトの手が彼女の体を探り始め、以前よりも鋭くなった爪が彼女の肌をかすめる。しかし、決して傷つけることはなく、むしろ新たな刺激として彼女の感覚を高めていた。イリスの体が弓なりになり、快感と異能の放出が混ざり合う。


彼の唇が彼女の首筋から胸元へと移動し、獣の唇で敏感な場所を刺激し始めた。イリスの口から甘い声が漏れ、その声に合わせて彼女の体からの光の波動が強まる。それはヴァルトの獣性をさらに刺激し、彼の体がより獣人に近づいていく悪循環。


「イリス...制御できなくなる」彼は警告した。「俺の獣が...お前を求めすぎている」


彼女は彼の頬を両手で包み、まっすぐに目を見た。「あなたを信じる。私の獣...私だけの守護者」


その言葉と共に、イリスの体から最も強い光の波が放たれた。同時に、ヴァルトの体も完全に獣人の姿に変化した。彼の指は爪に、歯は牙に変わり、体毛も増していた。しかし、その目に宿る感情は純粋な愛情だった。


イリスは恐れるどころか、好奇心に目を輝かせていた。彼女の手が彼の体毛を撫で、その感触を確かめるように指を走らせる。「あなたの獣の姿...温かい」


ヴァルトは低く唸り、彼女の手を取った。「このままでいいのか?」


「このままで」彼女は確信を持って言った。「あなたの本当の姿を感じたい」


彼女の許可を得て、ヴァルトは獣人の姿のままで彼女の下着を取り除き始めた。爪で生地を破る音が部屋に響き、イリスは小さく息を呑んだ。彼の唇がさらに下へと移動し、彼女の最も敏感な場所に触れた時、イリスの体から強い光が放たれた。


「ああっ!」彼女の声が部屋に響いた。


ヴァルトの舌が彼女の秘所を舐め始め、獣の感覚で彼女の快感のポイントを正確に捉えていく。イリスの手が彼の髪に絡まり、その感覚に身を委ねた。彼女の体から放たれる異能の光は、彼の行為によって徐々に制御されたリズムを取り始めていた。混沌としていた波動が、二人の呼吸と心拍に合わせて整い始める。


「ヴァルト...」イリスの声は切なく響いた。「もう...欲しい」


彼は顔を上げ、獣の金色の瞳で彼女を見つめた。「確かか?俺はもう...人間の姿ではない」


イリスはただ微笑み、腕を広げた。「あなたを受け入れる...すべての姿を」


その言葉に、ヴァルトの最後の躊躇いが消えた。彼は獣人の姿のまま、残りの衣服を脱ぎ捨てた。彼の体はより筋肉質に、そして獣の特徴が顕著になっていた。彼の性器も獣の特徴を帯び、イリスは少し驚いた顔をしたが、決して怖がる様子はなかった。


「大丈夫?」彼は心配そうに尋ねた。


「大丈夫」彼女は確信を持って答えた。「あなたなら...受け入れられる」


ヴァルトはゆっくりと彼女の上に覆いかぶさり、二人の体が触れ合う。彼の体毛が彼女の肌を刺激し、新たな感覚をもたらしていた。イリスの足が彼の腰に巻き付き、彼を迎え入れる準備ができていることを示す。


「愛している」彼は獣の声で囁いた。「どんな姿になっても」


「愛してる」彼女もまた答えた。「どんな力を持っても」


二人の告白と共に、ヴァルトが彼女の中に入り始めた。獣の特徴を持った彼の大きさに、イリスは小さな悲鳴を上げたが、すぐに快感に変わっていく。彼女の体が彼を受け入れ、異能の光が二人を包み込む。


ヴァルトの動きは獣の本能に導かれて力強かったが、同時に彼女を傷つけないよう細心の注意を払っていた。イリスの体が彼のリズムに合わせて揺れ、彼女の指が彼の背中に食い込む。彼女の爪が彼の肌を傷つけても、彼はそれを痛みではなく愛の証として受け止めた。


「ヴァルト...何かが」イリスの声が震えた。「私の中で...目覚めていく」


彼は彼女の言葉を理解していた。異能の力が性的な高揚と共に高まり、制御と解放の境界線上にあった。彼はリズムを変え、より深く彼女を愛し始めた。


「感じるままに」彼は彼女の耳元で囁いた。「俺と一緒に...解放するんだ」


イリスの目から光が漏れ始め、彼女の全身が青白い炎に包まれているかのようだった。しかし、その炎は彼らを傷つけず、むしろ二人を一つに繋ぐ媒体となっていた。ヴァルトの獣性も高まり、彼の動きがより原始的になっていく。


二人の体から放たれるエネルギーが部屋全体に満ち、廃屋の窓ガラスが振動し始めた。イリスの喘ぎ声と、ヴァルトの獣の唸り声が混ざり合い、二人だけの神聖な儀式のような雰囲気を作り出していた。


「もう...止まらない」イリスは息を切らせて言った。「来るわ...何かが」


ヴァルトは彼女をさらに強く抱きしめ、最後の一押しを始めた。「共に...」


イリスの体が弓なりになり、口から声にならない叫びが漏れた。同時に、彼女の体から最も強力な光の波が放たれ、部屋全体を白く染め上げた。ヴァルトもまた限界に達し、獣の唸り声と共に彼女の中で全てを解き放った。


光が収まり始めると、二人はまだ繋がったまま互いを見つめていた。イリスの体からの異能の光は穏やかになり、ヴァルトの体も少しずつ人間の姿に戻り始めていた。


「私の中の力が...あなたによって鎮められた」イリスは驚きの表情で言った。


ヴァルトはゆっくりと彼女の髪を撫で、額にキスをした。「俺の獣も、お前によって統制された」


二人は静かに笑い合い、その瞬間、イリスの体から最後の光の波動が穏やかに放たれた。それは以前のような混沌としたものではなく、制御された、美しい光だった。


「私たちは...互いを救ったのね」イリスは小さく微笑んだ。


ヴァルトは彼女をしっかりと抱きしめ、「そして、これからも互いを守り続ける」と答えた。


獣人と異能者、二人の禁断の結びつきは、彼らを破滅させるのではなく、救済へと導いていた。イリスの中の異能は彼女の一部として受け入れられ、ヴァルトの獣性もまた、彼の強さの源として認められた。二人は互いの特別な力を恐れるのではなく、愛することを学んだのだ。


雨は上がり、窓から差し込む朝日が二人を優しく照らしていた。新たな日の始まりと共に、彼らの物語も新しい章へと踏み出そうとしていた。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?