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第176話 この手で、守り抜け!

目の前の騎士は、

カッコよく自己紹介を決めると、すぐに前方へ向き直った。




「ガルルル……」




黒い狼が、喉を低く鳴らしている。

突如現れた騎士を、睨みつけるように――。






騎士は警戒を解かず、こちらを見ないまま口を開いた。






「アナタを探していました。

……グリード王国まで、連れ戻します」






(僕を……?)




グリード王国。

つまり――これは、サクラ女王の助け。




救いの手だ。

でも、胸に広がった感情は――嬉しさでも、安心でもなかった。






焦りだった。






「あ、あの!」






必死で声を張る。






「この子を……この子を救ってください!!」






僕の腕の中で、弱く息をするユキちゃんを、ギュッと抱き締めながら。






騎士――キールは、一瞬だけ、こちらを振り向いた。






「っ……! その子は――」






「ガゥッ!」






一瞬の隙。

黒い狼はそれを見逃さなかった!






鋭い牙で、下からキールに飛びかかる!






「くっ!」






咄嗟に盾を構えるキール。

だけど、狼は盾に噛みつき、まるで引きちぎるように力を込めていた。






……一見、タオルを引っ張り合う犬と飼い主みたいだけど――

きっと僕なら、腕ごと持ってかれてた。






「状況は!」




「出血が止まらなくて……たぶん、骨も何本か折れてて……息も、弱いです!」






「くっ……このっ!」






キールは狼ごと盾を振り回し、

そのまま一回転して壁に叩きつけた!




「これを!」






差し出されたのは、魔皮紙。






「これは緊急用の【治癒】魔皮紙!

止血と輸血はできるけど、潰れた内臓までは治せません!」






「っ……!」






「そしてこれが、洞窟の入り口まで転移できる魔皮紙です!

私が入ってきた道へ――そこからまっすぐ進めば、町に出られます!」






「あ、ありがとうっ!」






「ガゥルッ!!」






黒い狼が再び動き出す。






「アオイさん……絶対……絶対その子を死なせないでください!!」






その言葉には、

どこか、必死に押し隠してきた強い想いが滲んでいた。






(この人……)






「私の――」






言いかけた瞬間。






「ガチンッ!!」






鋭い牙を、キールが剣で弾き飛ばした!

盾じゃない。素手の剣だ。




なんで、こんなに……必死なんだ……?






「早くっ!!」






「はいっ!!」






僕は震える手で、魔皮紙に魔力を流し込む。






身体が、光に包まれる。

視界が、真っ白に――。






____消える直前、

ちらりと振り返ったキールの瞳。




それは、誰よりも優しく、

誰よりも……哀しかった。






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