「落ちついた〜?」
「はい、ありがとうございます」
家に戻ると、切り株みたいな丸い机と椅子が並び、たまこさんが温かいお茶を用意して待っていた。
俺は素直に座る。
さっきの「姉がどうとか」って話を、きっと今からするんだろう。
「ごめんねぇ〜、もうこんな時間だけど、私たちは明日ミクラルに向かうから〜。少しだけでも聞いておきたくて〜」
時刻は深夜三時を回っている。
でも、「疲れたので寝たい」なんて、恩を仇で返すような真似はできない。
「大丈夫です!夜は……慣れてますから!」
「夜のお仕事してたの〜?」
「い、いや、そういう意味じゃなくて……!」
「ふふっ、それに敬語もなしでいいわよ〜」
「じゃあ……お言葉に甘えて……」
……なんか、すごいペースに巻き込まれてる。
「まずは自己紹介ね〜。私、たまこって言うの。見ての通り、狐の獣人でお医者さんしてるの〜」
「たまこさん……よろしくお願いします。僕はアオイって名前で、奴隷です」
うわぁ……やっぱり自己紹介に「奴隷」って言葉付けるの、すっごい違和感。
でも、呪いはちゃんと解けてるみたいだし、そこだけはよかった。
「さっき言ってた話だけど〜」
「うん、僕は実は、ミクラルで――」
――そして、俺はミクラルで過ごした日々を、全て語った。
ドーロ先生のこと。
その恋人だった人のこと。
子供たちのことも――。
____話し終えたときには、もうすっかり緊張も解けていて。
ベッドに潜り込んだ瞬間、そのまま深い眠りに落ちた。
____________
そして、朝――!
「おかぁさん!起きて!起きて!」
「んー……もうちょっと……」
「おかぁさんー!」
「んぁ……」
ぽふっ。
胸に何かがふわっと乗った感触で目を覚ます。
「ユキちゃん!」
目を開けると、そこには元気いっぱいのユキちゃんが、俺にぎゅうっと抱きついていた!
「おかぁさん!」
「元気になったんだね!よかった……よかったよぉ!」
「怖かったよぉ……おかぁさん……」
うわぁ、もうダメだ。
涙があふれて止まらない。あの時のユキちゃんを思い出して、今の無事なユキちゃんを見たら……そりゃ、涙腺も決壊する。
「はいは〜い、泣くのはいいけど〜。女の子なんだから、朝の身だしなみもしっかりね〜?」
そこに、たまこさんがふわりと入ってきた。
「って、あなたすごいわね〜。起きたばかりなのに、髪もさらさらだし、肌もぴかぴか〜」
「そうなの!おかぁさんはすごいんです!」
……はは。確かに最近、寝癖とは無縁だなぁ。
「さぁ、ご飯できてるから〜、早く食べちゃって〜」
「ご飯です!」
ご飯という単語を聞いた途端、ユキちゃんはパァッと笑顔になり、トコトコと元気に走り去っていった。
……さっきまで泣いてたのに、切り替え早すぎない!?
俺、まだ涙が止まってないんだけど!?
「……」
そして、タイミングを見計らったかのように――。
ぐぅ〜〜〜……
お腹が盛大に鳴った。
「…………」
……ま、いいか!
俺もお腹空いたし!ご飯、いただきます!