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第180話 ユキちゃんとお別れ!

 「それじゃぁ私たちは行くわね〜」


 「うん、本当にありがとうございました!」


 「ありがとうございました!です!」


 俺は深々と二人に頭を下げると、隣にいたユキちゃんもぺこりと真似して頭を下げた。その小さな背中が愛しくて、苦しくなる。


 「いいって事よ〜気にしないで〜」


 「……本当に一緒に来なくて良いのか?」


 「うん、大丈夫!」


 俺は答えるけど、それは“強がり”なんかじゃない。“覚悟”だ。


 ……今の俺じゃ、ユキちゃんを守れない。


 あのシルクハットの大マスターが迎えに来ていないってことは、おそらく今の俺は“自由”だ。でも、この先いつ、また何が起こるか分からない。この子を巻き込むわけにはいかない。


 だから、俺はたまこさんに頼んだ。

 信頼できる場所にユキちゃんを預けてほしい、と。


 「おかぁさんとユキは大丈夫です!」


 「…………」


 でも、それを理解してくれるほどユキちゃんは大人じゃない。


 「……ユキちゃん」


 「ん? なぁに? おかぁさん?」


 「ごめんね、ユキちゃん」


 「……?」


 「……ユキちゃんはお母さんとここでお別れだよ」


 その瞬間、ユキちゃんの表情がぐしゃっと崩れた。


 「な、なんで?」


 目には涙が滲み、今にもこぼれ落ちそうな瞳で、俺を見つめる。


 「お母さんは弱いから……ユキちゃんを守れないし危険なんだ」


 「そんなことないもん! 今だっておかぁさんが居てくれたから!」


 その言葉が胸に突き刺さる。

 ……でも違う。


 「ユキちゃん……」


 「……いや……嫌だよ……おかぁさん……やっと会えたのに……」


 ユキちゃんは俺にぎゅっと抱きついてきて、こらえていた涙を流した。

 ごめんね……お母さん、ほんとは“本当の”お母さんじゃないんだ。


 「ユキが弱いから足手まといなの?」


 「フフッ、そんな言葉をどこで覚えたのかな?」


 俺はしゃがんで、ユキちゃんの目とちゃんと向き合った。


 「よく聞いて? お別れって言っても、ほんの少しだけだよ? お母さんが強くなったら、すぐに迎えに行くからね」


 「……ほんとに?」


 「うん♪」


 「ほんとにほんとにすぐに?」


 「うん、だからそれまで待っててね? ユキちゃんは強い子だから、待てるでしょ?」


 「……はい……」


 「偉い偉い」


 「……えへへ」


 「おかぁさん」


 「ん? なにかな?」


 「ユキも……ユキも強くなる! 強くなっておかぁさんを守る!」


 「フフッ、じゃあその時はお言葉に甘えるね?」


 「うん!」


 俺はユキちゃんの頭を優しく撫でて、立ち上がる。


 「では、ユキちゃんをお願い」


 「わかったわ~」


 「……任せろ」


 「うん……」


 みんなに背を向けて歩き出す。

 本当はこの手を離したくない。離した瞬間に、自分がどれだけ弱いかを突きつけられる気がする。


 でも――これが、今できる“最善”なんだ。


 ユキちゃんには、この世界で幸せに生きてほしい。




 「……おかぁさん!」


 ……その声が、背中を貫いた。


 振り返ったら、泣いちゃうから。


 だから――振り返らない。


 「行ってらっしゃい!」


 「!……フフッ」


 俺は少しだけ笑って、振り向かずに片手でグッドサインを掲げた。

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