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第194話 ヒロユキパーティーの裏話


 《ミクラルギルド・数時間前》




 ヒロユキが席を外していた間、

 ユキはたまこを人目のない場所に呼び出していた。




 「どうしたの~? こんな所に呼び出して~」




 口調はいつもどおり緩やか。

 けれどその目は、しっかりと“敵を見る目”になっていた。



 「すいません、たまこさん。お忙しい中……まずは、お礼を言わせてください。助けてくれて、ありがとうございました」




 「いいのよ~。……それだけの話なら、こんな場所に呼び出さないわよね~?」


 「えぇ、その通りですよ……【六英雄】のヒーラー担当のたまこさん。」


 「…………どうして知ってるのかしら。医者たちは、上手く記憶を消したはずなんだけど~?」




 「もしかして助けた人の誰かが、たまたま覚えてた……とか?」




 「そんな嘘が通じる相手だと思ってるの~?」




 ピッ、とたまこが指先を弾く。


 空中に魔方陣が展開される。それは攻撃の魔法ではない。

 記憶操作――医師たちにも使用した“情報隠蔽”用の術式。




 「……使わないんですか?」




 「…………」




 「私の身体、見ましたよね。訊きたいこと、あるはずです」




 「……そうね~……確かに。あなたの身体、複雑な魔方が何層にも絡み合って繋がってた。

 一度、自分自身が魔力に分解されて、もう一度再構築されたような……転送魔法の事故にでも遭ったのかしら?

 とにかく、“今の魔法理論”じゃ再現不可能な状態だったわ~。

 生きてるのが、そもそも“奇跡”。それを、私が治しきった……それだけでも異常なのよ~」




 「さすがですね。でも、それだけじゃありませんよね?」




 たまこの視線が鋭くなる。




 「……身体を治している時に、私の魔方の痕跡がいくつかあったの。しかもそれは“ごく最近の”ものだった……。つまり、あなたは――」




 「――そこまでです。

 いつ、どこで誰が聞いているかわかりませんから」




 「…………」




 「今は、全部を話すわけにはいきません。

 でも、これから先――私たちに付いてきてくれたら、きっと何か“思い出す”はずです」




 「……ふふ。勧誘かしら~?

 情報を渡す代わりに、私の力が欲しい~って?

 でも残念ね~。私の力はね、パーティー一つには“余りある”のよ?

 そこら辺のヒーラー拾ってきた方が、まだバランスは取れるかも~?」




 「……あなたの“想い人”が、このままでは死ぬとしたら?」




 「……っ!?」




 その一言で、たまこの表情が凍る。


 ――誰にも話したことのない、“大切な誰か”。




 「……その人、今どこにいるの……?」




 「さぁ、どうでしょうかね」




 「…………」




 ふたりの間に、長い沈黙が落ちる。

 どちらも簡単に“信じる”ようなタイプじゃない。

 それでも、どこかで――似た空気を感じ取っていた。




 やがて、たまこがゆっくりと口を開いた。




 「……いいわ~。乗ってあげる」




 魔方陣が消え、代わりに、たまこが手を差し出す。




 「交渉成立ですね」




 ユキもその手を握り返し、ふぅと息を吐いて汗をぬぐった。


 ――それほど、ユキにとってもこの話は“賭け”だったのだ。




 「では、ヒロユキさんを呼んで、どこか美味しいお店で話しましょう。

 今は若者の間で【ピコナッツミルク】が人気らしいですし!」




 ふたりの握手の余韻を残しながら――

 ユキはたまこを、正式に“パーティーメンバー”として迎え入れた。



 そして何も知らないヒロユキだった。

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