「どうしましょうか、ヒロユキさん」
緊急警報が鳴った後、ヒロユキたちは近くにあるたまこの家に集まり、作戦会議を開いていた。
本来、旅行の名目で来ていたヒロユキとユキは、グリードに戻らなければならない立場だ。
しかし――
「ご、ごめん……ミーのせいで、こんなことに……」
ジュンパクの問題だった。
彼はギルドを通さずにこの国へ入国していたのである。
元々ミクラルの海賊だったジュンパクは、ミクラル以外の国では転移魔法が使えない。
そのため、海賊仲間の船で裏ルートから入国したのだが――
現在は【山亀】緊急事態により、裏ルートも封鎖されていた。
「……うーむ」
「【山亀】の緊急事態……いくらなんでも動くの早すぎです」
「……早すぎる?」
「えっと、それは――」
ユキが説明しようとするが、たまこが横から入る。
「“動き出すのが”って事でしょ~?
【山亀】は太古のアヤカシでね~、伝説の勇者でも倒せなかった存在。
だから魔力を抜いて眠らせたのよ~。
本来ならダイヤ級の冒険者が百年くらい魔力を流し続けても目覚めないはずだったの~」
「そうです! 専門家の話では、あと何万年は動かないはずだったんです!」
「……そうか。確かに、緊急事態だな」
「はい。緊急事態です」
「――なら、問題ないな」
「流石アニキ!」
「まぁ、そう言うと思ってました」
「??? どういうこと~?」
「要約すると……ヒロユキさん、“山亀を討伐しに行く”って言ったんです」
「問題ないって、そういう意味~!? なんで皆わかるの!?」
「ミーも最初はそんな感じだったなぁ~」
「では、お題としては――」
ユキが魔皮紙を取り出し、魔力を流すとモニターが浮かび上がる。
そこには《山亀討伐作戦》と大きく表示されていた。
「……こんなもの、いつの間に買った」
「グリードに帰ったときにちょっと♪」
「というか、行くの前提だったんだな……」
「この状況で、ヒロユキさんが行かない訳ありませんから。準備はしておきました」
「もし行かなかったら~?」
「その時は、私ひとりで行ってました」
「……」
「ではさっそく作戦会議です! まず私が思うに、アバレーの――」
ユキが伊達メガネを取り出して説明に入ろうとした、そのとき――
コンコン。
玄関のドアがノックされた。
「む? 誰だろう。たまこさんの知り合い?」
「う~ん、そうかも~?」
たまこが玄関まで行き、外の様子をちらりと確認する。
「……なんか~、すごく怪しそうな人が来たんだけど~」
「怪しい人?」
ユキもたまこと入れ替わりで外を見る――そして、表情が凍りついた。
「………………!? い、居留守にしましょう」
「えっ? ユキの姉貴、どうしたの?」
「静かに。ジュンパク、その口を“溶解して密着”させますよ」
「ひどっ!? さっきまであんなに優しかったのに!」
ジュンパクも覗いて、即座に同意した。
「……うん、居留守だね」
「……誰?」
「なんか~、黒くてトゲトゲした鎧着てる、めっちゃヤバそうな人~」
「……ああ」
ひとり、心当たりがある者がいた。
「……」
「ヒロユキさん!? 開けたらダメ――!」
静止するユキを無視して、ヒロユキは無言でドアを開ける。
そこには――
漆黒の鎧を身に纏い、禍々しい気配をまとった『エス』が立っていた。
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一方その頃。
アオイは、焦っていた。
「や、やばい……緊急事態だ……」
力が抜け、黒い薔薇の上に倒れ込む。
「これは……死ぬかもしれない……」
お腹に手を当てて、真剣な顔でつぶやいた。
「…………お腹すいた……」
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【山亀】出現まで、あと5日。