《世界樹》
「急げ!砦の基礎が崩れるぞ、しっかり固定しろ!」
「魔方陣班、転写ミス確認!五重結界の整合チェックも忘れるな!」
「支援部隊は資材搬入を急げ!次の補強班が待機してる!」
世界樹の根元では、数百名に及ぶ獣人騎士たちが慌ただしく動き回っていた。
世界樹ウッドと呼ばれる樹皮の一本一本に魔皮紙が次々と貼り込まれ、その上から希少な鉱石が丁寧に打ち込まれていく。
来るべき――《山亀》討伐作戦に備えるためだ。
「お母様、世界樹の補強作業は順調に進んでおります。この調子でいけば、本体到達の二日前には防衛線が完成いたします」
「うむ、よくやっておる。だが、まだ気を緩めるな。他の町にも防衛砦の構築を急がせるのじゃ。進行途中で魔力を削ぐことが肝要じゃからな」
「かしこまりました。すでに民の避難を終えた町から順次配置を始めています」
女王と姫が立つのは、世界樹の頂上に近い監視殿。その窓からは砦の建設の進捗が一望できる。
「……グリード王国は対応が遅れたようじゃが、我らは備えておる。迎え撃とうではないか、万全の備えでな」
「はい。ただ……もし、山亀の進路が途中で逸れるようなことがあれば――」
「それはない」
女王は静かに断言した。
「え……なぜですか?」
「…………」
姫の問いに、女王は扇子を軽く閉じ、静かに語り始めた。
「これは、我ら“愛染家”とこの“世界樹”にまつわる……忌まわしき“真実”によるものじゃ」
「真実……?」
「この世界樹には古より“呪い”が刻まれておる。その呪いとは――ある“者”を、この場所へ必ず導くという運命」
「“者”……?」
「『女神』の加護を持つ“真の王”じゃ」
その瞬間、姫の手から資料が落ちた。顔が驚愕に染まる。
「『女神』の……!?」
「そう。この国は元々、邪悪な“女神”によって築かれた王国。その王のために、世界樹は存在しておるのじゃ」
「……女神が造った国……?」
「そして《山亀》は女神が遣わした“四聖獣”の一体。真の王を乗せ、世界樹に帰還する“器”として創られた存在」
姫はしばらく沈黙し、深く息を吐いてから問うた。
「四聖獣……つまり、あの《山亀》が来るのは運命通り、ということですね。なら――私たちの王位は、偽物だった……?」
「うむ。この世界樹に生まれた王族は皆、“仮初の器”。
本物の王は、女神の力と共に“世界を導く者”……その証として、我らと同じ“二本の尻尾”を持っている」
「………………衝撃が多すぎて……思考が追いつきません……」
「無理もあるまい。だが今はまだ、真実がすべてではない」
姫はしばし思案し、やがて覚悟を決めたように口を開く。
「……つまり、お母様。
もしその“真の王”がここへ来れば――」
「――“山亀”ごと、王を殺すおつもりですね」
女王は何も否定しなかった。ただ、閉じた扇子を静かに口元に戻すだけだった。
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《その頃、アオイ》
「み、水だ!やった!」
岩の上から雨水がポツポツと落ちてくるのを確認したアオイは天にも上る気分だった。
もはや床が見えなくなるほど落ちてる黒い薔薇の花びらをかき分けながら水滴の落ちる真下に入り____
「あーん……」
アオイはそのピンクで小さく可憐で美しい口を開いて上を向く。
ピチョ……と綺麗な舌の上に水滴が落ち。
乾きを少し和らげた。
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『山亀』到着まで後4日
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