《アバレー王国 三突》
普段なら、獣人たちの笑い声と喧騒が響くはずの商業都市――だが今は静まり返っていた。
【山亀】襲来の報を受け、住民はすでに避難。そこに、白く不気味な仮面をつけた“男”が立っていた。
その隣には、蛇と蜘蛛を掛け合わせたようなアヤカシ。背丈は人間ほどで、地を這いながら異様な呼吸音を立てている。
「まったく……嬉しいことと、悲しいことは……一緒に来るものですな」
「フシュルルルル……」
「なあ? 我が愛しきパートナーよ」
男は、町で一番高い建築ウッドの屋根に登ると、遥か北の空を見た。
一ヵ所だけ雲が渦を巻き、山の地形ごと“蠢いて”いる。
「あれが“山亀”ですな。乾きを嫌う性質、伝承通りですぞ」
「フシュ」
「だが……クソが!!」
怒りが噴き出す。次の瞬間、男は手をかざし――
*ドォンッ!!*
魔法で近くの建物を爆破。瓦礫が吹き飛び、木片が空を舞う。
「せっかく……せっかく見つけたのに……!」
「会いたい……会いたい……会いたい……会いたい……!!!こんな時に仕事なんか命令しやがって!あのクソ婆があああああ!」
「会いたい」の声が響くたび、魔法が暴走し、町の建物が次々と爆散していく。
周囲は、狂気と熱気に包まれた。
ようやく静かになった後、男はフッと冷笑する。
「……ま、仕事は果たさねばなりませんな。ねぇ、パートナー?」
「フシュル!」
蜘蛛蛇がその意図を悟ったかのように動く。
糸腺から高密度の糸を次々と放ち、空中へ――。
この蜘蛛蛇、かつて“掌に収まるサイズ”で700メートルの糸を出すと言われた種だ。
だが今の個体は全長2メートル超。放たれる糸は、もはや“都市規模”だ。
「さぁ――芸術の時間ですぞ」
その日、この町“三突”は、蜘蛛蛇の糸と地雷魔法で埋め尽くされた。