「……」
「……」
「……」
「い、いや〜それにしてもまさか本当にキールのパーティーだったと__」
「キール“さん”だろガキ……殺すぞ」
『山亀』討伐作戦の設備を見物しながら、リュウトは仲間たちと共に作戦の立案に取り掛かっていた。
遠くからでも確認できる巨大な砦。
その外壁には、まるで装飾のように無数の魔法陣がびっしりと描かれている。
目の前にそびえ立つ砦は、自分たちの身体より何百倍も大きい。
それが“魔力で稼働する兵器”だと考えると、なおさら圧巻だった。
ちなみに、リュウトの他のパーティーメンバーは、設備の補助作業に回っている。
この討伐作戦の全体計画は、リュウトたちに一任されているのだ。
「やめろクロ、私が認めたんだ」
「あ?何でこいつを認めてんだよ!こいつは!」
そこまで言ってクロエは黙る。
「あ、あの……何か俺__」
「リュウト、それ以上何も言うな」
きっとリュウトがそれを言ったらこの場で殺人が起きてしまう。
そんな張り詰めた空気がめんどくさくなったのかオリバルがため息まじりに
「クロは怒りっぽいから気をつけた方がいい、悪かったな、リュウト……」
「な!?オリバてめぇ!」
「今はそんな事してる場合じゃないだろう、キーくんがリュウトにそう言ったのなら好きにさせておけ……」
「チッ!キーさんは認めたかも知れねぇけど俺には敬語使えよ?じゃないと殺す!」
「は、はい!」
「それで、どうしてキーさんがこんなとこに居るんだよ」
「少し話が長くなるが、国からの極秘任務だ」
「は!じゃねーとこんな所にいねーわな、で、なんでこいつと?」
「その任務の途中で会っただけだ、事が事だからな今は任務より此方を優先している」
「ほーん、んで?山亀はどうすんだ?リュウト」
「あ、はい、俺とキール、クロエさんとオリバルさんは基本的に山亀に近接で有効な攻撃を探す所から始めようと思ってます」
「それで?」
「それでどれだけ硬いかのデータを魔皮紙を通してアバレーの騎士達に渡すのが俺たちの仕事です。後は設備が出来次第また此方に連絡が来ると言ってました。つまり、それまでは自由です」
「作戦があっさりしてるな」
「単純な作戦でいいじゃねーか」
「ルコサが好きそう……」
リュウトはその各個人の感想を聞きながら、「本当に仲がいいな」と笑みをこぼした。
それと言うのも――
リュウトはキールの冒険者時代の話を、まるで映画を見るような感覚で聞いていて、憧れすら抱いていた。
つまり、リュウトにとってはその“映画の俳優達”が、目の前に居るようなものだったのだ。
しかし____
「がっ!!! く……!!」
「あ? どうした?」
突如、リュウトを襲った“誰かに呼ばれている”という感覚。
それは頭の奥、鼓膜の内側を直接叩かれるような奇妙な衝動だった。
そしてそれに呼応するように――
体内に封じ込められていた“力”が、目を覚ます。
「そ……んな! 朝に薬は打ったはず! が、ァァア!」
「リュウト! しっかり気を保て!」
異変を即座に察したキールが、リュウトの身体を押さえ込む。
「ハ、ナセエエエェッ!! アオイィィィィ!!」
叫びはもはや声というより、咆哮――。
暴れるリュウトを押さえ込もうとしたキールだったが、強化された筋力に押し返される。
「チッ……!」
その瞬間――
横から飛び込んできたクロエが、リュウトの頭をがっしと掴み、
そのまま地面に叩きつけた!
「ガッハッ……!」
「何だか分かんねーけど、緊急事態ってことは理解した!」
「ガァァアァァッ!!」
さらに追い打ちをかけるように、オリバルが魔法を展開。
リュウトの両腕に絡みつくように、青白い拘束魔法の鎖が出現し、地面へと押さえつけた。
「キーくん、状況を説明しろ……」
オリバルが冷静に問う。
「これは――」
「ウガァァァァアアアアアアアアア!!!!!!」
キールが答えるよりも早く、リュウトの全身に黒い魔法陣が浮かび上がり、発動した。
「アオイィイイイイイ!!!!!」
凄まじい魔力のうねりが地面を割り、リュウトの足元から空気が弾け飛ぶ。
「!?」
拘束していたはずの魔法陣は、黒い光の波に呑まれるようにして霧散。
次の瞬間――
キールたちは信じられない力で吹き飛ばされた。
「くっ……! 逃げた!?」
リュウトは地面を蹴り、風を裂くような速度で駆け出す。
その叫びに導かれるかのように、一直線にどこかへ――
「おい!あいつどうなってんだよ!?」
「後で話す!追うぞ!」
追いかけようとするキールをオリバルが止める。
「落ち着けキーくん……俺たちにそんな時間はない、それよりも俺達にあのリュウトを説明する方が先だ」
「………………あぁ、お前達には話しておく必要がありそうだな」
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『山亀』到着まで後2日
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