《ギルド 講堂》
ユキはあの後、簡単な自己紹介だけを済ませると――
「全員、講堂に集合してくださいっ!」
そう言い残し、さっそうとギルドの奥へと姿を消した。
そして今――
広々としたギルドの講堂には、各パーティーの面々が集まり、円形の座席にそれぞれのグループごとに腰かけていた。
正面の教台には、今回の急展開を導いた少女――ユキが立っている。
そのユキを中心に、講堂は三方向に分かれて着席していた。
右側には、クロエ、オリバル、そしてキールの三名。いずれも歴戦の冒険者であり、独特の威圧感を纏っている。
中央には、リュウトの仲間たち――アカネ、みや、アンナの三人が並んでいる。ちなみにあーたんは、状況がややこしくなるため離席。
そして左側には、ジュンパク、たまこ、ヒロユキ、さらには異質な雰囲気を放つエスの姿がある。
その一角だけ、どこかファンタジーというよりサスペンスめいた緊張感が漂っていた。
「まずはみなさん、お集まりいただきありがとうございます。私はここにいるヒロユキさんのパーティーに所属する、魔法攻撃専門のユキです」
「「「……」」」
「みなさんのご活躍は伺っております。この度は、こうしてお会いできたことに感謝いたします。つきましては――」
ユキが言い終える前に、鋭い声が教壇を遮った。
「前置きはいいんだよ。さっさと話せ」
言ったのはクロエだった。
すかさず、それに噛みつくように声をあげたのは、やはりみやだった。
「相変わらず口が悪いっ! 黙ってりゃ平和なのにっ。いっそ口を縫えばいいのにっ!」
「あ? 殺すぞ?」
案の定、火花を散らしはじめる2人。
その様子に、アンナは小さくため息をついて__
「はぁ……あんた達、いい加減にしなさい? キール様の前で迷惑かけないのよ」
アンナが諫めようとしたその時――
彼女とウマが合わない人物が、さっそく噛みついた。
「ミーの場合は、ババアの声の方がよっぽど鬱陶しいけどね〜」
ジュンパクだ。
過去に一度、アンナの行動に出し抜かれ、死にかけたことがある。
「あー? あんたまたやる気? そこの黒騎士にボコられてた癖に? それに片腕なくなって死にかけたの救ったの、うちのパーティーなんだけど?」
「うるせぇババア。海賊は恩を受けても、借りパクするもんなんだよ」
クロエとみや、アンナとジュンパク――
どちらも、火花を散らす水と油。
さらに追い打ちをかけるように、黒騎士を睨みつけながらアカネが言い放った。
「どうして黒騎士のあなたがここにいるんですかね? ……まさか、この中の誰かをまた奴隷にしようとしてるんじゃないでしょうね?」
その瞳は、まるで汚物でも見るかのように冷たかった。
「やめといた方がいいですよ? リュウトさんがいなくても、これだけの数がいれば……あなたを倒せますから」
彼女の過去――かつて奴隷商に囚われていた記憶が、黒騎士への敵意を煽っていた。
「……お前、本人の力じゃないんだな。勇者の腰巾着でしかない弱者は、黙ってろ」
「なっ……!」
アカネの挑発に、黒騎士も負けじと牙をむく。
火種はあっという間に燃え上がった。
「「…………」」
その一方、何も言わず座っていたオリバルとヒロユキは、視線を合わせもせず、ただ同じテンポで足を揺らしていた。
(早く……話を進めろ)
空気に漂うのは殺気とピリついた沈黙。
作戦会議どころか、今にもバトルロイヤルが始まりそうな雰囲気であった――。
「いい加減に____」
キールが場を収めようと声を出しかけた、その瞬間――
「いいかげんにしてください!!!! だまって!!!!!」
ユキが耐えきれず、怒鳴り声をあげてその場を黙らせた。
「……良いですか? 今、私たちは喧嘩をしている場合じゃない。それは、分かってますよね?」
会場をゆっくりと見渡しながら、静かに語りかけるユキ。
だが、みんなの表情は腑に落ちないままだった。
――しかし。
ユキが次に発した一言で、全員の顔つきが変わることになる。
「あの『山亀』の中に、勇者のアオイさんが囚われている情報を得ました」
その名が出た瞬間、空気が変わった。
そう――アオイの存在だ。
どういう巡り合わせか、今この場に集まった面々は、全員が彼女に何かしらの縁を持っていたのだった。
「なっ!?」
「師匠……なるほど……免許皆伝な訳だ……」
クロエとオリバルは、今回の目標であるアオイの救出――
免許皆伝という師匠の言葉の意味を、ようやく理解した。
「妹ちゃんが!? なんで!? 早く助けにいかないと! 妹ちゃーん!」
「はぁ……またあの子はそんな所に居るのね……魔法も大して使えないのに、どうしていつもトラブルの中心にいるのよ……」
アカネは心配のあまり、パニック寸前になりかけ。
反対にアンナは、クールに眉をひそめていた。
「お姉ちゃんが!? また会えるの!? もう会えないかと思ってた!」
「……ジュンパク、エスが言ってた」
「そうよ~、あのボロボロだった子がなんでそこに~って、私も言ってたじゃない」
「……あいつの話は聞きたくなかったから、聞いてなかったの。テヘッ」
ヒロユキのパーティーは、ジュンパク以外、エスからその情報を事前に聞いていたようだった。
「そうです! これは“山亀討伐”ではありません!」
「うーん、そうですね……【ヒロイン救出作戦】とでも、変えましょう!」
「「「「…………」」」」
沈黙のあと、一番最初に口を開いたのは――クロエだった。
「ちっ、仕方ねーな……可愛い後輩がそんな所にいるなら、早く行ってやらねーとな」
「フッ……珍しく優しい……」
「まったくだ、クロから普通に心配する言葉を聞いたのは何年振りだろうな?」
「あ?キーさんにオリバ、殺すぞ?」
次はアカネ達。
「アンナさんどうしましょ!?妹ちゃんが!妹ちゃんがまた危ない目にあってます!」
「落ち着きなさいアカネ、アオイを救出するために今から完璧な作戦を練るわよ……こう言うのは癪だけどあそこのオカマ海賊の考えと私の考えを合わせればより完璧な作戦が練れるわ」
そう言われジュンパクもニヤリとする。
「フフン♪ババアにしてはいい目を持ってんじゃん……いいよ、ミーがどれだけすごいか見せてあげる」
「アオイっ……リュウトの好きな人っ……ライバルっ」
みやも別の意味でアオイを意識している様だ。
バラバラだったみんながまとまりつつある現状を見てたまこはヒロユキに訪ねる。
「ね~、ヒロユキさん~」
「……?」
「あのアオイって子、何者〜?」
「……さぁな……ただ一つ言えるのは」
「?」
「……アオイはすごい奴だ」
それを言うとヒロユキは満足そうに黙った。
「では、まず我々の情報を共有しましょう、エスさん」
「……………まず、知っての通りアオイは俺の雇い主である『女神の翼』が管轄している奴隷だ」
アオイが奴隷である事はみんな知っている。
クロエ達もアオイの胸にあった番号を見ていたが詮索はしなかった。
「これは機密事項なんだが……見る方が早い」
エスは地図を取り出して前に居るユキに投げる。
「起動して、みんなに見せろ」
「はい、任せてください」
その地図に魔力を通し、ユキは最近買ったモニター魔皮紙を使ってみんなの前に映し出す。
「見ての通り、この地図の“35”と書かれているのがアオイの居場所だ、ここ数日、近づいてきている山亀とリンクしているように動いている」
「元々奴隷の管理をどうしていたのかと思っていたが……」
キールが呟くがエスは無視した。
「この地図は後にアオイさんを救出するグループが持つことになります……次に山亀の特性や生体についてですが、みやさんが詳しいと思います」
「えっ……どうしてっ……それをっ……」
みやがいきなり呼ばれてビクッとなりユキを見る。
「お願いします」
ユキがプロジェクター画面にみやの顔を映し出す。
「……」
当たりは静寂に包まれ、みやは覚悟を決める。
「私は過去に【山亀】の戦いをみたことがありますっ」
「「「「!!!」」」」
リュウトのパーティー以外の全員がその発言に驚く。
それもそうだ、山亀は大昔の神話の生物……動いていると言っただけでも何年生きてんだって話になる。
「……」
「……?」
みやはヒロユキを見る……まるで何か言うのを迷ってるようだった。
「私の事は詮索しないでっ……その代わり私の知ってることを話すっ」
「はい、重要なのは山亀に関しての情報です、みなさんもそれが分からないわけではないので安心してください」
「うんっ……」
みやはそれから淡々と説明を始めた。
「まずっ、あいつは魔力を大量に消費しながらじゃないと早く動けないのっ……それこそ、今回みたいに一日でこんなに早く移動するのはかなりの魔力を貯蓄してるか、莫大な魔力を供給している誰かが居るかだけどっ、供給している人はたぶん魂まで魔力を吸いとられて死んじゃうだろうからっ、貯蓄が完了して動き出したと思うっ」
「……」
みやが話すのをみんな黙って聞いている。
「それとっ、どれくらいによるかだけどあいつは魔力量によって守備に関して強くなっていくっ……私が見た時、攻撃魔法が効かなくなるバリア張ってたっ……それに傷がすぐに回復する」
傷がすぐに回復すると言われ、クロエは苦い思い出を思い出す。
「どっかの神話のドラゴンみたいじゃねーか……ま、今回はあれよりでかいが」
「以上が私の知ってる山亀の情報っ」
言い終わるとモニターが再びユキを映し出した。
「ありがとうございました!では!次に各戦力を照らし合わせながら作戦を練ります!まずは____」
それからもユキの司会進行の元それぞれ作戦が組み上がっていった____山亀到着まで後2日。