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第225話 開戦!

 「目標! 射程圏内まであと10!」




 すべての設備が準備完了し、いまや世界樹は――


 魔法陣だらけの“落書き世界遺産”のような有様になっていた。




 そして、開戦まで――残りわずか。




 山亀は、遠くからスコールを発生させながら、その巨体を堂々と獣人達の前に現していた。




 モニターに映し出された映像では、まだ街の先端にすら到達していないはずなのに――




 それでも、その圧倒的なスケールゆえか。


 まるで、すぐ目の前に迫ってきているような錯覚に陥るほどだった。


 「さぁ、あやつらを信じたんじゃ。それに答えてくれよ」


 女王は静かに目を閉じ、手にした扇子をパチンと閉じた。

 その音は、これから始まる戦いの号砲のように響く。


 「お母様、彼女達は……」


 「我らからすれば、あやつらが死のうが関係ない」


 「……」


 だが、女王はふと窓の外を見やって、わずかに笑う。


 「……まぁ、あの赤髪の娘は救ってやるかの」


 「【山亀】射程圏内まであと5……4……3……2……」


 魔法通信越しに響くカウントダウン。

 空気が張り詰め、城中の誰もが息を呑んだ。


 女王は玉座から静かに立ち上がる。




 「発射じゃ」




 「【零式対山亀砲】発射!!!」


 轟音とともに、世界樹の上部からまばゆい閃光が走った。


 魔法陣が光り、収束されたエネルギーが一点から放たれる。


 それはまるで、天を裂く稲妻。


 空を切り裂くその光線は、暴風と共に降りしきる雨を吹き飛ばしながら一直線に飛ぶ。




 山亀までの距離――およそ三キロ。


 だが、砲撃の速さは目にも留まらぬ。




 「命中まで、あと……!」




 砦の観測手がごくりと喉を鳴らす。


 そして、次の瞬間――




 「ッ、直撃!!」




 山の腹部に、白い閃光が突き刺さった。


 地鳴りが起き、空が割れ、衝撃波が世界樹まで押し寄せる。

 その爆風だけで、前線の結界が震えた。


 地面を走る光の尾が、破壊の痕跡をくっきりと残している。




 だが。




 「っ……!? 効いて、ない……?」




 煙の向こう――山亀の巨体は、そこに、あった。


 黒煙の中、微動だにせず、亀裂すら見せず――


 まるで、砲撃そのものを“受け止めた”かのように。


 「っ! 対象、何か……結界のようなものに包まれており、ダメージなしです!」


 「ふむ、やはりあの小娘の持ってきた本……本当のことが書いてあったようじゃの」


 「お母様? 本って――」


 姫の問いかけに答える暇もなく、女王はすぐさま次の指示を下す。


 「零式に魔力を再充填しつつ、他の波状攻撃に移行! あの結界、無限ではないはずじゃ。必ず隙ができる。その瞬間にもう一度、零式を叩き込むのじゃ!」


 「了解! 各位、聞いたな!」




 「【一式対六十連続射撃雷】!」


 「【二式百連迎撃朱天砲】発射!!」




 世界樹から放たれた幾重もの雷撃と、圧縮された魔力弾の雨。


 それらが次々と、山亀に向かって弧を描く。


 着弾のたびに地響きが起こり、前線の結界がきしむほどの爆風が広がった。




 だが――




 ほとんどの攻撃は、山亀の結界に触れた瞬間、はじき返される。


 それでも、数発だけは――


 光の波をすり抜け、山肌に命中し、岩を抉った。


 「手応えあり! しかし、致命傷には至りません!」


 「そのまま続けよ! 零式のタイミングは妾が指示を出す! そなたらは射程圏内に入ってきたもの全て撃て!」


 「はっ!」


 「……ここから少し席を外すが、モニター越しに通信で指示を出す。姫、お主は世界樹の魔方陣を再度チェックし、精度を高めよ!」


 「はい! お母様!」




 そう言って、愛染の女王は自分専用の司令室へと移動し、魔皮紙を起動させた。




 「さぁ……貴様達の出番まであと少しじゃ。大丈夫なんじゃろうな?」




 {ふふ、我らを誰だと思ってるんですか? それより、ちゃんと住民の避難は済んでますか?}




 通信相手は、ユキ。


 「避難など、とっくに完了しておる。好きにするといい」


 {了解です! 好きにします!}




 そこで通信は途切れ、映像は魔皮紙の待機状態へと戻った。




 「――見せてもらうぞ、人間」



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 【山亀】到着まで後1日


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