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第227話 左側の人たち!

 {左側の担当のパーティーの方たちお願いします!}


 「了解しました!みなさん!行きますよ!」


 「うんー!あーたんがんばるぅ!」


 「……了解」


 「わかった……」


 その声と同時に、あーたんの体がふわりと発光した。

 柔らかな白い光が全身を包み込み、人の姿だった彼女の輪郭が徐々に変化していく。


 耳は伸び、背は縮み、手足のバランスも大きく変わる。

 次の瞬間――


 ふわっ、と舞うように変身が完了し、そこに現れたのは白く大きなウサギの姿。

 ふくよかな丸みと、柔らかな毛並みを持つ愛らしい魔物――『アールラビッツ』。


 「ヒロユキさん!ユキさんから聞いてます!やっちゃってください」


 「…………」


 ヒロユキは目を閉じた。

 胸の内でざわつく感情も、思考も、すべてを一度手放す。


 ――静かだ。


 風の音も、仲間たちの足音も、戦場の喧騒さえも、すべてが遠のいていく。

 まるで水の底に沈んだような感覚。深い静寂の中、ただ己の“核”だけがそこに在る。




 ____1つの魔法を唱える。




 「……【武器召喚】」


 差し出した右手の前で、空間が淡くきらめき、波紋のように揺れ歪む。

 そこに生まれたのは、銀の鏡のような亀裂。


 やがてそこから、ゆっくりと一振りの刀が姿を現す――

 細く、しなやかで、研ぎ澄まされた日本刀。


 「……出来た」


 …………本人は出来ると思ってなかった様だ……ダメだったらどうするつもりだったのだろう。


「すごーーい!ご主人様とまた違う武器ー!」


 あーたんは『アールラビッツ』のまま、ピョンピョンとその場で跳ねて興奮している。


 「……頼む」


 「はーい!」


 ヒロユキは無言でうなずき、軽やかにあーたんの背中に跨がる。

 そして、ゆっくりと日本刀を構えた。


 「じゃぁ、行くよー!アカネー!」


 「はい!【風加勢】!」


 アカネが両手を前に差し出し、術式を展開すると――

 風が巻き起こる。あーたんの体がふわっと軽くなり、空気を切る音が耳に届く。


 「わー!走りやすーい!」


 魔法で加速強化されたあーたんは、その場を蹴って一気に加速。

 風を裂いて、時速100キロオーバーで山亀へと突っ込んでいく!


 「…………」


 ヒロユキはもちろん魔法などかかっていない。

 風圧で目も開けず、髪も服も容赦なく後ろになびきっぱなし。


 ――だが、それでも。


 彼は黙って、日本刀を静かに、確かに水平に構えていた。


 不恰好だが、少し離れた場所から見守っていた二人は、その光景に――ただ、息を呑むしかなかった。




 「なんて切れ味だ……」


 「あれがヒロユキさんの……神の武器ですか……」




 ヒロユキが振るう日本刀は、重厚な山亀の左翼へと吸い込まれるように入り込んだ。

 刃が触れた感覚すらなく、抵抗もないまま――斬る。


 切れた直後には何の反応もない。


 ……しかし、1秒遅れて。


 「ブシュッ!!」


 斬り口から血が噴き出した。


 あまりにも鮮やかで、あまりにも静かすぎるその一閃に、言葉が続かなかった。




 「……」




 ちなみに、目を閉じたままのヒロユキには斬れている実感はない。

 風で髪が暴れ、顔面が痛いことだけは分かるらしい。


 だが――


 彼とあーたんのコンビは、そのまま真っ直ぐ突き進む。

 固く重なる山亀の鱗を、まるで紙のように真っ二つにしながら。


 その軌跡には、まるで道が出来たかのような一直線の斬撃痕だけが残されていた。


 「さぁ!私達もしますよ!【土壁】!」


 アカネが両手を地面に向けて魔法を発動させると、足元の大地が唸るように震えた。


 ――ドゴゴゴッ!


 音を立てて地面を突き破り、先端が尖った巨大な土の壁が隆起する。

 その壁は、ヒロユキの日本刀が通った“斬撃痕”へと的確に突き刺さった。


 亀の肉がずるりと押し広げられ、内側の筋肉層が露出していく。




 「超級奥義【抉り】……」




 静かに詠唱を終えたオリバルが、左翼に肉薄し奥義を放つ。


 ――ギュウウンッ!


 空間が震えたかのような奇妙な圧迫感とともに、亀の左翼に3本の巨大な引っ掻き傷が刻まれる。


 肉が**“抉り取られ”、ベチャッと音を立てて**泥の上に落ちた。




 「私達もこのペースなら――【あれ】までには、この亀の左翼の肉を根こそぎ無くすことが出来そうです!」


 {ふふん!ヒロユキさんはどうですか!かっこいいでしょ!強いでしょ!自慢の旦__リーダーです!}


 「解りましたから!通信切ります!こちらも忙しくなるので!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 プツン____




 「あ、切れちゃいました……」


 通信が途切れた魔皮紙を見つめて、ユキがぽつりとつぶやく。




 「ユキの姉貴!ヒロユキ兄貴はどうだった!かっこよかった?」


 「フッフッフ、良いことを聞いてきますね!もちろん!かっこいいですよ!見せてあげたいくらいです!」


 「うぅ~!羨ましぃ!」




 「……あんた、男なのに女々しいわね」


 「黙れババア」


 「あぁ?」




 ピキッと入る小さな火花。


 すかさず――




 「ほーら、二人とも喧嘩してる場合じゃないですよ、早く済ませましょ」




 「「ちっ!」」




 お互いそっぽを向きながらも、しっかり行動に移るあたり、チームワークは不思議と成立していた。




 「さぁ!準備ができたら、次は私達の番です!」

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