{左側の担当のパーティーの方たちお願いします!}
「了解しました!みなさん!行きますよ!」
「うんー!あーたんがんばるぅ!」
「……了解」
「わかった……」
その声と同時に、あーたんの体がふわりと発光した。
柔らかな白い光が全身を包み込み、人の姿だった彼女の輪郭が徐々に変化していく。
耳は伸び、背は縮み、手足のバランスも大きく変わる。
次の瞬間――
ふわっ、と舞うように変身が完了し、そこに現れたのは白く大きなウサギの姿。
ふくよかな丸みと、柔らかな毛並みを持つ愛らしい魔物――『アールラビッツ』。
「ヒロユキさん!ユキさんから聞いてます!やっちゃってください」
「…………」
ヒロユキは目を閉じた。
胸の内でざわつく感情も、思考も、すべてを一度手放す。
――静かだ。
風の音も、仲間たちの足音も、戦場の喧騒さえも、すべてが遠のいていく。
まるで水の底に沈んだような感覚。深い静寂の中、ただ己の“核”だけがそこに在る。
____1つの魔法を唱える。
「……【武器召喚】」
差し出した右手の前で、空間が淡くきらめき、波紋のように揺れ歪む。
そこに生まれたのは、銀の鏡のような亀裂。
やがてそこから、ゆっくりと一振りの刀が姿を現す――
細く、しなやかで、研ぎ澄まされた日本刀。
「……出来た」
…………本人は出来ると思ってなかった様だ……ダメだったらどうするつもりだったのだろう。
「すごーーい!ご主人様とまた違う武器ー!」
あーたんは『アールラビッツ』のまま、ピョンピョンとその場で跳ねて興奮している。
「……頼む」
「はーい!」
ヒロユキは無言でうなずき、軽やかにあーたんの背中に跨がる。
そして、ゆっくりと日本刀を構えた。
「じゃぁ、行くよー!アカネー!」
「はい!【風加勢】!」
アカネが両手を前に差し出し、術式を展開すると――
風が巻き起こる。あーたんの体がふわっと軽くなり、空気を切る音が耳に届く。
「わー!走りやすーい!」
魔法で加速強化されたあーたんは、その場を蹴って一気に加速。
風を裂いて、時速100キロオーバーで山亀へと突っ込んでいく!
「…………」
ヒロユキはもちろん魔法などかかっていない。
風圧で目も開けず、髪も服も容赦なく後ろになびきっぱなし。
――だが、それでも。
彼は黙って、日本刀を静かに、確かに水平に構えていた。
不恰好だが、少し離れた場所から見守っていた二人は、その光景に――ただ、息を呑むしかなかった。
「なんて切れ味だ……」
「あれがヒロユキさんの……神の武器ですか……」
ヒロユキが振るう日本刀は、重厚な山亀の左翼へと吸い込まれるように入り込んだ。
刃が触れた感覚すらなく、抵抗もないまま――斬る。
切れた直後には何の反応もない。
……しかし、1秒遅れて。
「ブシュッ!!」
斬り口から血が噴き出した。
あまりにも鮮やかで、あまりにも静かすぎるその一閃に、言葉が続かなかった。
「……」
ちなみに、目を閉じたままのヒロユキには斬れている実感はない。
風で髪が暴れ、顔面が痛いことだけは分かるらしい。
だが――
彼とあーたんのコンビは、そのまま真っ直ぐ突き進む。
固く重なる山亀の鱗を、まるで紙のように真っ二つにしながら。
その軌跡には、まるで道が出来たかのような一直線の斬撃痕だけが残されていた。
「さぁ!私達もしますよ!【土壁】!」
アカネが両手を地面に向けて魔法を発動させると、足元の大地が唸るように震えた。
――ドゴゴゴッ!
音を立てて地面を突き破り、先端が尖った巨大な土の壁が隆起する。
その壁は、ヒロユキの日本刀が通った“斬撃痕”へと的確に突き刺さった。
亀の肉がずるりと押し広げられ、内側の筋肉層が露出していく。
「超級奥義【抉り】……」
静かに詠唱を終えたオリバルが、左翼に肉薄し奥義を放つ。
――ギュウウンッ!
空間が震えたかのような奇妙な圧迫感とともに、亀の左翼に3本の巨大な引っ掻き傷が刻まれる。
肉が**“抉り取られ”、ベチャッと音を立てて**泥の上に落ちた。
「私達もこのペースなら――【あれ】までには、この亀の左翼の肉を根こそぎ無くすことが出来そうです!」
{ふふん!ヒロユキさんはどうですか!かっこいいでしょ!強いでしょ!自慢の旦__リーダーです!}
「解りましたから!通信切ります!こちらも忙しくなるので!」
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プツン____
「あ、切れちゃいました……」
通信が途切れた魔皮紙を見つめて、ユキがぽつりとつぶやく。
「ユキの姉貴!ヒロユキ兄貴はどうだった!かっこよかった?」
「フッフッフ、良いことを聞いてきますね!もちろん!かっこいいですよ!見せてあげたいくらいです!」
「うぅ~!羨ましぃ!」
「……あんた、男なのに女々しいわね」
「黙れババア」
「あぁ?」
ピキッと入る小さな火花。
すかさず――
「ほーら、二人とも喧嘩してる場合じゃないですよ、早く済ませましょ」
「「ちっ!」」
お互いそっぽを向きながらも、しっかり行動に移るあたり、チームワークは不思議と成立していた。
「さぁ!準備ができたら、次は私達の番です!」