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第252話 お買い物!

《モルノ町 市場》


 ここは、モルノ町で一番大きな市場だ。

 俺がかつて居たナルノ町に比べれば小さめだけど――それでも、揃うものはしっかり揃っている。


 「~♪」


 「……ご機嫌じゃの?」


 「そりゃそうだよ♪」


 偶然とはいえ、当初の目的だった魔法学校への入学。

 ここまで来るの、ほんっとに長かった――

 やっと、やっと俺の異世界冒険が始まるんだ!


 「?」


 「感謝してます♪ マスター♪」


 敬語&マスター呼び。

 これをすると、ルカは決まって青ざめて――


 「だからそれはやめるのじゃぁーっ!」


 「ごめんごめん」


 「これは命令じゃ! 本当に冗談ではないのじゃ!」


 ……うん、きっと本当にやめてほしいんだろうけど――

 その語尾のせいで、いまいち命令感がフワッとしてるんだよなぁ。


 とはいえ、怒らせて入学できませんでしたとか洒落にならないので――


 「わかったよ、誓う」


 「まったく……では、最初にここへ入るのじゃ」


 「服屋?」


 「そうなのじゃ。まずは制服を注文するのじゃ。それから他の買い物をして、帰りに受け取りに来る――完璧な流れじゃろ?」


 「なるほど」


 そうして俺たちは、服屋ノーレックに入った。


 「こんにちは〜」


 店内は簡素で、奥におばあちゃんが座っているカウンターと、隅に試着室があるだけ。

 見本の制服とか……置いてないんだな?


 「いらっしゃい」


 「うむ、《モルノスクール》の制服を二着、お願いするのじゃ」


 「わかりました」


 おばあちゃんがゆっくりとメモを取り、視線を上げて静かに言った。


 「一着、18000になります」


 「うむ、わかったのじゃ」


 ルカは懐からカードを取り出すと、それをおばあちゃんに手渡す。


 そして――レジのピッてするやつで、ピッ。


 ……魔法の世界なのに、そこはなんか……めっちゃ現代的なんだな。


 「では、サイズを測るので、あちらの部屋へ」


 「わかったのじゃ。アオイも行くのじゃ」


 「う、うん……」


 俺は言われるままに試着室へ入り、カーテンを閉める。


 すると――


 服屋でよく使われる、あの柔らかいメジャーが、ぬるり……と蛇のように下から入ってきた。


 「ふひっ……ちょ、ちょっとくすぐった……!」


 身体にぴったり沿うように巻きついて、ピピッと計測されていく。

 完全に自動なんだなこれ……すごいけど、地味に恥ずかしい……


 五分ほどして、メジャーはするりと帰っていき、俺はそっと試着室を出た。


 「あれ? まだ終わってないのか」


 ルカはまだ中にいるらしい。

 同じタイミングで入ったはずなのに、なんでだろう……?


 「そういえば、他の服って見本とかないんですか?」


 俺が尋ねると、おばあちゃんは一瞬こちらに目を向け、また手元のメモに視線を落としてから、口を開いた。


 「この店じゃね、決まった服より、お客さんの要望に応えた服を作るのが主なんだよ。

 制服みたいに決まってるもの以外で来る人は、素材とデザインをある程度決めてくるのさ」


 ……なるほど。そういうことか。


 つまり、ここは――《オーダーメイド》専門店ってわけだな。


  「素材っていうのは?」


 「何でもいいさ。魔物の血を混ぜたいなら、こちらでどれくらい必要か計算してあげるし、

 自分で布の素材を持ってきたら、それを使って作ることもできるよ」


 「なるほど……防具屋みたいだね」


 「そうだね。素材によっちゃ、服自体が防具になるかも。

 そのぶん、お代もそれなりになるけどね」


 「ほぇ〜……」


 ちょっとワクワクしてきた。

 オーダーメイドで、自分だけの“魔法防具の制服”とか……めっちゃ夢あるじゃん!


 そんな妄想にふけってたところで、カーテンがシャッと開いた。


 「はぁ……はぁ……」


 「な、なんでそんなに疲れてるの」


 「……あの、ニョロニョロしたやつ……苦手なのじゃ……」


 ……あー、蛇系苦手な人いるよね……

 俺はそこまで嫌いじゃないなぁ、むしろなんかカッコいいし。

 あのスルスル動く感じ、男心をくすぐるというか――


 「では、また来るのじゃ」


 「うんっ! 楽しみ!」


 「ありがとうございました」


  そうして、俺たちは服屋を後にし、他の物を買いに回った。


 紙に近いが、木の魔物ウッドリーワンドの素材から作られた“魔皮紙ノート”。


 魔物マルポチョウの羽を加工し、インクが切れないよう魔法をかけた“羽ペン”。


 喉が渇いたとき用の“魔法の水筒”は、《アイスダロック》という熱を嫌う鉱石で作られている。

 この鉱石は、空気中の熱を常に冷やし続ける性質を持ち、中に入れた水や飲み物をずっと冷たいまま保ってくれる。


 ……そんな便利でちょっとワクワクするようなアイテムたちを手に入れ、帰りに制服を受け取って――


 俺たちは家へ戻った。




 さぁ!


 明日は、入学式!




 楽しみだなぁ……異世界の学校!









ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 そして____




 モルノ町市場より、はるか遠く。


 その高台の林の中で、二人の影がアオイを見下ろしていた。




 「なぁオリバル……あれが本当に“女神”かよ?」


 「ルコサの話では……敵か味方か、まだ判断できないらしい」


 「はっ……できれば戦いたくねぇけどな、妹弟子だしよ」




 一人は、150cm前半の小柄な体格をコンプレックスに抱える少女。


 金髪ショートでボサボサな髪に、黒と赤の大きな鎌を背負った、俺様口調の皮装備――


 クロエ。




 もう一人は、たくましい体格と無数の古傷を持つ男。


 黒髪に緑のメッシュ、鋭い視線で【スナイパーライフル】を構え――

 スコープ越しに、静かにアオイを観察している。


 オリバル。




 ――二人とも、キールの元パーティーメンバーだった。




 「……3年前の“山亀討伐”。もしルコサの話が本当なら、あれをアオイ一人で仕留めたってことになる」


 「実際、俺達【神に選ばれた者】の誰も、その瞬間を見ていないがな……」


 「そして、神に“勇者”と認められた女――か」




 {びびってるのかー?主人さん}


 クロエの持つ鎌から、軽快な男の声が響く。


 「あ? びびるわけねぇだろ。……俺だぞ?」


 {はっ! だよなぁ、さすがご主人!}




 「……ってか、お前さ。【神の武器】だろ? 本当に“女神”に勝てるのかよ?」


 {俺たちゃ所詮“武器”よ。使い手次第――でもな、ご主人と俺なら、いける気がするぜ?}


 「……言うじゃねぇか」




 その頃、隣のオリバルの銃スコープがふいに暗転した。


 「……どうした?」


 {……主人。撫でて}


 「……どこを?」


 {おしり}


 「……」




 しばしの沈黙のあと、それっぽいところを撫でる。


 すると、スコープが機嫌を取り戻したかのように明瞭に戻った。




 「……俺たちがこうして見張ってる限り、“女神”は現れない……って、ルコサは言ってたが――」


 「買い物してる姿は……どう見ても普通の人間だったな」


 「それでも……やるしかねぇんだろ?」


 「……あぁ」




 「で、ルコサは?」


 「戦いの準備中。終わったら交代するって」


 「ルダさんは?」


 「男と……ホテルだってさ」


 「……よし、殺そう」


 {俺も同意するぜ!}




 「……まぁ、これも仕事、だな」


 「はぁ……ま、仕方ないわな」








 「来るべき――神々の戦いのために」

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