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第259話 遅刻した代表

 「18時になりました。それでは、来ていない代表もいますが――クラス代表会議を開始します」


 場所はモルノスクール北棟にある会議室。

 部屋には四科分、計七人のクラス代表が集まっていた。


 正面の高級感あふれる席には《会長》と表示された札。

 そこに座るのは、《アリスト科》二年の代表。

 背中まで伸びた黒髪に、凛とした整った顔立ち。堂々たる態度で議事を始める。


 すると、アドベンチャー科の二年代表――白髪ボサボサ頭の男、カブが手を挙げた。


 「あー、会長、いいか?」


 「まだ始まってないが……なんだ、カブ」


 「あのなぁ、俺んとこの一年が来てねぇ。遅刻か?これはもう舐めてるだろ。

  来た瞬間に魔法でぶん殴っていいか、許可くれ」


 突然の物騒な発言に、さらに火を注ぐようにビジネス科の代表――おかっぱ頭に丸眼鏡の男子がニヤリと笑った。


 「ククッ、それは名案ですね。

  時間とは金。タイムイズマネー現象。

  こんな大事な会議に遅れるなんて――この先、生きていけませんよ。あ、なるほど!」


 ビジネス科代表はポンと手を叩き、嫌味な笑みを浮かべる。


 「だから《アドベンチャー科》なんて、バカでも行けるんですねぇ。ククッ」


 「……あ?」


 その一言に、カブの額に青筋が浮かび上がる。


 「おい、今のは俺がバカだってことか?」


 「ひっ……!」


 空気がピリついたところで、マジック科の代表――仮面をつけた男が静かに口を開く。


 「……はぁ。どちらも、つまらないことで騒ぎすぎですぞ」


 カブがバッと立ち上がり、仮面男に詰め寄る。


 「あー? てめぇ、どこ見てんだかわかんねぇ面しやがってよ。

  その口調もキモいんだよ、腹立つんだよォ」


 「……我輩、お前に興味などないですぞ。

  その醜い顔をイスにくっつけて、二度と顔を上げるなですぞ」


 「あー!?!?」


 カブの怒りが爆発し、魔法陣を展開。


 一年の代表たちはイスの下に即避難。


 しかし、そこに冷たい視線が飛んだ。


 ――会長からだ。


 「カブ。ここでの戦闘は禁止されている。やるなら、正式な手続きを通せ」


 「ちっ……」


 舌打ちしながら、カブは近くのイスを蹴飛ばして席に戻る。


 蹴られたイスにぶつかったマジック科の一年女子は「ふえぇ……」と、どうしていいか分からない声を出していた。


 会長は淡々と続ける。


 「アドベンチャー科二年代表の提案は却下する。だが……威嚇程度なら許可する。

  壁や人に傷をつけなければ、目くらましくらいはよかろう」


 「へっ、わかってんじゃねーか、会長。

  ここで軽くビビらせて、ケジメってやつつけさせてもらうぜ」


 「……そうでもしないと、裏で何かしそうだからな。

  脅すだけで済ませるように」


 「はいはーい」


 空気が一旦落ち着いたところで、会長が仕切り直す。


 「では、10分遅れたが――クラス代表会議を始め――」


 ――バンッ!


 ドアが勢いよく開いた。


 「来たか。さて、ぶん殴――っ!?」


 カブの魔法陣が展開しかけたその時。

 彼女を見た瞬間、彼の動きが完全に止まる。


 「はぁっ、はぁっ、ごめんなさいっ! 遅れましたっ!」


 遅れて入ってきたのは、銀河を超える“美”をまとった一年代表、アオイ。


 走ってきたのか、全身汗だくで息も荒い。

 大きな胸が制服から浮き上がり、汗に濡れた髪が色気を増している。

 ほんのり香る汗の匂いすらも魅惑の香りへと変わり、会議室内の空気が一変する。


 男は息を飲み、女は戸惑いながらも憧れを抱き、

 誰もが彼女を視覚に焼き付けた。


 会長でさえも一瞬、見とれてしまったが――静かに声をかける。


 「……大丈夫だ。まだ会議は始まっていない。

  アドベンチャー科一年代表、アオイ。あの空いている席が君の席だ」


 アオイは顔を赤くして小さくうなずく。


 「よ、よろしくお願いします……」


 視線が集まるのが恥ずかしいのか、頭を下げながら席へと向かう。


 ちなみに、その席の隣には――


 「せ、先輩……? よろしくお願いします?」


 「あ、あぁ……あ……よろしく……」


 ――固まったカブがいた。


 アオイはカブの反応に首を傾げる。


 「ナ、ナンダ」


 「あ、いえ……その……かっこいいですね」


 ちなみに、アオイは単純に“この世界にもヤンキーっているんだな”と見ていたのがバレて、とりあえず適当に褒めただけである。


 だが――この一言がカブに直撃する。


 「……グハッ」


 「えっ? ぐはっ?」


 カブはガバッとアオイの肩に手を置くと、神妙な顔で言った。


 「お前が……一年代表か。何かあったら先輩である俺に言え。

  この一年は、俺が守ってやる!」


 「は、はい……ありがとうございます?」


 ――カブの瞳は、もう完全に“恋する目”になっていた。


 アオイは気づかない。だが、隣に恋に落ちた男ができていた。








 「……話は終わったか? それでは――クラス代表会議を始める」







 ______


教科書抜粋:グリード王国について


グリード王国

現在、三大国家の一つであり、サクラ女王の統治下にある国。

魔法の発展においては他の二国(ミクラル王国・アバレー王国)よりも数十年先を行くとされ、特に魔法技術の応用と発展において優れている。


そのため、国内には優秀な冒険者が多く、冒険者ギルドも活発に活動している。

だが魔法の用途は戦闘だけに留まらず――

農業分野:魔法による土壌改良・天候調整・収穫促進

工業分野:魔力による動力機構・加工補助魔法

医療分野:治癒魔法による応急処置や病気治療

交通分野:転移陣・浮遊馬車などの移動補助魔法

家庭魔法:掃除・洗濯・調理補助など、一般家庭でも魔法が活用されている

教育分野:学習補助魔法、記憶保持・理解促進の魔具

商業分野:売買管理魔法、在庫管理、鑑定魔法など


このように、国民の生活全体に魔法が浸透しており、「日常に魔法があること」が当たり前の社会となったのもこの国からだ。


また、国の魔法教育制度も整っており、幼少期からの魔法訓練、専門職への魔法指導まで、多岐に渡る。


グリード王国は、魔法によって支えられた“実用魔法国家”であり、多くの冒険者志望者がこの国に集まる理由の一つでもある。

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