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第261話 ヤンキー先輩こわい

 「あー? 今度は遅刻しないできて……ッ!!?」


 「はいっ! 今度はちゃんと間に合いました!」


 「お主が、アオイが言ってた“先輩”なのじゃ?」


 今回はルカをちゃんと呼んで、余裕をもって現場に到着。

 ちなみに前回の大遅刻は――先生が会議の存在をすっかり忘れてて、俺が連絡を聞いたのが18時5分だったという事故。

 ……どうあがいてもアウトだった。うん、ほんと無理ゲーだった。


 でもそれはともかく。


 「……あの、先輩?」


 「のう? アオイよ、こやつ……何故に口を開けっぱなしでワシらを交互に見とるのじゃ?」


 「うーん……前もなんかこんな反応だったような……」


 カチンコチンに固まってる先輩。

 汗ひとつ垂らさず、まるでバグったゲームキャラのようにルカと俺を交互に凝視していた。


 「アーーーー!!! うるせぇッ!! てめーがアオイの友人か!」


 ようやく自我を取り戻した先輩が、ガッと顔を上げてルカに詰め寄る!


 「いかにも、そうなのじゃ」


 堂々としたルカの返答。さすが。


 ※なおこのとき、アオイとルカは知らなかったが――

 先輩はふたりの豊満なおっぱいに圧倒され、完全に脳がおっぱいに挟まれ停止していた。


  「……まぁ、いい。お前も見てろ」


 「むっ」


 “お前”と呼ばれたルカは、ぷくっと頬をふくらませ、わざわざ先輩の正面に回り込む。


 そして――なぜか自然に胸を突き出し、腕を組み、堂々と仁王立ち。


 「ワシの名前は“ルカ”じゃ!『お前』呼ばわりするでないのじゃッ!」


 ばばんっ!という音がしそうな勢いで、ルカは目を細めて睨みつける。

 ついでに、おっぱいがめっちゃ張られてて強調されてる。強調されすぎてる。

 いやいやいやいや!ルカ!? 今の相手、ヤンキーなんだよ!? ケンカ売ってるの!? こっわ!


 ほら見てよ、先輩の顔……って、あれ?


 なんか、顔赤くなってない? そしてそっぽ向いてる……。


 「うるせぇ! わーたよ! ルカだな!? ルカにアオイ! ついてこい!」


 「わかればよいのじゃ」


 ふふんっ、とドヤ顔で先輩の前を退いたルカ。

 ……いや、名前ってそんなに重要? まぁ、もしかして“お母さんに付けてもらった大切な名前”とか?

 うん、きっとそういう感動エピソードが……あるのかもしれない。


 取りあえず、先輩のあとをついて歩く俺たち。

 時間にして10分ほど。だけど……無言。


 静かに歩くって、めちゃくちゃ気まずい……!


 「そ、それで、先輩……どこに向かってるんですか?」


 「あー?」


 「ひっ……」


 顔こっわぁあ!!

 え、なんでそんなに険しい顔!? 心臓止まるかと思ったわ!

 ……俺、学校時代はオタク友達としか話してなかったからヤンキーってほんと苦手なんだよね。

 まぁ、その頃は女子の方が何倍も苦手だったけど。


 「……俺の《なんでも箱》に来てたんだよ、コレが」


 先輩はそう言って、魔皮紙を一枚取り出して渡してくる。

 どうやら《なんでも箱》に入っていた依頼書らしい。


 えーっと……なになに?


 「放課後、体育館裏で待つ――」


 ……だけ?

 裏面を見ても差出人の名前すら書いてない。

 筆跡は……なんとなく女子っぽい? 


 ちなみに俺の字は汚い。聞いてないか。


 「あー……まぁ、果たし状だ」


 「へ?」


 なにそれ、昭和か!?


 「だから、今からそいつをぶっ潰しに行く」


 出たよ!ヤンキー定番の脳筋思考!!


 「で、でも! ほら、そういうのって告白とかじゃないんですか? 体育館裏って、定番だとそういう――」


 「……あー?」


 「ひっ……!」


 バチィッと刺すようなヤンキー顔を向けられて、即座にルカの後ろに回避!


 「な、なんでワシの後ろに隠れるのじゃ……?」


 いやだって、無理!

 無理無理無理!ヤンキー顔!刺激強すぎ!

 オタクの俺には毒なんですってば!


 ……と、そんな俺の恐怖など無視して、先輩はまた前を向いてズンズン歩きながらポツリと答えた。


  「そうだとしても……俺より強ぇ女じゃねーとダメだ」


 先輩は前を向いたまま、ボソッと呟く。


 「俺たちは冒険者になる。異性がいるパーティーは崩壊するんだよ」


 「ほえぇ……?」


 「のじゃ?」


 二人してぽかんと口を開ける中、先輩は続けた。


 「現状、異性混合パーティーってのは、ほとんどねぇ。理由は簡単だ――女絡みのトラブルで潰れるからだ」


 「……」


 「たとえばだ。誰かが誰かに恋して、それで仲違い。

  あるいは、男を取り合って女同士で刺し合い。

  そもそも恋愛感情が発端でどさくさに紛れて“事故”装って殺したり……実際にあった話だぜ」


 ……いや、怖っ!?


 冒険者の世界、思った以上にリアル修羅場じゃん!?


 でも、たしかに命がけの現場なら……吊り橋効果とか、そういう感情もブーストされやすいのかも。


 「だから俺は――俺より強ぇ女としか組まねぇ」


 先輩は歩きながら、まるで格言のように言い放った。


 「もしそんな女がいたら、俺はそいつの言いなりになってやるよ」


 「ほーう? 潔いのじゃのう?」


 「負けたら、それが相手が女だろうと――それが全てだ。

  ……今の俺のパーティーの残り三人も、ボコして手に入れた」


 「……」


 ……ボコして手に入れた?


 いや、それ、どこのドラク〇だよ!!


 喧嘩して勝ったら仲間になるって、何その昭和漫画的な謎の友情展開!?

 現実じゃそんなのないからね!? 少なくとも俺は知らないからね!?

 ヤンキーってほんと、別の生き物だよもう……!!


  ……てかさ、よく考えたら、俺の周りのパーティーって男女混合しかいなくない?


 え、異性いると揉めるとか崩壊するとか聞いたんだけど!? なんでみんな普通に仲良ししてんの!?


 ……まぁ、俺たち異世界から来てるし? 常識とかズレてんのかもね!


 ……とか言ってる俺、気付いたらパーティー組んでないんだけど?


 ――いや、ひとりだけソロ活動なんだけど!?


 なんで!? 異世界主人公なのに!? 俺だけ自由行動ってなに!? ぼっち冒険者すぎるでしょ!?


 「ほーう? ボコして仲間に、じゃと……」


 なんかルカがその言葉を聞いた瞬間、「その手があったか!」みたいな顔をしてた。

 ――絶対ちがうよって、あとで100回くらい言わないと……!


 「あー、それより着いたぞ。そこら辺で隠れとけ」


 先輩に言われて俺とルカは体育館裏の木陰に身をひそめる。

 そろーりと覗くと、そこには――




 白い特攻服を着た、俺と同じ金髪の――

 スケバンが、地べたにどっかと座ってた。




 ……ちょ、え、何これ?


 なんか突然ジャンルが変わった気がするんだけど!?

 異世界ファンタジーじゃなかった!? 今から抗争始まる!? ねぇ!?




____________


 モンスターと呼ばれる存在について


 本書はミクラル王国の教育機関にて使用されているため、本稿では脅威となる存在を一貫して「モンスター」と記載しています。


 ただし、この呼称は地域によって異なり、

 ・グリード王国では「魔物」

 ・アバレー王国では「アヤカシ」


 と呼ばれています。


 それぞれが独立した文化・言語体系を持っていた時代の名残とされており、意味する存在は同じです。


 今日では、ギルドや学術機関を通じて呼称の統一が進んでいますが、それでもなお各地の風習として残っているため、注意が必要です。




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