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第285話 《我慢比べ》

 {《物運び》では熱い戦いをしましたね!続きましてはマジック科考案の《我慢比べ》!}


 アリスト科の生徒たちが、グラウンドに大きな魔皮紙を敷いていく。

 この紙、どうやら【温度操作】で参加者をジワジワ痛めつけるらしい。


 {さぁ!一年も所定の位置につきました!ルールはシンプル。魔皮紙に魔力を流し温度を操作。限界を感じたら自分から離脱!最後まで残っていた人数で勝敗が決まります!}


 {さぁ、準備はいいですか!?}


 「もちろん!いいよ!」


 返事なんて届かないと分かっていても、つい言ってしまう。

 だって今回は――すごい作戦があるから!


 {開始ッ!!}


 「よし、みんな、スタートだよ!」


 {おっと!?アドベンチャー科、またしても何かを組み立てております!転送魔皮紙から出てきたのは……透明な板!?}


 そう――今回も組立式!


 「みんな!急いで!だんだん暑くなってきてるから!」


 コンクリートから立ち上るような地熱が、足元からジワジワと体を攻めてくる。

 ちなみにこの競技、【マジックドクター】が監視していて、体に異常が出れば強制退場させられる。


 「そこそこ、もっと右! 早く終わった人はフォローお願い!」


 みんなが透明な魔法強化板をどんどん円形に並べていく中――


 「うぅ……」


 すひまるさんが、一人でヨロヨロと運んでいる。


 「あぅっ!」


 そのまま、重みに耐えきれずバランスを崩し転倒。

 厚めの板は確かに滑りやすくて、力もいる。


 「だ、大丈夫?すひまるさん!」


 「ひっ……は、はい……これくらい……!」


 「僕はもう終わったから、一緒に持とう? いいから――」


 「大丈夫っ……ですからっ……来ないで……っ!」


 「……っ」


 ――グサッ。


 なんでそんな拒絶の仕方されなきゃいけないの……?


 俺が戸惑って立ち尽くしてると、すひまるさんはよろよろと持ち上げ、無言で作業に戻っていった。


 「嫌われてるのかな……」


 「どうしたのじゃ?アオイ」


 後ろから声がして、ルカが覗き込んでくる。


 「ううん……ちょっと、すひまるさんに避けられてる気がしてさ」


 「気のせいじゃろ、あやつはいつもあんな調子じゃ」


 「そうかなぁ……」


 「ほれ、もうすぐ設置も終わるのじゃ」


 「……ほんとだ」


 ――そして、ここからが俺たちの本番!


 {さぁ!現在、魔皮紙の温度は37℃!ジリジリと体力が削られる気温!脱落者が出るか!?}


 {マジック科、やはり余裕の構え!氷魔法を応用し、冷気を放つ魔皮紙を使って温度調節!これは強いぞー!}


 {そして……おおーっと!?アドベンチャー科、今度は水!?何やら魔皮紙から水を出して__}


 フフフ……見よ!


 「うん、そろそろかな……みんな、準備して!」


 「『中に入ってから、続けるよ!』」


 「「「おおおおおお!」」」


 {な、なんと!?グラウンド中央に即席の……プール!? そしてアドベンチャー科の生徒たち、みな――水着に!?}


 その瞬間、実況席から「ぐはぁっ!」という意味不明な音が聞こえた気がした。


 アドベンチャー科は、事前に制服の下にスクール水着を着ていた。


 当然、俺もだ。


 ――女物のビキニなんて着られるか。

 俺は男だし、スク水で十分だ。


 それでも濡れたスクール水着がぴったり張りついて、胸の谷間とか太ももとか――いや、意図せず露出増えてない!?

 でも大丈夫、魔法繊維の防水だし! ポロリなんてない! ……はず!


 「つめたっ」


 魔皮紙からでた水は冷たく気持ちいい。


 {失礼しました、少し取り乱しました......さぁ!アドベンチャー科はまさかのプール!誰が想像できたか!}


 フフッ、そうだろう?これはあの会議の時、《水泳》という単語を聞いて思い付いたのだ。

 俺はそこら辺詳しくないが熱伝導?みたいなのが違うのかな?いや、まぁ浅い考えなのだが名付けて!



 《温かい時はプール!寒いときはお風呂!作戦!》



 一応それぞれの板に貼ってある魔皮紙で温度を調整できるようにはしている。



 「これで後は我慢対決!」



 {さぁ!白熱して参りました!ちなみにですがビジネス科ではもう何人かリタイヤが出ております!}



 「よし!これで有利!」


 「のじゃ!気持ちいいのじゃ~」


 「フフッちょっとルカ水がかかるって」


 ルカが泳ぎだして水がかかりポニーテールの髪が濡れちょっとテンションがあがる。


 が。


 「それにしても……」


 視線がヤバい……痛いほどヤバい。


 さっきまで静かだった観客席から、なぜか微妙なざわめきが聞こえる。


 それがどこを見てるかなんて──わかりすぎるくらいわかる。


 透けてはないけど、濡れた生地が肌に張り付いて、いつも以上に形が……


 「……いっそ全裸になってやろうかな」


 「何かいったのじゃ?」


 「いや、なんでもないよー」


 お尻でも胸でも何でもみやがれ!



 {さぁ!ここからが本番です!いきますよー!}


 魔皮紙の周りにはアリスト科の生徒がどんどん増員されていく。


 「さぁ!かかってこい!」


 こちらも対抗して、冷却用の魔皮紙が貼られた板にみんなが泳いで向かう。


 {やってください!アリスト科のみなさん!}


 アリスト科の生徒たちが一斉に魔力を流し始めた瞬間――

 水面から立ちのぼる熱気が、ジワジワとプールを包み込み始める。


 「みんな、今だよ!」


 アドベンチャー科の全員が、一斉に魔皮紙に魔力を流す。


 ――水温が下がっていく。


 「よし、これで……完璧!」


 すべてが噛み合った。

 作戦通り。タイミングもバッチリ。

 このままいけば――




 ――その時だった。


 「ご、ごめんなさい!」


 「……え?」


 高く響く音が、全身を貫いた。




 パリン――。




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