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第291話 初めての移動

 「はーい、みんな~。お着替えして、準備できたかなー?」


 「「「「はーいっ!」」」」


 「はいですー!」


 《モルノスクール文化祭》の当日。

 中庭に響く返事の中で、誰よりも元気よく声をあげたのは――ユキだった。


 小さな体で、ぴょんぴょんとその場を跳ねながら、手をぶんぶんと振っている。

 まるで、楽しみで身体ごと弾けちゃってるみたいに。


 少しだけ成長して、背もほんのり伸びたけれど……

 それでも見た目は、元の世界ならまだ小学生くらい。


 「ユキちゃん、あんまりはしゃぎすぎて怪我しないようにねー?」


 「はいですー! ユキ、怪我には気をつけますですっ!」


 「じゃあ、みんな~? ペアの人と手をつないでー?」


 合図とともに、子どもたちはわらわらと集まり、それぞれの仲良しと手をつないでいく。


 当然、ユキの相手は――


 「よろしくね、ユキちゃん♪」


 「よろしくです! ミーちゃんです!」


 ユキより少し年上の、金髪の女の子。

 ふたりは共通の“憧れ”を胸に、よく一緒に遊んでいる仲良しコンビ。


 今日も、朝から元気いっぱいの笑顔で手を繋いだ。


 「せんせー!なんでミーちゃんとユキちゃんだけお洋服ちがうのー!」


 「ふたりとも、ずるーいっ!」


 わらわらと集まる声。

 他の子たちが口をとがらせてブーブー言い出すのも、無理はない。

 子供というのは、ほんの些細な“違い”にすぐ気づいて、それを羨ましく思ってしまうものだ。


 「こーらー、文句言わないのー。文句言う子はルクス先生に怒ってもらうわよー?」


 「えーっ!」「やだー!」


 ドーロがさらっと脅し(?)をかけながら、列を整えていく。

 ぶつぶつ言っていた子たちも、門の外に一歩出た瞬間――

 その目は一気にきらきらと輝きはじめた。


 外の世界――


 それは、この子たちにとって“特別”だった。


 生まれてすぐ、親に売られた子は、初めて見る世界に目をまん丸にして。

 物心ついた頃に調教された子は、少しだけ怯えた目で周囲をうかがう。

 片耳を失った獣人の子は、通りすがる獣人の二つの耳を羨ましそうに見つめる。


 そして、大人たち――先生たちも。


 「そこー、列からはみ出てるわよー」


 「おトイレは、もう少し先よー?」


 「……こけた子いる? ウマヅラー!」


 彼らにとってもこれは、**初めての“大移動”**だった。


 外に出すことの不安。

 でも、だからこそ、外の世界を“見せてやりたい”という願い。


 子供たちの列があっちへふらふら、こっちへふらふらしながらも、

 なんとか形を保ったまま――


 ドーロたちは、ようやく《ギルド》の建物に到着した。


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