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第297話 見つかってしまった。

 「教室の方は……大丈夫?」


 女のリーダーが、背後の扉に目をやりながら若い男子に問いかける。その視線に合わせるように、男の子――《ファイアーヒューマンドロップ》のリーダーはぎこちなく頷いた。


 「え、えぇ……教室は今、ルカさんたちが出し物を担当してくれてます」


 「そ、良かった」


 安心したように微笑むその表情は、どこか作り物めいていて不自然だった。


 「で……話ってのは?」


 「ふふ。あの手紙を渡したのは私じゃないのよ。――ね、すひまる?」


 「え?」


 驚いたように、男の子はすひまるを振り返る。


 すひまるはうつむいたまま、小さな声で震えるように、


 「……ごめんなさい」


 と、ぽつり。


 「な、なにを……」


 「ほら、すひまる。アンタでも扱える相手を選んだんだから。早くしなさい?」


 「……はい」


 すひまるが顔を上げた。目は潤んで、けれど決意が宿っている。

 そのまま制服の上着を脱ぎ、スカートのまま立ち尽くすと――


 「す、すひまるさん? な、なんですか、それは――!」


 ぐにゃ、と音を立てるように変化する身体。

 背中からは破れた羽のようなコウモリの翼。腰からは二倍の長さの毒針付きのサソリの尾。

 肌は紫に染まり、唇の端から覗くのは鋭い犬歯だった。


 ――異形。


 少年は、咄嗟に扉に駆け寄ろうと背を向ける。


 しかし。


 「ッ……!?」


 扉の前にも、同じ姿の異形が立ちはだかっていた。


 「あなた達は……いったい……」


 その言葉が終わる前に――


 ぶすっ。


 すひまるの尻尾が男の背に突き刺さり、その場に倒れ込む。

 ぴくり、と一度痙攣して、意識は闇の中へ。


 「さ。出ておいで」


 その女の声と同時に、ひとつの個室の扉がカラリと開く。


 紫の球体のような存在――目も鼻もない、ただ鋭い牙と尻尾だけを持つその魔物が、ぬるりと出てきた。


 そして。


 「……」


 倒れた少年の首筋に牙を食い込ませ、血を吸う。


 みるみるうちにその姿が変わり――やがて、そこにはさっきの少年と寸分違わぬ姿の偽物が立っていた。


 「ありがとうございます、幹部様」


 「当然よ。すべては我らが【魔王アビ】様のために……」


 「……」


 すひまるは、倒れている少年をじっと見つめる。


 死んではいない。血を少し抜かれただけ。


 でも――心の何かが軋んだ。


 「こ、この人……は?」


 「はぁ? 他の人と同じよ。連れて行って食事作ってもらうの。今回は私が転移魔法陣まで運ぶから」


 「……」


 すひまるが沈黙すると、偽の少年――吸血鬼は耳打ちのように報告を始める。


 「ところで……実はさっきから気づいてましたか?他にも来客がいますよ」


 「ほう?」


 女幹部はわずかに眉を上げ、トイレの個室を見やる。


 「……鍵をかけても、無駄よ」






 ガチャリ。









 「あら。可愛い子ね」

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