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第302話 行かなきゃ悲しむ

 【今年の《モルノスクール》美少女コンテスト!優勝は――アドベンチャー科一年!アオイさんです!】


 「「「「おおおおおおおっ!!!」」」」


 【それでは優勝したアオイさん、ステージへどうぞ!】


 俺は、コスプレみたいなウェディングドレスをまといながら、体育館中央に設けられた階段を一段ずつ登っていく。


 暗がりに包まれた広い体育館。

 唯一、俺の姿を照らすスポットライトが眩しすぎて、足元さえ見えない。


 全方向から、熱気と視線が突き刺さってくる――。


 【ではアオイさん、皆さんに一言お願いします!】


 アリスト科の生徒が進行役を務めている。

 俺の声は、魔法によってマイクなしでも体育館中に響き渡る仕組みだ。


 (あ、あー……)


 思わずマイクテストのように言葉を漏らすと、それさえも体育館全体に響いた。


 「……う、嬉しいです。みんな、ありがとう」



 その瞬間、館内に響き渡る拍手と歓声。


 男達の叫び。どこからか聞こえる「結婚してくれー!」の声。


 ……どうして、こんなことになったのか。











 ――遡ること、一時間前。









 「美少女コンテストに?……なんで僕が?」


 教室では、俺が考案した《リアルこんがり肉作っちゃおう計画》が実行中。

 アドベンチャー科一年の教室は、ワイルドな肉と煙の香りで賑わっていて、そこそこ人も集まってきている。


 そんな中、すひまるさんが俺に話しかけてきた。


 「アオイさん、実は……その……美少女コンテストに出ていただけませんか?」


 ……え?美少女?俺、男だよ?


 「は、はは……冗談が上手いなぁ」


 「じょ、冗談じゃありません!」


 ――マジかよ!?


 しかも、俺の手を両手で包んで見上げてくるすひまるさん。目が真剣すぎる。


 「い、いやでも僕、店番もあるしね?」


 「む? 店なら大丈夫じゃ、足りてるのじゃ」


 ルカ、お前ってやつは……!


 「だ、だめですか……?」


 うっ……ションボリしてる、すひまるさん。

 このままじゃせっかく築いてきた友好関係が消し飛ぶ……!


 「わ、わかったよ。きっと予選で落ちちゃうかもだけど……(落ちる気満々)出てみるよ」


 「ほ、ほんとですか!? ありがとうございます!」


 うぅ……すひまるさんの笑顔が痛い……。

 それより、俺が美少女コンテストに出るなんて、頭痛が痛い……。


 「ル、ルカさんは……どうですか?」


 「ワシは興味ないからいいのじゃ」


 うおおおい!はっきり断りやがったぞこの野郎!


 「それにこの場所は誰にも譲らないのじゃ!」


 お前の仕事、ボタン押すだけだろぉぉぉおお!!


 「で、では、アオイさん、今から体育館へお願いします」


 「い、今から!?」


 「はい、あちらで準備があるかと。お店と連絡は私たちに任せてください」


 「わ、わかった……じゃあ行ってくるよ」


 「はい!」


 ……気が重い。足も重い。

 だけどそれ以上に、俺の心は地の底。深海の底。


 体育館へ向かう道中、誰も見てないのをいいことに、俺は小声でこう叫んだ――


 「僕は美少女コンテストは出ないよ!…………って、ハッキリ言えたらなぁ……」


 頼む……どうか予選落ちしてくれ俺ぇぇえええ!!!



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