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第304話 美少女コンテスト終了

 舞台裏にある個室で、俺はひとり……現実逃避中だった。


 {さぁ、次で最後の対決です!勝ち残ったのは……アオイさんと、生徒会長ー!}


 ……うん。

 俺は途中で落選するはずだったんだ。

 それなのに、どういうバグか気づけばファイナル……俺の人生、なんの冗談?


 「は、はは……」


 苦笑いしか出てこない。


 {では、お二人は準備ができましたら、目の前の《転移魔法陣》からどうぞ!}


 「……はぁ……」


 大きなため息をひとつ。

 仕方なく転移魔法陣を踏むと——。


 ぱっ、と視界が開けた。


 生徒会長と並んで体育館の入り口に転移されていて、目の前には——


 ……真っ赤な絨毯。


 {最後の演目は……《ウェディングロード》!!}


 ……はい?


 {お二人には、このレッドカーペットの上を、会場中央まで歩いていただきます!

 そして皆さんには、既にお配りした《魔皮紙の投票札》で、どちらがより美しいかをご投票ください!}


 「「「うおおおおおおおお!!」」」


 ……お前ら、ちょっと落ち着け。

 なんでそんなテンションで拍手してんだ。

 おかしいだろ、俺は男だぞ!?


 「い、いこ……? 生徒会長……」


 「あ、あたりみゃえだ!」


 顔を真っ赤にしながら噛みつつも、堂々と返す生徒会長。

 うん、わかった。確信した。


 この人、《女の子らしい服》を着ると自動的にバグるタイプだ。

 普段キリッとした完璧超人だからこそのギャップが、会場の票をかっさらってるんだな……


 でもな……今の俺には、わかるんだ。


 この生徒会長、絶対アニメの世界から出てきた人間だ!!


 「……手、繋ぐ?」


 「う、うむっ……!」


 そっと差し出した手を、生徒会長は震えながら握ってきた。

 それが恥ずかしさなのか、緊張なのかは……俺にもわからない。


 けど——


 俺たちは、ゆっくりと歩き出す。


 真っ赤なカーペットの上。

 頭上からは花びらが舞って、左右からは歓声と拍手が降ってくる。


 まるで、本物の結婚式みたいな光景。




 …………いや、ちょっと待て?


 ……うん……これ、やっぱりおかしいよね?


 なんで俺が、女の子のゴールみたいな道、歩いてんの!?!?



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 と、いうわけで——。


 最初に戻るけど、はい。優勝、しちゃいました。


 ……え? 過程が短い?

 語れって? ……こっちは男で美少女コンテスト出てるんだよ!?

 もうこれ以上しゃべらせないでくれ……!


 {では、優勝者のアオイさんには優勝賞品、魔法の指輪をプレゼントしまーす!}


 ……もういらないから帰らせて……マジで。


 {そして、その指輪を渡してくれるのは……なんと!

 美男子コンテスト優勝者のこの方です!どうぞー!!}


 舞台裏から、ゆっくりと一人の男子生徒が現れた。


 「「「キャーーー!!こっち向いてー!!」」」


 女子達の黄色い歓声が轟く。

 マジか、こいつめっちゃ人気じゃん……。


 そして、俺の目の前まで来たその“王子様”は——


 ……ポケットから、指輪ケースを取り出した。


 おい、やめろ。

 それ、完全にプロポーズの構えだから。


 「アオイさん、優勝おめでとうございます。そして……」


 カチッと指輪のケースを開けながら——


 「ひとめぼれしました。どうか、僕と付き合ってください」


 「っ!?」


 頭が真っ白になる。

 いや、違う、白を通り越してスパークしてる。


 なんで男から告白されてんだ俺!?

 これ、完全にプロポーズ現場だろ!?


 でも俺が声にならないままフリーズしてるせいで、観客たちは——


 {おおっとー!? これはアオイさん、あまりの喜びで言葉が出ない!?}


 「「「うおおおおおおおおお!!」」」


 やめろ!盛り上がるな!!

 そうじゃない!違うんだって!!


 {なんという絵になるツーショット!これはもう、誰も異論はないでしょう!}


 うあああああああああああああ!!!

 変な流れを作るなあああ!!


 「……返事は、どうですか?」


 「え、えっと……」


 無理無理無理!この空気じゃ断れねぇ!!


 ——いや、待てよ。


 ……そうだ。こっちは“顔じゃない”って言ってたじゃん、あいつ。

 だったら、こっちだって“顔だけで決められたくない”って返してやれば——


 俺は、その指輪を手に取った。


 そして、全力でぶん投げた。


 カキーンッと体育館に響く音。


 {……!?}


 「「「…………??」」」


 会場が一瞬、凍りつく。


 その中で、俺は——堂々と言い放った。




 「顔で決める恋なんて、僕の恋じゃない!

 僕の恋は、僕が決めるんだよ!!」




 ——……沈黙。


 ……からの。


 「「「キャーーーーーー!!」」」

 「アオイさーん!つきあってくださーい!!」

 「抱いてー!!」

 「結婚してー!!」


 えっ、なんで!?


 その日から——俺は。


 男子からも、女子からも、学校中から——


 告白されるようになった。






 ……誰か、このカオスから、俺を救ってください。


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